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無能と呼ばれた俺、4つの力を得る  作者: 松村道彦
第7章:頂から視る世界

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第543話:耄碌

 

 彼女の背後にあった地面が、爆発したかのように少し遅れて弾け飛ぶ。

 その直後────


「ぐッ……ぬぅッ!」


「きゃはッ!」


 金属に金属を叩きつけたような、けたたましい音が鳴り響いた。

 振り抜かれた右拳と振り下ろした巨斧が衝突し、凄まじい衝撃が両者の間を駆け巡る。

 互いの力は拮抗し、ズィグラッドの二の腕が微かに震え出した頃────


「ちぃッ……!」


 その時、極限まで強化した反射神経と動体視力により、見事迎撃に成功したズィグラッドに戦慄が走る。

 身体能力極化魔法により、彼の腕力は限界以上に強化され、それは以前にも語られていた通り、かの"神殺し"にさえ匹敵するほどであった。

 しかし、その一撃をまともに受けたはずの彼女の拳は、血の一滴すら流れていなかったのである。


「クスッ……軽い……ですねぇ!?」


「うッ!?」


 刃と拳をぶつけたまま、レヴィはさらに一歩前へと踏み込んだ。

 押し込まれたズィグラッドは、すかさず右手の大剣を振りかぶるが、彼女は膂力のみで斧をかち上げると────


「あッ……はぁッ!!!」


「ごッ────」


 渾身の力を込めた左の拳を、ズィグラッドの腹に叩き込んだ。


「ぐッ……おッ……!」


 メキメキと、今度は彼の方が、自身の体内から流れる嫌な音を聞いていた。

 両腕が上がった状態では踏ん張りが効かず、彼はそのまま十数メートルほど吹き飛ばされ、地面に仰向けに倒れ込む。

 体重と両腕の武器を合わせれば、それだけで彼の重量は1トン近くにも達する。

 それをこれだけ吹き飛ばせるという事実が、今のレヴィの異常さを表していた。


「ごふッ……ぬッ……くッ!」


 口から鮮血が飛び出し、白い髭を微かに赤く染めながら、それでも彼はすぐに立ち上がった。


「はぁッ……はぁッ……ぬんッ……!」


 ズィグラッドはダメージを受けた腹部に意識を集中し、魔力を一気に送り込む。

 そうして、損傷した部位を瞬時に修復すると、再び構えをとった。


「クスッ……自己再生能力ですか。しかしそれ、かなり無茶なやり方をされてますね。もともと人間に備わっている自己治癒能力を限界まで強化し、無理やり身体を治す……大丈夫ですか? そんなことをして」


「ふん……なんでもお見通しか。なるほどのぉ……お主がワシの力を知っていた理由、今になってようやく理解したわ。お主の魔法は、そっちじゃったんじゃな」


「クスッ……さぁ、どうでしょう? そんなことより、あまり無茶をし過ぎると、寿命がなくなっちゃいますよ? ……残り少ない、あなたの寿命が」


「ほっほっほっ……お主にだけは言われたくないのぉ……小娘がッ!」


 大地を砕かんばかりの踏み込みとともに、一気に前へと出たズィグラッドは、右手の大剣による横薙ぎを繰り出す。

 それもまた、並の人間では見切れぬ速度。

 風切り音すら置き去りにする、まさに一撃一撃が必殺のそれである。


「きひッ!」


 首を狙ったそれを、レヴィは奇怪な笑みを浮かべながら、微かに身体を引いてぬるりとかわした。

 前髪に切先が触れるほど、まさに紙一重の見切りに、ズィグラッドは凝縮された時の中で確かに笑った。


「ふッ!」


 続け様に繰り出された巨斧の袈裟斬りを、レヴィは右の手刀で横へと弾く。

 だが、その下にはすでに、先程かわされた横薙ぎから手首を返し、抜き胴の形で彼女を狙う大剣の刃が待っていた。


「ッ!」


 ガギンと、再び凄まじい音が鳴り響く。

 その刃を、右の肘と膝で挟み込んで受け止めたレヴィは、まるで見せつけるかのように、歪んだ笑みを彼へと向けた。


「かぁッ!」


 ズィグラッドは先程弾かれた巨斧を握り直すと、そのまま上段から振り下ろ────


「ぶッ……おッ!?」


 その刹那、跳躍したレヴィは、そのまま空中で身体を捻ると、彼の顔目掛けてその両足を叩き込んだ。

 超至近距離から不意に繰り出されたドロップキックに、ズィグラッドの首が後方へと跳ねる。

 さらに彼女は、そのまま空中で屈伸するような体勢へ移行すると、そこから再び一気に膝を伸ばし、今度はズィグラッドの胸部付近へ強烈な一撃を叩き込みながら後ろへと跳んだ。


 顔面と胸部に鈍い痛みを感じつつも、それでもズィグラッドは上体を強引に押し上げると、足を前へと繰り出しながら巨斧を振り下ろしにかかる。

 しかしその視界を、円形に広がったレヴィの黒く長いスカートが完全に塞ぎ、それによって微かに躊躇った彼の目に、なびくスカートの狭間から、自身へと手のひらを向けて笑うレヴィの姿が映った。


「ちぃッ!」


 高い魔力の反応を感じた直後、彼女の手のひらから黒い魔力弾が放出される。

 瞬時に膨らんだ人の胴体ほどの大きさのそれは、一瞬でズィグラッドへと迫り、そのまま激しい大爆発を引き起こした。


「……あはっ」


 魔力弾が炸裂した爆風に乗り、10メートルほど離れた場所に着地したレヴィは、満足そうな笑みを浮かべながらスッと立ち上がる。

 そうして、視界に映る黒煙をじっと眺めていた彼女だったが、不意にその口元を両手で押さえた。


「ごほッ……あー……ふふふ……」


 その手のひらを少し見つめた後、レヴィはそれをべろりと舐める。

 口の中に広がる鉄の味に、彼女がほくそ笑んだその直後、黒煙を引き裂いてズィグラッドが姿を現した。


「ふー……さすがに……いつつッ……やばかったのぉ」


 黒い魔力弾が命中する直前、咄嗟に大剣と巨斧で身体を覆い、それの直撃をギリギリで防いだズィグラッドであったが、突き抜けた衝撃だけでかなりのダメージを受けていた。


「さっきとは威力が段違いじゃな……まともに受ければ死にかねんぞい……まったく……」


 再び身体を修復しながら、ズィグラッドは1人そう呟くと、眼前に佇む彼女を睨みつけた。


「……とんだものを隠しておったのぉ。よもや、これほどの化け物とは思わなんだ。このいくさといいお主といい、完全に読み違えたわ。ワシも耄碌したもんじゃわい……あー……歳はとりたくないのぅ」


「ふふっ……歳ですか……ふふふふふっ……」


「なんじゃい……含みがあるのぅ」


「いえいえ何も。さぁ、そんなことより続きと参りましょう……あ、いや、違いますね……」


 レヴィは悩むような顔をしながら、両方の手のひらを空へと向ける。

 そして、そこから────


「ちッ……化け物が……!」


 先程放った黒い魔力弾。

 それを彼女は、自身の周りに10個ほど浮かべると、小首をかしげながら────


「もう、終わりにいたしましょう……でした」


 そう言って、やはり笑みを浮かべるのだった。

 だが、その表情とは裏腹に、彼女は微かな焦りを抱き始めていたのである。


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じいさん頑丈過ぎ(;^ω^)
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