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無能と呼ばれた俺、4つの力を得る  作者: 松村道彦
第3章:命を懸けなければ

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第73話:イアリス

 

「ロード……さっきから何してるの?」


「ん? ああ、魔法の特訓だよ」


 ケルトを出てから約1週間。

 俺達は既にヒストリアを超え、明日にはイストに到着するというところまで来ていた。

 やはり、エポリィに馬車を操縦してもらうと速い。


 ヒストリアに寄ろうかとも考えたが、それはまたの機会にしておいた。

 あまりゆっくりもしていられないしな。

 今も夕食をとるために休んでいるだけで、これが終わればまた移動開始だ。


 平原の中で、1本だけ立っていた木にヴァンデミオンを繋ぎ、火を起こしてそれを囲む。

 俺はレヴィが料理をしている間、そこら辺に転がっている石に生命を与えては魔力を抜くという作業を繰り返していた。

 俺はまだまだ弱い。

 魔法の強化は、俺自身の戦闘力強化の為に必須だった。


「ふーん……可愛いね」


 生命を与えた石は俺に向かってぴょんぴょん飛び跳ねている。

 魔力を抜いた瞬間ただの石に戻るのだが、それがちょっと切ない。


「本当は武具達でやった方が効率はいいんだけどね。それだけの為ってのも……やっぱりよくないかなって」


 以前エクスカリバーに協力してもらったのだが、あの時もなんだか申し訳ない気持ちになっていた。


「対象は1つまでだから、エポリィを呼んでる間は出来ないんだ。だから、空いた時間にちょっとずつやってるんだよ」


「ふーん……ちなみにさ、その剣に生命を与えたらどうなるの?」


 そう言って、アスナはイアリスを指差す。


「あー……そういえば、この姿になってからは一度も生命を与えてないな」


 色々と周りを傷付けてしまう可能性があったから避けていたのだが、ここなら問題ないだろう。


「よし、やってみようか」


 俺は椅子代わりの岩に立てかけていたイアリスを掴み、鞘ごと生命を与えてみる。

 すると、イアリスは赤黒い光を放ち始めた。


「え……」


 俺の勝手な解釈だが、伝説の武具達が放つ光は彼らが持つ魂の色を表しているのだと考えていた。

 故に通常、魂を持たないようなただの石や日常品に生命を与えると、色の無い光を放つのだが───


「おお……!」


「わぁ!」


 そうして現れたイアリスは、以前のような剣そのものではなく……小さな赤黒い竜の姿で現れた。

 だがただの竜ではなく、前脚からは剣が生え、尻尾も剣。額からもツノのように剣が突き出ている。

 大きさは尻尾からツノの先までで2メートル程だろうか、そんなイアリスはパタパタと翼を羽ばたかせて嬉しそうに飛び回っていた。


「か、か、か……可愛いっ!」


「こ、これは……イアリスに魂が……?」


 もしかすると、ハガーさんが魂を込めて作ったから……だからこいつにも魂が宿ったのか?

