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勇者だけど大魔王城で執事やってます。え、チートってもらえるものなの?  作者: 黒丸オコジョ
第二章:古代なロボと勇者な執事。ロマンだっ!
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37話:飛んで火にいる夏の虫というけど夏じゃなくても虫は火に飛び込んでくるよね?

 取り返しのつかないことをした。やってはいけないことをしてしまった。だから私はひたすら走る。走って奔って、私を取り戻してくれたあの人のために私は走る。


「――とか思うて気負うてるんやないん?いつもより鬼気迫るー感じがするえ?鬼だけに?」

「鬼は椿さんですよね!?というか、そんな詩的なことなんて考える余裕も暇もありません!うひゃあ!羽虫が!羽虫が!」


 兎も角私はひた走る。心を軽く読まれたみたいでびっくりだけど、それでも私はひた走る!虫をダガーで切って潰して、全力全速全開で、目標地点は一つは越えて、残るところはあと一つ!あの人が任せてくれたのだから、私はやるのだ!やらねば、やれぬ!


「んふふ、まるでワンコやなぁ。大好きなご主人のためにいっしょーけんめー走ってボールを取ってくる」

「ワンコじゃなくてにゃんこです!って、なんか違いますけど!ともかく犬じゃないです!」

「でも真人はんのこと好きになったんやろ?」


 虫にけつまずいてにゃんぱらり、空中三回転でなんとかかんとか立て直す。あ、危ない危ない、何という事を言うのだろうかこの人は!私はただ真人様に恩を感じているだけなの。いつも優しくてノリも良くて話も確かに面白い。自分を取り戻す前も、なんだかいい人だなと感じていたのは確かだ。だけど、けれども、それで好きかどうかという話になると話がまるで違ってくる。命の恩人で心の恩人だけど、あの人には好きな人がいて、その好きな人と結ばれる運命。だのに私がその彼と結ばれるなんて……。


「んん、確かに正妻は確かに難しいかもしれへんなぁ。姫様と真人はん、はためから見てもラブラブやしなぁ。……でも側室なら行けるんとちゃうか?」


 その言葉に思わず固まる。片手でジャイアントピア(でかいダンゴムシ)の甲殻を砕きつつ。

 確かに。側室ならば、あるいは……?そういえばオウカ姫様はいつも言っている。正妻が私だったらそれでいい、と。一番が私ならそれで、と。な、なら、二番目……さ、三番でも彼の恋人に……。


「おやおや、まんざらでもなさそうやなぁ」

「にゃ、にゃにを!?」


 長刀をくるりクルリと繰り回し、蹴散らしながら椿さんはニヤリと笑う。黒くて長い髪も相まって絵の様に美しい。というか、スタイルがすごくいいからサテラさんから支給された黒のボディスーツの着こなしがとてつもなく艶めかしい。うん、私は着なくてよかった……。絶対自信なくしちゃうからね!


「ふふ、はよーせんと二番目だけやのーて三番目も取られてまうで?ロベリアちゃんと苺ちゃんは確実に狙っとるやろーし、林檎はんや夏凛はんもなんやかんや言いながら彼の事をいつも意識しとるからなぁ。サテラはんももしかしたら……」


 ライバルが多すぎる!多過ぎますよ椿さん!


「そこはお姉さんに任せときー!くふ、ちゃーんといい場所とタイミングを用意したるからな」


 にっこりと満面の笑みで椿さんが自分の大きな胸を叩く。

 あれ?これ面白がられて遊ばれてない?遊ぶ気じゃないですよね?他に被害者出ていそうな気がしないでもないですけど、気のせいですよね?

 タンタンタンと景気よく虫達の頭を踏み砕きながらちらりと椿さんの顔を覗き見る。うん、ニンマリ笑ってるよこの人!


「大丈夫、大丈夫椿姉さんを信じぃ。まぁ、そのうちにうちも参戦するかもしれへんから、早いに越したことはあらへんのやで?」

「ぶふっ!?」


 藪から棒に何を言い出すのだろうかこの人は!?人の恋を応援すると言いながら、じ、自分もその中に入るかもしれないって!

 

「だってなぁ、兄様が真人はんがすっごい良い人やから頑張って落とせー言うてるんやもん。うちかて最初は物見遊山な気分で、しばらく姫騎士しながら真人さんがどない人か見極めよう思うてたんやけど、昨日の今日であない格好いい所見せられるとは思うてへんかったからなぁ」


 確かに格好良かった!毅然と巨大なロボ――と言うよりも四天王であるサテラ様――に挑みかかる姿はとっても格好良かった!だけど、それでなんて……。


「まぁ、まだ保留やけどな。流石の私もそれだけで決めれるほど軽い女やないわぁ」

「でも、興味があるから好きかも、にランクが上がったんですよね?」

「そ、それはまぁ、あれや!これからの真人はんの頑張りに期待ってとこやな!」


 椿さんが視線を泳がせている。小さくてかわいい角もなんだかほんのり赤い気がする!もう半落ちしてるんじゃないのかな!


「っと、ほらあそこが目標点や!これでうちらのお仕事も終わりやな!」

「ごまかした!絶対にごまかしましたよ!」


 そんなことあらへんてと言いながら作業をする椿さん。はんなりした雰囲気で顔を真っ赤にしている。うぅ、美人な椿さんがその顔をするのはずるいと思う。美人度が増してるよ!


「ところで、真人様たちが死に物狂いで頑張ってるのに私たちこんなにのんびりでいいんですかね?」

「ええんとちゃう?気にしたら負けやで?」


 椿さんが走りながら放った鬼火は虫たちの誘蛾灯となり、集うように群がりながら炎へと突進していって、私たちが相手をしていたのはそこからはぐれた数匹ぐらいだった。


「飛んで火にいる夏の虫ーいうことわざが向こうの世界にあるらしいんやけど、そのことわざどおりやなぁ」


 うん、相手が悪かったのかもしれない。地獄の炎とも言われる鬼火は虫たちが寄ってたかっても消えることなくゆらゆらと燃え続け、次々にこんがりと焼いて行っている。……あれ、山火事にならないのかな?


「そこは……うん、そろそろ逃げよか!」

「あ、何も考えてなかったんだ!何も考えてなかったんですね椿さん!」


 ダッシュで元来た道を引き返す椿さんを私も慌てて追いかける。わぁ、よく燃えてるなー。うふふ?


 ……にげろー!にゃー!

遅くなりました。

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