21話:きらきらとギラギラって似てるけどなんだかギラギラって威圧感を感じちゃうよね?
サクラちゃんと桜の巨木を登っていく。
よじ登ってるわけじゃなくて桜の木に巻き付くヤドリギが上手いこと道と手綱のようになっていたんだよ?だから上にあがるのは割とらくちんだった。でもね!サクラちゃん!割と怖いよ?この木高さってビル三階分くらいはあるよ?手すりみたいにヤドリギさんがあるけど、また落ちたらあぶないよ?
「大丈夫です!割と慣れてますから!」
「慣れてるって……あ、屋根に穴が?一つ二つ、み……「早く登りましょう!うん!」
落ち過ぎじゃないかな?ジトっていたらさわやかな風が吹いた。……ピンク?あ、うん、見えてないんじゃないかな?レースはちょっと攻めてるなって思ったけど?
「うぅ、スパッツを履いていれば良かったです……」
「そこはズボンと言わない当たりそのネグリジェが気に入ってるんだなって」
「だって、着心地すごくいいんですもん!」
もんって顔が真っ赤なジトだったよ!うん、ネグリジェって寝間着だからしかたないね!きっとアラク姉さん作だろうしね!ふつうはこんな姿誰にも見られないしね?俺最近いつも見てる気がするけど!エロ可愛いな?
「と、兎も角、ピーターさんに見ていただきたかったのはこれです」
そこは桜の木のほぼてっぺんだった。上に伸びた木の枝とヤドリギが絡まりあい、ちょっとした部屋のようになっていた。そこからサクラちゃんに促されるように見上げる。
美しく光り散る桜の花は煌々と輝き、上を見上げると満天の星空がちりばめられていた。うん、綺麗だな!
「ここから見上げる空が私は大好きなんです。私が小さいころにお母さまに教えてもらった場所でして、あ、これお父様には秘密ですよ?」
唇に指をあててウインクなサクラちゃんは言う。
なるほど確かにすごい。チラチラと輝く桜の花びらと気相違合うように星々はきらきらと瞬き、三つの月が明るく世界を照らす。
荘厳でいて、儚く、まるで絵画のような美しい景色だった。なんだか胸に来るものを感じるんだよ。
「いつかお母さまに言われたんです。何か悲しいことや辛いことがあればここに来なさいって。この景色を見ればそんなことどうでもよくなっちゃうからって。だからいつもここに来るんです。ここに来ればお母さまにまた逢える。そんな気がして」
見上げるサクラちゃんをそっと見る。目には小さいながらも涙が見て取れた。きっとこの子も辛い思いをたくさんして来たんだよ。それでも前に進んでいるんだ。自分の力に振り回されながらも、それでも誰かのために何かを作っている。考えている。嫌われても、怖がられても、都合のいい力の象徴のように思われてでも。彼女は前に進んでいるんだ。俺なんか見たいにいじけてどうでもよくなんてなっていない。なんて強くて綺麗なんだろう。
「……サクラちゃん、ありがとね。元気づけてくれて」
「いいんです。私……ピーターさんが来てくれてからすごく救われているんですから」
そっと彼女の掌が俺の手に重ねられる。少し冷たく、やわらかい。
「貴方がただ普通に接してくれるだけで私は幸せなんです。話してくれるだけで、傍にいてくれるだけで、笑顔で私に微笑みかけてくれるだけで」
ちがうよ?それは勘違いなんだよ?俺なんかが傍にいても君はきっと幸せになれないからね?ただ君の目を見ても何ともないだけなんだよ?それだけだよ?
「……やはり私のこと気づかれていたんですね。でも、関係ないです。あの日、あの時、私をギュッてしてくれた時、貴方に出会えたあの日に私は――」
駄目だ、それ以上はダメだ。俺にはきっとその資格は無いんだよ?強くもないし、君を守れるかもわからない。迷ってばかりでダメダメで、大切で大事な約束も命を懸けてでも死んででも護りたかった妹すら護れなかった。それに、君に名前だってちゃんと――
「恋に落ちたんですから」
桜の花がきらきらと煌きながら舞い降りていく。白くてきれいなサクラちゃんの髪がその風に乗って美しく揺れた。
ギュウと握られた手に少し力がこもるのを感じる。
どれほどまでにこの子が勇気を出してこの言葉を紡ぎだしただろう?きっと断られるなんてわかっている。彼女にとって俺はただのバトラーでしかない。そんな俺に好きだと言ってくれたのだ。
――魔王たちが彼女を求めて殺しあう。そんな武闘会があるのをこの子は知っている。それでも俺が好きだと言ってくれたのだ。
一緒に逃げることは叶わない。――魔王たちが血眼で追ってくるだろうから。
逃げたとしてもこの子を幸せになんてできやしない。――逃げきれても彼女の目が彼女を傷つけてしまう。
そもそも、俺なんかが子の事釣り合うだなんて思えない。――大事なものを守れないのに彼女を護れる筈もない。
「ごめん、サクラちゃん。俺には勇気がまだ足りない。君と共に歩きたい。ただ、まだ足りてないんだ」
自分の無力さをこれほどまでに感じたことは無い。今の俺にこの子の言葉に答えるだけの勇気がない。支えられる勇気もない。彼女と共に歩む勇気すらも足りていなかった。
「いいんです。この気持ちを知っていてくだされば私は幸せですから」
幻想的な、本当に夢のようなひと時は終わりを告げた。
――俺はこの日以来、彼女の部屋を訪れることは無くなった。