 親方とハガーさん、それからフレイムワイバーンにインフェルノワイバーンと、確かにこいつは特殊な生まれ方をした剣だ。

 そういったことも作用しているのかもしれないが───


「クゥ!」


 嬉しそうに飛び回っていたイアリスだが、俺と目が合うと一直線に突っ込んできた。

 あ、なんか覚えがあるこれ。


「ぬぁぁっ!?」


 ギリギリでそれをかわすと、イアリスの額から生えた剣が地面に突き刺ささっている。


「あ、危なかった……」


 どうやら、中身は変わっていないらしい。


「この子……ロードのことが好きなんだね。初めましてイアリスちゃん。私はアスナ。よろしくね」


「クゥ! クックゥ!」


「あははっ! 可愛いー!」


 突き刺さった剣を引き抜き、アスナの周りを飛び回るイアリス。

 確かに可愛い……可愛いんだけど───


「よ、よろしくイアリス。頼むから突っ込んでこないでくれ……な?」


「クゥ……」


「あ、ダメだよロード……いじめちゃかわいそう……」


 俺は殺されかけてるんだが。

 可愛いってずるい。


「お食事ができ……な……なんですかその可愛い子は!?」


 ああ……レヴィはこういうのも好きなんだね。



 ──────────────────



「なるほど、そういうことでしたか。それにしても……」


 イアリスは、レヴィが作った肉や野菜がごろごろ入ったスープをがっつくように食べている。

 たまに額の剣が邪魔をして、口が届かず空振りしていた。

 その様子がまた愛らしい。


「可愛いですね……はぅ……」


「まさかこんなことになるとは思わなかったが……ま、可愛いからいっか。なぁ、アス……あ、駄目か」


 アスナはスープを食べながら、涙を流して空を見上げている。

 無理もない。

 俺もこの美味さに慣れるのには時間が掛かった。

 気をしっかり持たないと、あっという間に精神を持っていかれる。


 アスナに振る舞う最初の食事ということもあり、やたら気合いの入ったレヴィの料理は凄まじかった。

 俺でさえ気を失いかけたのだから、アスナがどうなったかは言うまでもないだろう。


「はっ……! あ、危なかった……」


 アスナがギリギリ戻ってきたようだ。

 美味過ぎるというのも贅沢な悩みだが。


「大丈夫か……アスナ」


「う、うん……お花畑が……」


「ふふふ……さて、明日にはイストに着きますね。なんだか懐かしいです」


「確かに……たった2ヶ月しか経ってないけど、色々あったからな……」


「うん……そうだね……」


 アスナにとっては辛い日々だったろう。

 また少し心配になるが、それを察したのかアスナは優しい微笑みを俺に向けて言った。


「ありがとう……ロード」


 そっか……。

 どうやら……もう大丈夫らしい。


「ああ……さ、出発するか!」


「はいっ!」


「うんっ!」


「クゥっ!」


「イアリスはまた今度な……」



 ──────────────────



「みんなー! 町が見えたし!」


 元気なエポリィの声が、馬車の中に響き渡る。

 それに反応した俺達は操縦席から身を乗り出し、エポリィが指さす先を見た。

 小高い丘の頂上から見える平原のど真ん中。

 見慣れている筈のその町は、何故だかとても輝いて見えた。

 それは太陽の光によるものだけではなく、きっと俺の心がそう見せているのだろう。


「なんか……いいな」


「ええ……やっぱり綺麗な町ですねイストは」


「うん……帰ってきたんだ……」


「よし、エポリィありがとう。ここからは俺が操縦するよ。また頼むね」


「りょーかい! んじゃみんなまたねー!」


 エポリィを手帳に戻し、俺は手綱を握る。

 自然とその手に力が入り、俺はいつもより馬車を速く走らせていた。

 早くみんなに会いたい。

 ティアはどうしているだろう。元気に楽しく暮らせているだろうか。

 いや、きっと大丈夫だろう。

 この町は……もう優しい町だから。


 そうして辿り着いた町の入り口から、馬車に乗ったまま中へと入っていった。

 イストは道が広く、馬車の往来も少ないからこのまま家まで行くことが出来る。

 いつも買い物をしていた商店通りを通ると、みんなが俺に気付いてくれた。


「お、おい……ロード君! ロード君じゃないか! 今帰ってきたのかい? いやーおかえり!」


「ええっ!? 随分早かったね……ガガンさんの話じゃまだもう少し掛かると思ってたよ!」


「あら、ロード君!? 立派になって……あ、ティアちゃんなら心配ないからね! というかティアちゃんすごいんだから!」


「おかえりロード君! ニーベルグ闘技大会の知らせを聞いた時は痺れたよ!」


 あっという間に馬車は囲まれ、みんながそう言葉を掛けてくれた。

 うん……やっぱりよかった。

 それに、どうやらティアも馴染んでいるようだ。

 何が凄いのかはしらないけど。


「みなさん……ありがとうございます。で、俺が帰ってきた理由はガガンさんから聞いて知っているかと思いますが……アスナ」


 俺に呼ばれてアスナが馬車からゆっくりと顔を出す。

 まだ少し不安げな表情だったが、そんなアスナに町のみんなは優しく声を掛けてくれた。


「アスナちゃん……おかえりなさい」


「大変だったね……でも、もう大丈夫だ!」


「お母さんも心配してたよ。少しゆっくりしたらいいさ。イストは君の味方だから」


「何があったかは聞いたよ……みんな同じ気持ちさ。みんなで君を守るよ!」


「みなさん……ありがとうございます……!」


 やっぱり戻ってきて正解だった。

 これなら安心して旅を続けられそうだ。

 そして、元を断つ。

 みんなが心から安心して暮らせるように。


「アスナ!」


 みんなと話していたその時、聞き覚えのある声が聞こえてきた。

 この声は……。


「お……お母さんっ!」


「アスナ……アスナっ!」


 自然と人だかりが左右に分かれ、アスナとおばさんは一直線に走り出す。

 そして、2人は強く抱きしめ合った。


「アスナ……よかった……!」


「お母さんごめん……心配掛けて……ロードが助けてくれたの……」


「うん、聞いた……私ロードちゃんに酷いことしたのに……ロードちゃんは……」


「私も同じだよ……だから、ロードにいっぱい恩返ししないと……」


「うん……うん……! ロードちゃん……ありがとう」


「色々と偶然や幸運が重なっただけでしたけどね。でもそれは、アスナを助けろっていう神様のお導きがあったのかもしれません。なんにせよ、アスナが無事でよかった」


 俺がそう言うと、おばさんは深々と頭を下げた。

 不安だったろうからな……とにかくよかった。


「じゃ、俺達は一旦家に行きます。みなさんまた!」


 町のみんなと分かれて懐かしの我が家へと向かう。

 2人は元気だろうか……幸せに暮らせているといいなぁ……。


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