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無能と呼ばれた俺、4つの力を得る  作者: 松村道彦
第3章:命を懸けなければ

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第86話:咆哮

 

 ケルト王はベルシュタインを引きつけ、崩壊したアルムロンド城から距離を取った。

 他の四眷族と協力されても面倒であったし、彼にとっては一対一の方が都合がいい。

 作戦は上手くいっていたのだが、ベルシュタインの力はケルト王の予想より上であった。


「ちぃっ……!」


「老いには勝てぬなケルト王! 得意の魔法はどうしたッ!?」


 ベルシュタインの操る2本のつるぎが、確実にケルト王オーランドの体力と精神力を削っていく。

 オーランドも剣の扱いには長けているが、ベルシュタインはそれを遥か凌駕する実力者。

 何故ならベルシュタインのスキルは〝剣聖〟。

 剣の扱いに於いて、魔族に限らず彼を上回れる者はほとんどいない。


 剣ではまるで勝負にならないのだが、オーランド最強の魔法は強力であるが故に発動まで時間が掛かる。

 簡単に扱える魔法でその場を凌ぎ、オーランドは何とかそれを発動するまでの時間を稼いでいた。

 正直に言えばベルシュタインとの相性は悪い。

 しかし、それでもオーランドがベルシュタインを相手にしたのには訳がある。

 最強の魔法さえ発動できれば、ベルシュタインはオーランドに絶対勝てない。


 細かい能力や発動条件などまでは分からないが、どちらもヴァルハラで名を上げている冒険者と冒険狩りであるが故、互いのことをある程度は知っている。

 相手が知らない奥の手を隠しつつ、互いが互いの命を狩るその瞬間を狙っていた。


 ベルシュタインの流麗な剣舞がオーランドの頬をかすめる。

 ここにきてベルシュタインは違和感を感じ始めていた。

 最初はただ躱されているだけだと思っていたのだが、どうやらそうではないということに気付く。

 自分のつるぎが僅かに動かされていると。

 今度はベルシュタインの剣がオーランドの肩をかすめた。

 間違いなく頸動脈を切り裂いたはずの剣筋は、躱されたことを加味しても狙いから外れ過ぎている。

 一旦間合いを取ったベルシュタインは、合点がいったとばかりにニヤリと笑った。


「なるほど……どうやらそれが貴様の……」


「さぁ……なんのことかな」


「フッ……とぼけても無駄よ。最早見切った。やはり俺からすれば安い名であったな……さらばだケルトの王よ。安らかに眠れ」


「まるで終わったような口振りをしておるが……仕留め切れなければ恥ずかしい……」


 オーランドの言葉を待たずに、ベルシュタインは疾風の如く間合いを詰めた。

 ベルシュタインが知り得るオーランドの力とは〝攻撃が当たらない〟というもの。

 つまりオーランドの魔法は、相手の攻撃になんらかの操作を加えているのだとベルシュタインは考えていた。

 これまでの戦いの中でベルシュタインは何度もそれを感じている。

 だが、その操作は僅かなズレであり、それを超える攻撃には対応出来ない筈だとベルシュタインは読んだのだ。


「セァァァァッ!」


「ぬぅっ!?」


 ベルシュタインの振るう黒い剣がオーランドの黄金の剣を弾き、もう1本が胴体に迫る。

 確実に当たる筈のそのつるぎが、やはりギリギリで当たらない位置へと何かに押し戻されていた。

 だが……。


「甘いわッ!」


「ぐっ!?」


 ベルシュタインの魔術。

 それは、自身の魔力を刃のような物質に変える力。

 何かに押し戻される彼の剣先から、鋭く伸びた魔力の刃がオーランドの腹を抉った。

 瞬間身をよじって致命傷は回避したものの、傷は決して浅くない。


「終わりだッ!」


 オーランドの膝が折れ、片膝を突いたその後頭部にベルシュタインの右手のつるぎが振り下ろされ……。


「ガアッ!!!」


「ぎっ!?」


 突如オーランドの口から放たれた爆音がベルシュタインの耳に突き刺さった。

 鼓膜を破壊して脳まで揺らすその攻撃に、ベルシュタインの足が勝手に後ずさる。


「な……なにを……なっ……こ、これは何が……!? あ……ああ!?」


 ベルシュタインは発している筈の自分の声が聞こえない。

 凄まじい耳鳴りと激痛が彼を襲い、耳からは血が溢れ出していた。

 これはオーランドの魔法ではなく彼のスキル……名は〝咆哮〟。

 彼の声は何よりも大きく、そして自分の魂の叫びを相手に伝える力があった。

 だからこそ彼の言葉は力強く、人々の心を掴んで離さない。


「ぬはは……さすがに腹を抉られてこれをやるとっ……いかんな……! だが、貴様が近付いてくれてよかったよ」


 ベルシュタインには最早聞こえていないが、オーランドはさらに語り続ける。


「俺は昔から声が大きくてな。本気を出せば人の鼓膜すら破れるのよ。ガラスも何枚割ったか最早覚えておらぬ。ま、もう聞こえてはおらんだろうが……おお、タイミングがいい。貴様相手に数分持たせることが出来るか際どかったが……もう、時は満ちた」


