挿話:不器用なウサギとぶっきらぼうな狼6
こぶしを握るは何がためか?
怒りに任せて振るうためか?
それとも、愛する誰かを護るためか?
或いは、己が矜持を護るためか?
「うん、何はともあれとりあえず。当たらなければどうと言う事は無いかなって?」
「ああ糞マジで当たんねぇ!人間の動きしてねーぞ!」
朝起きて、顔を真っ赤にして脱兎のごとくどこかへと行ってしまったミウを見送っていの一番に執務室へと殴り込みをかけた。が、拳がマジで全然当たんねぇ!自棄になって蹴ってみたら俺の足の上に立ちやがったし……。
「まず誤解を解きたいけどその前にまず一言、テンプレだし言っておかないといけないから言っておくよ」
「な、なんだよ」
「昨日はお楽しみでしたねぅあ、危ないな!モノを投げるのは危ないよ!あとやめて!片付けるの俺だからね!?」
「お前だろ!絶対お前があんなことしたんだろこんにゃろう!」
事情を知っていて、あんな悪戯をする奴なんて一人しかいねぇ!というか今自白したし!ああ糞!、なんで剣も当たんねーんだ!
「ここはペンを振るう場所で剣を振る場所じゃないんだよ!うん、マジで誤解だからね?女の子をひん剥いて抱き枕に仕立てるだなんて女の子にしかできないよ!だから俺じゃない!まぁ、鍵のかかった部屋のベッドに寝転が下のは俺だけど、俺は悪くねぇ!全部くっころ勇者娘たちがやれって言ったんだ!」
「どちらにせよ真人がかかわってんじゃねーか!とりあえず!何か、ひとこと!あるだろうが!」
剣を振るい、舞うように机を、壁をグルグルと回りながら真人に幾重もの剣線を浴びせていくがその総てを必要最低限の動きで見切られ、躱されていく。ああ、糞!マジでなんでこんなに無駄に強いんだよ、こいつは!
「んん、気が済むまでケロさんに付き合いたいところだけど、俺早くお仕事終わらせてサクラちゃんのところに帰りたいのよね?だから、また後でね!」
くるんと不意に投げられた。
自分でもいつ投げられたかわからない程に自然に、気が付いたら扉の外に投げ出されていた。それと同時にギィと扉が閉まった。
「だー!勝てねぇ……」
廊下に大の字になって寝転がる。
結局のところ、これは八つ当たりだ。真人がやったことには変わりないが、きっとそれは勇者三人娘とミウが話をして、その流れで俺の部屋のベッドに抱き枕になって寝転がる、なんてことになったのだろう。
いや、うん、何がどうなってそうすることになったのかがもの至極気になるところではるけどな!あれか?既成事実さえ作れば勝利って事だったのか?そういえば、真人の奴が昨晩はお楽しみだったね、と……。つまり、そういう事か?俺がミウにワオンと襲い掛かるようにしていたのか?よくよく考えてみれば確かに据え膳と言うやつなのだろうけど、いやいや俺とミウの年齢差を考えろよ!というか、ミウの奴が俺の事を好きだなんてこと、ある訳が……。
「はぁ、我が兄ながらに情けないですね」
誰かと思えば妹のパティがいた。いつの間に就職したのか、今は玲の補佐として働いているらしい。
「……なんだ、お前か。あと見えてるぞぶぇ」
顔を思い切り踏まれた。何も踏むことはないだろ!踏むことは!ちなみに見えたのはピンクだった。あんな下着いつの間に買って……とつぶやいたところで二度踏みされた。うん、いい加減痛いからな!
「まったく、兄さんに見せるためにはいてる訳じゃないんですから」
「誰に見せるつもりだよ、誰に。玲には見せるなよ?刺激が強すぎるからな」
「………………プイ」
「顔を逸らすな!はぁ、なんでそんな年下に恋してやがるんだよ……」
思わず俺は頭を抱える。
玲は背も低く、顔立ちも幼い。性別はどちらか?と聞かれたらわからないくらいに中性的な子だ。勇者はこちらの世界で年齢をとらないが、玲は転移して来たばかりらしくほぼ見た目の年齢とのこと。どうやらその十歳ほどの男の子に我が妹様は恋をしているらしい。うん、お前確か今年で十七だったよな?七つも差があるんだぞ!おま、お前どうなんだそこのところ!
「うん、林檎さんのいた世界にいい言葉があるの!」
「いい言葉?」
「恋に!年齢は関係ないんですって!」
「関係あるわ!玲をよく見ろ!あいつお前の胸位までしか身長ねーんだぞ!それでもいいのかよ!」
「可愛くていいじゃないですか!それなのに勇敢だし、頭もいいし、優しいんですよ!」
「そうじゃねーだろ!そうじゃなくてだな、将来とかどうすんだよ!」
「玲君、頭いいからこのお城で文官として働くんでしょ?安泰だよ!安泰!」
確かにその通りだ。玲は頭も良くて、実力もある。下手な奴よりは信頼ができる男ではあるが、いかんせん幼過ぎる。うん、どう考えても子供だぞ!
「でも兄さんだって昨日ミウちゃんと……」
「……ん?待て、なんでお前がそのことを知っている?」
そう、俺はいの一番で執務室を襲撃している。そして、ミウが逃げたのは勇者三人娘の部屋。詰まるところ、パティが知る術は無いはずなのだ。たった一つ、その勇者三人組と一緒にいた、と言う可能性を除いては。
「フフフ、ナンノコトデショウカ」
真実はいつも一つ!犯人はこいつだ!!
「思い切り棒読みになってるんじゃねーか!そういえばなんで真人が俺の部屋に入れんだって思ってたが、お前か!お前が俺の部屋の鍵を開けたのか!ええい、なんでこんなとしやがった!」
「だって、兄さんいつまでたっても結婚しないじゃないですか。兵の仕事を解雇されて村に戻ってからお見合いの話なんて山ほどあったのに全部断っちゃいましたし?」
「アレは仕事もないのに養えるわけ無いからだからな?」
「工場で働いていても女の影もなかったって話だし?」
「うん、命がいつ消えるかもわからないところで妻なんて作れると思うか?」
「だから、お兄ちゃんが最近知り合って、一番目がありそうだったミウちゃんをむいて包んでプレゼントしました!」
しました、じゃねぇ!ゲンコツ一閃!
「いったあああい!何するんですか、兄さん!」
「何するんですか、ってお前わかって言ってんのか!なんでうちの事情にミウを巻き込ん出るんだよ!あいつはな、色々と大変なときなんだぞ!なのに――」
「だからこそです。今ミウちゃんに必要なのは支えてくれる人なんですよ?そもそもな話、兄さんと一緒に居るのが嫌だったら、服だけもらってすたこらと出ていってます」
「んぐ」
「まだ兄さんが信じられていないようですから、私から言っておきます。ミウさんは兄さんの事、一人の男の人として愛してますよ?」
それを聞いて俺にどうしろというのだ、妹よ。
「結婚、ですね。そうすればふふ、私と玲君との仲もなし崩し的に認めて……」
「認めねぇよ!?」
「なんでですか!兄さんとミウちゃんは十歳差!私と玲君は七歳差!ほら、兄さんとミウさんの方が年齢が離れていますよ!」
「だから!今の年齢!玲の年齢を考えろ!!」
えーとパティは未だに納得する様子はない。うん、おばば様。どこをどうしてどう間違ってこいつはこうなってしまったんだ!
俺はまた廊下で頭を抱えたのであった……。
遅くなりました。




