19話:生きてる意味はって聞かれて妹と言ったらドシスコンと言われたけど普通だよね?
何とも言えない幸せな時間というものはあっという間に過ぎ去るものだ。
帰ってのんびりしようと部屋に入ったら大魔王の間だったよ!やぁ?じゃないよ?なんで俺の部屋と大魔王の間をつなげてるのかな?馬鹿なの?アホなの?
「いや、ちょっと試したい技があって?」
「シュワっと弾けるのかー。はじけ飛ぶの!?」
「さぁ、実験を始めよう!まず、空間を圧縮します」
バカかな?馬鹿だよね?お馬鹿さぁんだよね?実際にやってみた!じゃないんだよ?やってできる技じゃないよね?やめようか?やめようね?やめ、やめぇえええあ、うぁあああできてるううううううう?しゅわしゅわわ?
いつものオタ部屋でカートなゲームでブインブインのスターなテレテレしながら爆走でぶっ飛ばす。目の前のモヒカンな魔王な亀も吹っ飛ばす!
「あああああ!先頭を奪い返された!?こ、こなろ!緑甲羅じゃ!!」
「で、何?話があるなら殺さずに話してほしかったなー。シュワシュワだったよ?おっと危ない赤甲羅!」
「ぎゃああ!またぶっ飛ばされた!?く、このヒゲ配管工め!ひゅうぃごーしてるんじゃあない!まぁ、アレだ。オウカの事だよ」
「何?魔王さん達が集まってきててやっぱり結婚させたくなくてお父さん心な微妙な気持ちで今更に悩みだしてるの?あ、サンダーだ。えーい」
「んごおおお!くそ、こなろ!その気持ちもあるが、いかんせん権力やら余との繋がりとやらを優先に考える魔王が多くてな。あとは……聖剣か?あんなのただの硬くて丈夫な剣なだけのガラクタなのにのぅ。よし、抜き返したっ」
「そんなあなたにトゲさまです」
「があああ!またか!なんでお前のところにばかり良いアイテムが!!」
「はっはっはー。って聖剣?なんで大魔王城にそんなのがあるのよ?あ、奥さんの?」
桜を知っているとなれば異世界人。異世界人と言う事は大魔王の奥さんは勇者と言う事だ。
「そうだ、余の妻は勇者であった。気高く、美しく、強くて……ちょっぴり恐妻家だったかの」
なんだか懐かしいような寂しいような顔で大魔王ははにかんだ。その間にゴールしたよ?
「あ、こら!気をそらしたな!ずるいぞ真人ぉおお!」
「ははは、集中力を切らせるのが悪いのだよ」
ぐぬぬと睨みつけているが怖くないぞー!ボコは怖いけどゲームでは負ける気がしない……筈?
「あれ?そうなるとサクラちゃんて大魔王と勇者の娘ってこと?」
「左様。あ奴には二つの血が流れておる。そのせいかわからんが、余が生まれたころから制御できた魔眼が十六の年月が経っても未だ制御できておらん。全くもって困ったものよ」
「ふぅん、でも結婚させるんでしょ?」
「ああ、目を見てもせめて死なぬ者をと思うてな」
「確かにもったいないもんねーあんなに綺麗な金色の目をしてるんだし。というか普通に美人さん?」
「そうそう、我妻に似て美人でな。どうだ?嫁に欲しいとは思わんか?」
え?うーん、確かにあんなに可愛くて頑張り屋さんなお嫁さんなら欲しいけどそういうのってサクラちゃんの気持ち次第じゃあないのかな?
「婚約者にしてしまえば関係ないぞ?余のように目を見て全く何ともない者は今まででお主くらいだからの?」
「んんん?ねぇ、大魔王のグリムさんや?どこまで視てたのかな?」
「ふふふ、全部だぞ?この城の中の事なら何でも見えるからのぅ。ああ一つだけ言っておかぬとな?」
なんだかものすごくとてつもなく嫌な予感しかしないと第六感あたりが叫んでるけど何かなー?聞きたくないぞー?え、言うの?
「昨晩はお楽しみでしたね?」
「んぅおあああああああああああ!!???ちょ、まままままて、待とうか!違うんだ!違うんだよ?あれはね?事故でというかね?毒でね?助けるためで?チューじゃないとねないとダメダメでヤバかったんだって!わかってて言ってるよね!!!?」
「はっはっはっは」
くそう、くそう……!笑ってやがるよこのおっさん!絶対全部わかって言ってやがるぅう!
