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無能と呼ばれた俺、4つの力を得る  作者: 松村道彦
第3章:命を懸けなければ

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第89話:刹那

 

 そう語るゼノの背後に、ロードはソロモンの力で転移すると、そのままブリューナクによる突きを放つ。

 しかし、ゼノが持つつるぎが形を変え、まるで絡みつくように彼の背部を覆い隠してそれを弾くと、ロードを見もしないまま繰り出したゼノの蹴りが、彼の鳩尾みぞおちを確実に捉えていた。


「がッ───」


 その凄まじい威力に耐え切れず、ロードは遥か後方へと吹き飛ばされ、レヴィの横を通り過ぎて、再び壁に叩きつけられた。


「ぐっ……あ……!」


「クックックッ……言った筈だがな。速かろうが消えようが、殺気を消さねば意味が無い。冷静を装ってはいるが、貴様の殺気が余には手に取るように分かる。それにこうすれば……」


 ゼノは、魔力を弾に変えてレヴィに放つ。


「ッ!」


 ロードはそれを寸前で弾くが、瞬間ゼノの拳が再びその鳩尾に叩き込まれた。


「が……はっ……!」


「これが人間の脆さよ……!」


 そのまま前蹴りで吹き飛ばされたロードは、レヴィにぶつかりそうになるのをタラリアで持ち堪え、鎖に縛られる彼女の前で再びブリューナクを構えた。

 改めて力の差をまざまざと見せつけられたロードの心に、ほんの僅かに恐怖という感情が顔を出す。

 決してゼノを侮っていた訳ではない。

 だが、魔王ゼノはその想像を遥かに超えた力を有していた。

 打ち抜かれた身体が軋み、鈍い痛みがそれを告げていた。


「………………様……」


 突然背後から聞こえたその声に、ロードは振り返りそうになるのを必死で抑えた。

 今はまだ振り向けない。

 振り向けば、それで全てが終わってしまう。


「……十分だ」


 それは本当に消え入る様な声であったが、それでもロードの全身に力が漲る。

 それと同時に、今自分がなんの為に戦っているかを彼は改めて自覚した。

 自分はゼノを殺す為に戦っている訳ではなく、彼女を救う為に戦っているのだと。


「ほう……これはこれは。まさか口を開くとはな。いかにゴミの様な木屑であれ、消えかけた火にとっては燃料に変わりないということかな? フハハハハ!」


「笑えばいい……」


「……ん?」


「確かに、あんたにとって俺はゴミみたいなものなんだろう。けどな……」


 瞬間ロードは消える。


「ちっ!」


 ロードの振るったブリューナクの切先が、ゼノの髪を掠める。

 この一瞬で、果たして彼の心境にどんな変化があったのか、それはゼノには分からなかったが、殺気は別の何かによって覆い隠され、先程まで見えていたものが見えなくなっていた。


「鬱陶しいッ……!」


 刹那、ゼノは魔剣を振り抜く。

 だが、ロードはソロモンの力でその動きを僅かに止め、一気に懐へと潜り込んだ。


「ぐぅっ!?」


 そして、ロードの拳が、ゼノの腹部へ深々と突き刺さった。


「そんなゴミでも……大切にしてくれる人がいる限り俺は戦うッ!!」


 拳を振り抜くと同時に左手の槍を逆手に持ち替え、宙に浮いたゼノに向け、彼は全力でそれを放つ。


「"灼熱の槍(ブリューナク)"ッ!」


 放たれた灼熱の槍がゼノに直撃し、激しい雷鳴と炎が巻き上がる。

 しかし、ゼノはそれが当たる寸前、黒い魔力から生み出した障壁でそれを防いでいた。

 しかし、ブリューナクはそれでも止まらない。


「ぐッ……! こ、これはッ……! まさか伝説のッ!?」


 ロードが持つ槍から、ただならぬ魔力を感じていたゼノであったが、ここにきてようやくそれがなんなのかを理解する。


「フラガラッハ!」


 ロードは新たな伝説の名を叫ぶ。

 直後、彼が持つ黒き手帳から、真紅に染まる直剣が姿を現した。

 かつてブリューナクと同じ英雄が振るったその伝説のつるぎは、今ロードの想いに応えようと、深い紅色の光を放っていた。



 ──────────────────



 フラガラッハ 感応剣


 女神がルーに与えた伝説のつるぎ


 持ち主の意思に応えるという特殊な能力を持っている。

 持ち主が"抜く"と念じただけで鞘から飛び出し、自ら敵に斬りかかったという伝説を持つ。

 また、投げつければ敵を切り裂いた後、持ち主の手元に戻ってくるという。

 

