2話:空腹は最高のスパイスっていうけど限度はあるよね?
目を開くと見知った場所……というかさっきと同じ場所にいた。
ううん、焦げ臭い。しかもなんだか騒がしいよ!
起き上がって見回すと、青い肌の男に、角の生えたおっさん、犬耳の女の子やら、俺の膝くらいしかないおっさんとかがうろうろとしている。どうやら焼け焦げたこの部屋の修繕をしているらしい。
「おお勇者よ!死んでしまうとは情けない!」
声の方へ振り向くと、焦げた石畳の上で何故か正座をさせられている大魔王がいた。
……いやいや、なんで大魔王が正座させられてるのかな!?
「はぁぁ……。情けない、ではありません!なぜ何度も何度も何度も何度も言ってもわからないのですか!室内で大規模魔法をするときは事前に連絡をするか結界を強化して貼ってくださいと、あれほど言っていたではありませんか!」
声を荒げているのは、大魔王を正座させている眼鏡をかけた金髪なお姉さん。スタイルもよく、かなりの美人さんである。まぁ、着ているのは黒い甲冑とか物々しいけれども。
「そうは言ってもだな?こう、大魔王としてだな?勇者が来たのだから、余は全身全霊で――」
「全霊で戦うのであれば普通の剣で十分でしょう!相手が複数人いるならまだしも!たった一人!しかも剣も杖も武器らしい武器は持っていないではありませんか!!」
「……あれ、そうだっけ?」
うん、丸腰だよ俺。お札と十徳ナイフはもってるけどね!と俺がコクコクとうなずくと、更に眼鏡のお姉さんのお説教の声が更に大きくなっていく。
「い、いやね?久々に勇者が来たものだからこう、張り切るじゃない?」
「じゃない?ではありません!まったく大魔王様はいつもいつも!!」
お姉さんの言葉に大魔王はさらに小さくなっていく。なんとも不憫な……。
絶望的で圧倒的で破滅的な力を持っていた大魔王が、まるで不倫がばれて奥さんに叱られる旦那さんのようだ。……なんだかいい気味なのでこのままそっとしておくとしよう!
大広間と言う名の大魔王のお食事処。
どうやらお昼時だったらしく、おもてなしをしてくれるとの事で御馳走になることにした。
メイドさんたちがいそいそと配膳をしてくれたのは肉じゃがにお浸しに味噌汁に白米にたくあんであった。ううん、飴色の里芋の煮っころがしがホクホクとして美味しそうだ!
……あれ?おかしい。異世界だというのに目の前に並べられているのはどこからどう見ても和食である。うん、和食だよコレ!
「だ教授、これはいったい!」
「第五の力だよ、勇者!」
な、なんだってー!って、つまり!……どゆこと?と、俺は首を傾げる。
「こほん、以前からこの世界には勇者が来訪しており、自らの世界のモノを再現したものや持ち込まれたモノが多くあるのです」
なるほどなー。流石眼鏡のお姉さんこと大公で魔人将軍のアリステラさんである。なんでも大魔王四天王の一人らしく、とっても強くて偉い人なのだそうだ。美人で眼鏡で金髪で、更に強くて仕事もできるとは完璧超人さんなのかな?
「まったく、アリスは知ったかぶる。実はだな、異世界から直接仕入れてるものもあるんだぞ。種とか種とか?」
大魔王の言葉に驚く。つまりそれは……。
「交易は多少ありますが、あちらの世界とこちらの世界を行き来することはできません」
「その心は?」
「門が小さいんです。開いたとして直径三十センチほど。しかもその異界の門を開くには莫大な力が必要でして……」
三十センチというとぎりぎり頭が通るかと言ったところだろう。
うん、頭だけこんにちわした瞬間に首が飛びそうだ!
「まぁ、ネットをするには不便しないんだけどね!」
「……大魔王様。まさかまたネトゲというものを!?」
「し、してないよ?また、とか罪を数えないで!やってもブラウザゲーだよ!頑張らないと猫るけど」
「ね、ねこ……?」
どう見てもおっさんなのにゲームやってるんだなぁ。というか特撮も見てる?
…… …… ……。
「タカ!」
「トラ!」
「バッタ!!」
「「タットバ!タトバタットバッ!!」」
互いに手を握り、握りなおして、拳を合わせ、グーとグーで上下にぶつけ合う。これぞユウジョウ!