「貴様俺に……! クソォッ! 聞こえねぇ……!」


「ぬはは……安心せよ。もうそんなことを気にすることもなくなるでな。それ、掛かってくるがよい。貴様も……戦いの中で死にたいであろう?」


 オーランドは右手の人差し指をクイッと上げ、ベルシュタインに掛かってくるように促す。

 耳は聞こえずともそれが何を表しているか理解したベルシュタインは、骨が軋む程に剣を握り締めた。

 最早怒りに目は赤く染まり、噛みしめた唇からは赤い血が流れ落ちる。

 オーランドの顔は、その動作が無くとも雄弁に語っていた。


「ま、まだ……まだ終わっていないッ!!」


 言い終えると同時にベルシュタインは大地を蹴った。

 自分のダメージは聴覚のみ、対してオーランドの傷は深い。

 にも関わらず、オーランドの顔はこう言っていた。

 〝戦いの中で死ぬがいい〟と。


「終わっているのだ。最早貴様の剣は……貴様の物ではないのだから」


「はっ……!」


 ベルシュタインの2本のつるぎが、首と心臓をそれぞれ貫く。

 強く握り締めたままであるにも関わらず、ベルシュタインの意思とは無関係に強い力で剣が勝手に動いていた。


「俺の魔法は鉄命令魔法。我が魔力の粒子はそのつるぎのみならず、貴様の身体にも染み渡っている。体内に存在する鉄分すら俺の支配下にあるのだ。強制力が強い代わりに少々時間は掛かるが、こうなった以上俺の命令には逆らえぬ。だからベルシュタインよ……もう終わったのだ。安らかに眠るがよい。貴様が屠ってきた……冒険者達の様に」


「ガフッ……お……ば……」


 最期の言葉を発することは叶わず、ベルシュタインは地に伏せて動かなくなった。

 それを見届けたケルト王は、脇腹に手を当てながら静かに呟く。


「ロード……なんとか……」


 ケルト王は休むことなく歩き出す。

 貰った恩は、まだ返しきれていないのだから。



 ――――――――――――――――――――――



 崩壊したアルムロンド城付近では、4人の戦いが熾烈を極めていた。

 まさに嵐の如く暴れまわるグングニルに対し、カルラもまた全力でそれを抑えに掛かる。

 しかし、それでも尚グングニルは止まらない。


「ば、馬鹿なッ……!」


 グングニルに貫かれた腹を自らの魔術により焼いて塞いだまではよかった。

 だが、負傷した今の状態で勝てる程グングニルは甘くはない。


「ま、またそれか! はぁッ!」


 カルラの魔術は〝爆裂〟。

 魔術を送り込みそれを爆発させる強力なものであったが、グングニルには触れることすら叶わない。

 彼女が操る風で巻き上げられた雪が氷の塊となり、それがまるで雨のように降り注ぐ。

 カルラは触れた瞬間にそれらを爆破することでなんとか攻撃を防いでいた。


 そこから少し離れた所で行われていたズィードとハドラスの戦いも激しさを増していく。

 先制攻撃をもろに受けたハドラスだったが、それでも尚その強さは揺るがない。


「危ねっ!」


 突如肩から生えたハドラスの腕がズィードの目を狙う。

 それを反対の腕で防いだズィードが魔法を掛けようとするが、瞬時に腕は影へと潜って消えていく。


「クソ……厄介な野郎だ! 何処にいるんだか分かりゃしねぇ……!」


 ハドラスの魔術は単なる空間転移魔術ではない。

 影から影へと移動するというのが彼本来の力。

 故に、吹き荒れる吹雪が作り出す影が、今ハドラスの味方となっていた。

 ズィードの無力化魔法は彼の周りにいる者全てに効果がある訳ではなく、対象を視認しなければ発動出来ない。

 影に潜んだハドラスの位置が分からない以上、それを引きずり出すことは困難だった。


「あっちは大丈夫そうだがな……こいつはなんとしてもここ……っておい!?」


 突如アルムロンド城の残骸が吹き飛び、中から魔物達が溢れ出す。

 ハドラスの魔術にも制限があり、今移動することが出来たのは中型の魔物だけだった。

 だが、それだけでも意味はある。


「やってくれる……!」


 倒すことが容易な魔物ばかりだったが、とにかく数が多過ぎた。

 それに、問題は数だけではない。


「ちっ……嫌な野郎だ!」


『あなたに言われたくないですよぉ。ゲホッ……ほら、血が止まらないじゃないですかぁ』


「ほら、じゃねぇよ! 見えねぇのに分かるかよ!」


『あはは……姿を見せたらやられちゃいますからぁ。まぁ、そんなことより……頑張って下さいね?』


 ハドラスの言葉を合図に魔物達が動き出す。

 無気力な英雄は1つため息を吐き、誰にも聞こえない声で呟いた。


「しゃーねーなー……アレをやるっきゃないか」


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