 このつるぎに付けられた傷は、持ち主の許しがない限り癒えることはない。


 武器ランク:【SS】

 能力ランク:【SS】



 ──────────────────



 ロードが発したその名を聞き、ゼノの顔がさらに歪む。

 その名前を、ゼノは知っていた。

 持ち主の想いに応えるという、神の創りしそのつるぎを。


「貴様何故……!」


「ある人から託されたんだ……その全てを! だからあんたには負けない! 負けられないッ! いけッ! "想い応える赤き剣(フラガラッハ)"!」


 ロードから放たれた赤いつるぎは閃光と化し、ブリューナクとは違う方向からゼノへと向かう。


「舐めるなッ!」


 だが、ゼノはそれすらも黒い障壁で受け止め、さらに押し返さんと魔力をたぎらせる。

 一方は激しい雷鳴を轟かせ、もう一方は主人あるじの想いに応えんと突き進む。

 炎雷槍と感応剣。

 だが、それでも魔王は崩れない。

 2つの伝説を受けて尚、それを跳ね除ける力が彼にはあった。


「フッ……ハハハッ……! 余はッ! この程度ではッ……!」


「タスラム!」


「なっ!?」


 手帳から現れるは3つの宝玉。

 金色に輝くその宝玉達は、心なしかロードの周りを嬉しそうに飛び回っていた。

 しかし、ロードがゼノに向けて腕を突き出した瞬間、それらは"魔弾"の名に恥じぬ姿へと変貌していく。



 ──────────────────



 タスラム 魔弾


 神の魔力が込められているという伝説の宝玉。


 かつて英雄ルーがその身に纏い、他の武具と共に使用した。

 タスラムは常に持ち主の身を守ると共に、持ち主が相対する者へ襲い掛かる武器ともなる。

 その際、美しい金色の球体から目標を穿つ"魔弾"へと姿を変え、どんな障壁をも突き破ったという。


 砕かれてもやがて再生する能力を持つが、1つでも破壊されれば他の2つも力を失ってしまう。


 武器ランク:【SS】

 能力ランク:【SS】



 ──────────────────



 3つの宝玉は完全に姿を変え、綺麗な球体から貫く為の円錐へと変わる。

 その全ての切っ先は、ロードが指し示すゼノを捉えていた。


「くッ……!」


 ロードはここに来るまでの間に、かなりの魔力を消耗していた。

 プリトウェン、リッヒヴェーク、ソロモン、グングニル、ハディス、デュランダル、タラリア、ブリューナク、フラガラッハ、そしてタスラム。

 彼らを使ってきたロードの魔力は、もうほとんど残っていない。

 対してゼノの魔力は、仮にロードが全快であっても到底及ばない程の魔力量を誇る。

 故に、ロードは最初から短期決戦に持ち込むつもりだった。


 ここまでの流れは、凡そロードの思惑通り。

 トライデントやヘラクレスに託すという選択肢もあったのだが、ゼノの強力な障壁を見て、ロードはタスラムを使用することを選んだ。

 これでゼノに深手を与えることが出来れば、その隙にレヴィを連れて逃げることも不可能ではない。

 だからこそ、この瞬間に彼は全てを懸けた。


「貴様は……いくつの……!」


「レヴィは自由だ……あんたのものじゃないッ! 貫けッ! "打ち破るは神の魔弾(タスラム)"!」


 ロードの声に呼応した3つの魔弾が、ゼノ目掛けて一直線に突き進む。

 右手でブリューナクを、左手でフラガラッハを抑えるゼノは、正面にも障壁を発生させギリギリで1つめの魔弾を受け止めた。

 魔弾と障壁がぶつかり合った瞬間、まるでのこぎりで金属を切り裂こうとするような音が鳴り響き、その凄まじい威力にゼノの表情にも焦りの色が見え始める。


 それを追随するように2つめの魔弾が着弾すると、ブリューナクすら受け止めていた黒い障壁に細かいヒビが入っていく。

 そして、最後の魔弾が着弾した瞬間、ゼノを覆う黒い障壁が跡形もなく全て消し飛んだ。


「うおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!?」


 3つの伝説が重なり合ったその膨大な力が、その一点に集中する。

 ブリューナクの灼熱が引き金となり、そのエネルギーを燃やし尽くすかのように、直後謁見の間を包み込む大爆発が起きた。


「ぐっ……アイギスッ!」


 ロードはレヴィにアイギスを投げつけ、すぐさま彼女の周りに防壁を張った。

 謁見の間を包み込んだ爆炎が、ロードにまで襲い掛かるが、彼の鎧はインフェルノワイバーンの鱗で出来ており炎に対する耐性が高い。

 凄まじい熱と爆風も、鎧のおかげでなんとか防ぎ切ったロードは、未だ粉塵が上がる中でゆっくりと立ち上がった。


「ゼ、ゼノは……」


 崩壊した謁見の間にゼノの姿はなく、崩れた壁からは外の景色が見えていた。

 凄まじい吹雪はあっという間に魔都を飲み込み、既にインヘルムは極寒の大地へと変貌を遂げ、開いた壁から冷たい空気が一気に入り込む。


「今のうちにレヴィを……!」


 ロードはレヴィに向かって空を駆ける。

 アイギスを解除し、彼女に手を伸ばしたその時、ある1つの疑問がロードの頭をよぎる。


「なんで……戻ってこない……」


 その時、悪寒を感じたロードは振り返る。

 刹那、彼の左腕が宙を舞った。


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