「俺の名前は水無瀬真人。勇者じゃなくて真人と呼んでくれ」
「ああ、わかった真人。余は大魔王グリム。もちろん呼び捨てで構わんぞ、友よ!」
手を握り合ったまま互いに笑いあう。ああ、俺は異世界に友を見つけることができたんだ!
「死合っていたのになんで仲良くなってるんですか……」
なんでかアリステラさんが頭を抱えていた。フシギダナー?
「まぁ、それは置いといてだ。先ほど余が言っていたことは忘れてはおらんな?」
「え、何の話?」
大魔王の言葉に首をかしげる。……もしかして、おかわりは二回までと言う話だろうか?
死ぬ前も丸二日くらいまともな食べ物を食べてないから、できれば、その……四杯まではどうにか勘弁してほしいかなって……。ダメかな?
「いや、そうではなく娘の婚約者の候補にする、と言う話だ」
あくまで候補どまりなのね、と箸を止めることなく疑問を投げてみる。
「まぁ、流石に余の一存だけでは決められんでの。候補者を集めて舞踏会で決闘をしてもらうと思っておるのだ。ふふふ、まさに魔王たちによるバトルロワイヤル!戦わなければ結婚できぬのだ!」
詰まるところ、娘の婚約者にふさわしい男かどうかふるいにかけるために候補たちを戦わせるつもりらしい。しかも候補はみんな各地の魔王たち。どう考えても俺の入る余地なんて無い気がする!
「うん、こんなにもお断りしたい気持ちは初めてです……」
「えー」
いやいや、それって舞踏会って可愛らしいものじゃなくて武闘会って書く荒々しい何かじゃあないのかな!しかも魔王だらけの蟲毒に放り込まれるのってとっても勘弁して欲しいかなって!死んじゃうって!どう考えても俺死んじゃうから!
まだ逢ったこともない女の子のために命はかけられないかなって!
「むぅ、そうか?ならば保留という事にしておこう。ああ、余に傷を付けれたから約束通りメイドを付けよう。アリス、任せる」
「はぁ、まったく……。それではロベリア。彼に使えなさい」
「かしこまりました。真人様、よろしくお願いします」
そう言って頭を下げたのは藍色のショートボブのロリっ娘メイドさんだった。うん、可愛いな!
「それじゃあその、よきに計らえ?」
ジト目だよこのちみっこメイドさん!かなりの美少女さんなのに、ジト目だよ!はい、ありがとうございます!
「しかし、真人よ。おぬし金はあるのか?」
大魔王に言われてポッケの中をひっくり返してみる。
「ええと。うーん……ななひゃくごじゅうさんえん……?」
「ナゴさんは!」
「「最高です!!」」
なんだか周りのメイドさんたちとアリステラさんの視線が痛いけど、これはこれでいいことにしよう。こういうノリって人の目を気にしたら負けなんだよ?
「だが、すまぬな。このお金はこちらの世界だと使えぬのだ……」
「明日のパンツすら買えねぇのか……」
ガックリと肩を落として、頭を抱える。
どうしよう、最悪ここで働かせてもらうしかないんだけど、無理なら……仕方ない野生に帰るか。この可愛いメイドさん連れて。ううん、密林はこの世界にあるかな?
「裏に森はありますが狩猟はしないでくださいね?」
アリステラさんに呆れた顔で注意されてしまった。
なんてこった!あとは……釣りか!川はあるかな?最悪沼でもため池でも良いんだよ!
「釣りもダメです!はぁ……。わかりました。しばらくの間だけこの城で働くことを許可します。ロベリア、真人さんをメイド長のところへ連れて行ってください。あとは彼女がとりなしてくれるでしょう」
「かしこまりました。それではご案内いたします。真人さま、こちらへどうぞ」
ロベリアちゃんは入口の方へと手を差し出す。
でも、ちょっとだけ待って欲しいんだ。
「ええと、ごめん。もうちょっとご飯食べていいです?」
「ど、どうぞ?」
ロベリアちゃんがまだ食べるの?という顔でそう言ってくれた。
ごめんね、ロベリアちゃん。本当におなかと背中がくっついちゃいそうなんだよ!
何日もご飯を食べてなくって空腹だけで死にそうだったからね!
ああ!この肉じゃが!ジャガイモにしっかりと味が染みてる!美味しっ!美味しっ!
2020/3/2修正・加筆しております。内容は変わってないでs( ˘ω˘)スヤァ