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無能と呼ばれた俺、4つの力を得る  作者: 松村道彦
第7章:頂から視る世界
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第513話:損耗

 


 ――――――――――――――――――――



「閣下、敵軍損耗約5百。こちらの損耗はほぼありません」


「ふぅむ……」


 レア連合軍総大将ズィグラッドは、レア軍本隊中央に陣を張り、部下からの報告を受けながら、その立派な白髭を右手で撫でる。

 そしてその眼は、敵軍総大将であるカルサがいる監視塔をしっかりと捉えていた。


「東はどうかの」


「は……50万の民はSSSランク冒険者2名によって足止めされているようで、現在はレア王直属の部隊がその排除に努めているとのことです」


 当然ズィグラッドは、レア王の裏にいるティタノマキアの存在を知らない。

 それはクロスが、自分達のことをレア王秘蔵の隠匿部隊として認識するよう情報を操作していたからである。


「ほっほっ! なんと豪気な! たった2人でとはのぅ……さすがは"爆怒"と"流麗"といったところか。あの2人には最後まで手を焼くわい」


 "流麗"はディーの通り名であり、その流れるように美しい戦い方からそう呼ばれていた。

 ズィグラッドは何度か2人と相見えており、結果的に勝利を収めてはいたものの、被害が甚大であったことから、完全に勝ったとは考えていなかった。


「して、南は?」


「現在、こちらの損耗約3万、敵軍約2千とのことですが……本来ならばあり得ない数字かと」


「ふん……余計なことをするからよ」


 "魔法の使用が出来なくなるのと引き換えに、身体能力と士気が異常に上がる"。

 そのようなある種の(まじな)いを、レア王直属の隠匿部隊が南の軍に施したと、ズィグラッドはそう聞いていた。

 はっきり言って、彼はそれが気に入らなかった。

 いや、もっと言えば、この戦自体が気に入らないのだ。

 すでに大勢は決しており、ティーターン側の勝ち目はほぼないに等しい。

 故にズィグラッドは、さっさとティーターン側の降伏を認め、次なる戦に備えるべきだと、そう考えていた。


 この先、ヴァルハラ大陸は戦火に包まれ、群雄割拠の戦国時代へ突入することになるとズィグラッドは予想していた。

 そして、やがて力の落ちたティーターンなどではなく、真に力を持った5大国家のいずれかと相見えることになるだろうとも。

 その時のためにも、無駄に戦力を削るべきではないと彼は考えていた。

 それ故に、彼はなるべく味方が損耗しないように、今回のような戦略を立てたのである。


 だが結局、レア王は殲滅戦を望んだ。

 ならば、彼にはやるという道以外ない。

 彼の中でレア王家は最上であり、それを上回るものはこの世に存在しないのだから仕方がない。

 ただ、本当の意味でレア王家はすでにこの世に存在していないのだが、ズィグラッドはそのことを知る由もなかった。


「……とはいえ、逃げ出す兵がいないという点だけは認めてやらんこともないわい。まぁ、なんにせよやるのう……やはり、ロード=アーヴァインの駒か」


 ロードが参加する戦いにのみに現れる、人ならざる力を持つ者達を、ズィグラッドは便宜上ロードの"駒"と呼んでいた。

 無論、生命魔法も、伝説の武具の存在も彼は知らない。


「おそらくは。片方は小柄な少女ですが、10メートル以上の巨大な黄金の斧を軽々と振り回し、近づくことさえ困難。もう1人は身長が4メートル以上ある大女で、初撃で約1万の兵が……」


「ぬははっ! 豪気も豪気! そこまでゆくと痛快じゃわい!」


「か、閣下……」


「おお、すまんすまん。喜んどるわけではないぞ。それはともかくとして、ひとまずこれで駒2つ……じゃな」


 ズィグラッドは、自身の左側に設置してあったベンディゴ周辺地図を模したクリークティクスの盤上に、黒い駒を2つ、そっと置いた。

 クリークティクスとは、互いに様々な役割を持つ駒を配置し、最終的に敵拠点を破壊した者が勝者となる、ケルト発祥の戦術遊戯である。

 盤面は自由に変更でき、山や川、天候などの自然条件を配置したり、魔物やドラゴンといった第3勢力を追加することも可能。

 今では世界中に広まっており、各国の軍師がこぞってこれに勤しんでいる。

 ズィグラッドも多分に漏れず、クリークティクスの愛好家であり、実際の戦場を盤面に再現することで、より鮮明に状況を把握し、新たな視点から戦場を見ることで、これまでいくつもの妙手を生み出してきた。


「東には金が2つ……ふむ……」


 盤上にはそれら以外にも、様々な色や形をした駒が並べられており、東の戦場には50万の大軍に見立てた隊列を組む兵士達の駒に向かい合うように、金色の駒が2つ置かれた。

 これはすなわち、ディーとルカを表している。


「そして北……」


 ベンディゴ領地内の北側に銀の駒を1つと、金の駒を2つ置いたズィグラッドは、盤上をトントンと指で叩きながら、空を見上げた。

 そして、少考の後――――


「……あい分かった。バーメディ全軍、並びに左右諸国連合から各5千ずつ前に出せぃ。戦を早める」


「了解」


 ベンディゴ領地内に置いた駒は、銀がカルサ、金2つがロードとレヴィを表している。

 ズィグラッドが最も気にしているのは、当然ロード達の動向であった。

 どの戦場にも2人の姿が見えなかったため、ひとまずベンディゴ領地内に駒を置いたズィグラッドだったが、やはりそれが彼の中で一番の違和感となる。

 この状況、東も南も、当然この北にしても、明らかに手が足りていない。


 無論、そうなるように彼が仕向けている訳だが、今までのロードであれば、間違いなくどこかしらの最前線に立ち、誰よりも苛烈に戦い、その姿で味方を鼓舞するに"決まっている"。

 もっと言えば、彼1人に1つの戦場を任せてもおかしくはなく、彼はベンディゴ側にとって最大の戦力と言っても過言ではない。

 つまり、そうしなかった、あるいはそれが出来ない理由があるということになる。


「何をたくらんでいるかは分からんが……炙り出す。それから、第1遊撃隊に通達。おそらくすぐに出番がくるから準備しておけ、とな」


「はっ」


「ワシの読みでは……ギブライじゃな。戦場が"やや"右に傾いておる。カサナエルよりもギブライの方が兵の練度が高い。今も抑えようと必死になっておるようじゃしな。彼奴らが手を打つならまずそこじゃろう……と、そう伝えよ。急げ」


 総大将補佐、ロフェンは無言で敬礼した後、急ぎ彼の指示を全軍に飛ばす。

 ズィグラッドは変わらず髭を撫でながら、実際の戦場と盤面を交互に見ていた。


「さて、どうでるかの……ティーターンのお嬢ちゃん?」


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30.3.25より、書籍第2巻が発売中です。 宜しくお願い致しますm(_ _)m
― 新着の感想 ―
レヴィの策が通じるのか?とても楽しみです。
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