「もっともあの娘はお主のメイドであるし、好きにして構わんのだがな」
「する気は無いよ?あの子にはあの子の人生あるからね?」
「初ちゅーを超情熱的に奪っておいて何を言うか」
んんん!ノーカン!ノーカン!ノーカンだから!俺ごときのチューはノーカンだから!!救命措置?だったし!イッツオーライ?どぅーゆーあんだすたん!?
「はいはい言っておれ。それは兎も角、真人がオウカと懇ろとはいかずとも仲良くなっておるのは知っておる。実力も余の折り紙付きだ。まぁ、他の者を納得させるためにも今度の武闘会に出て貰う必要があるが……」
「そのつもりはないよ?俺は向こうに帰るつもりだし。流石に連れて行けないでしょ?」
そう、俺は帰らないといけない。帰れなければ死ななければならない。そうでなければ妹が死んでしまう。死なせてしまう。だから帰るんだよ?死にたくはないから――
「無理だな」
「無理を通す」
「できぬ」
「それでもやる」
「……できなかったのだ」
苦虫をかみつぶしたような顔でグリムは言った。
「まず、お前はもう死んでいる」
「ひでぶ?」
「北斗百裂拳!!ではなく、まじめな話だ。あちらの世界で死んだからこそこちらの世界に命を与えられ、肉体を甦らされたのだ。それはレコーダーに記録しては再生を繰り替えすようなものでなそのレコーダー自体をあちらの世界から移されてしまったのだ。だから今のお前があちらの世界とのゲートに手を通したところで通ることはまかりならん。通り抜けた先から消失してしまう」
「奥さんが?」
「ああ、開いたゲートに笑顔でな。あれは知っておったのだ。帰ることはできないと。それでも帰りたいと願っていた。だから潜り抜けてしまった」
そして消えてしまった。止める間もなく。別れの言葉もなく。ただ、そのゲートを抜けてしまった。
「……それで、死ねたと思う?」
「恐らくはあちらの世界とこちらの世界のはざまに今もまだいるのだろう。あの糞神共の仕掛けた勇者向けの罠だろうしな。ただ、意識はあるかわからぬ。無くなってくれていればどれだけ幸いか」
ゲートは通れない。通ればハザマに取り込まれ、恐らく二度と出てこれる事は無い。それは限りなく死に近い永遠。死ぬこともできない勇者と言う存在はそのハザマに死ぬことなく取り残されてしまう訳だ。うん、これでは死ねない……。
「……勇者が死ぬ方法はあるのかい?」
「魂になって今一度輪廻の輪に戻ることは叶わん。封印されて眠りにつくか、魂が砕け散るか、精神が壊れるくらいだの」
戻ることも、できない。死ぬことも、できない。見つけるにはどれほどの時間がかかるだろう?それまでに妹は生きていられるのだろうか?いや、それよりも俺が死んでいったいどれほどの時が流れている?
「お主の名前……フルネームで水無瀬真人と言ったか?」
「そうだけど、何?」
「いや、何だ。あちらの世界のネットは使えるから調べておったのだ」
すっかり忘れていたよ!この大魔王引きこもってネトゲというかブラウザゲーやってる引きこもりオタクだったよ!!そう、調べてもらえばいいのだ引きこもり大魔王に!簡単だな?
「ひ、引きこもりは余計だ!それで、このネットニュースなのだが」
薄い画面に映された、面白おかしく書いている記事の中、トップニュースでその記事はあった。
『大企業、水無瀬財閥の御曹司謎の死に続き、火事で御令嬢の焼死体らしき遺体発見!失墜する水無瀬財閥に追い打ちか?』
「これはお主とお主の妹のことであろう?」
――死んでいた。
確かに俺は死んでいた。あの冬山で、妹を背負ったまま。
――でもそんなことはどうでも良かった。
焼死体。
遺体発見。
俺の妹は、俺の命より大事な真央は、俺が帰る前に、死ぬ前に、死んでしまっていた。
どうやら俺は帰る意味も生きる意味すらもなくなってしまっていたらしかった。悲しいな!……悲しいな。
ほのぼの!