第435話:恩為
「見ろロード……装甲が開いたまんまだ」
ロバートの焦燥を表すように、巨神が後退りしながら頭を抱える。
そしてバーンが言った通り、"神の咆哮"を撃つ為に開かれた装甲はそのままになっていた。
「ひょっとして、ゲイボルグの攻撃で閉まらなく……あっ!?」
「どうした?」
「み、見えます……中の人の生命が!」
「マジか! じゃあ、あれは外側を覆っていただけってことか」
「そうみたいですね。ただ……」
開かれた装甲から覗く生命の反応。
それが見えるようになったまではいい。
だが、問題はそこからだった。
「ただ、なんだ?」
「全身に……至る所に人が埋め込まれています。あれを避けて攻撃するのは難しそうですね……」
彼の目に映る生命は、少なくとも100を優に超えていた。
更に、装甲が開いているとはいえ、核とされた者達は全て深い位置に埋め込まれており、それらを戦いながら全て救い出すというのは不可能に近かった。
「となると、一点突破だな……ロード、王がいる場所は分かるか?」
「…………恐らく胸の中心、一番深いところにいると思います。ただ、その周りにもたくさんの人が……」
他とは違う反応。
それが、埋め込まれた人間に守られるように、そこにあった。
「そうか……だったら、まずは胸の装甲を剥がすしかねぇな。ロード、俺にはどこに人がいるかが見えねぇ。だから俺はお前の指示に従う。誘導してくれ」
「分かりました……やってみます」
「頼む。んじゃ時間もねぇし……さっさとやるかッ!」
「はいッ!」
『ひっ!?』
ロードとバーンの魔力を感じ、頭を抱えてうずくまっていたロバートは前を見る。
そして、迫る2人が目に入った瞬間――――
『い、いやぁぁぁぁあぁぁぁぁあッ!!!』
「「ッ!?」」
巨神に備わっていたある機能を、発動させていた。
「な、なんだこのッ……!」
「近付けなッ……あっつ!?」
突如として2人を襲ったのは、凄まじい熱風であった。
それは立っているのがやっとという程で、じりじりと2人の身体が後退していく。
そして――――
「ッ!? おいまさかッ……!」
「う、浮いてる!?」
その熱風の発生源。
それは、巨神の背中にあった。
『僕に……僕にッ! ぼぐにぢがよるなあぁぁぁぁぁあッ!』
巨神の身体がゆっくりと浮き上がると、徐々に上昇する速度が上がっていく。
「あ、あの図体で飛べんのかよ!? とにかくここから出す訳には行かねぇ……止めるぞロード!」
「は、はいッ!」
ロードが応じるや否や、バーンは時空魔法を発動させて巨神の上へと移動した……その時だった。
「ッ!? バーンさん上ッ!」
「なんッ……うおッ!?」
突如上から降ってきた肉の塊が、バーンへ強烈な一撃を見舞っていた。
ロードの声に反応し、からくもそれを大剣で受け止めたバーンだったが、男はその剣を掴んで身体を密着させる。
そして2人は身体を密着させたまま、凄まじい勢いで地面へと向かって行った。
「お、お前はッ!」
「ボッグス……!」
ゲイボルグに全身を貫かれて尚、ボッグスは戦うことをやめなかった。
全ては王の為、最後の最期まで、命を燃やして動き続ける。
「はぁぁッ!」
バーンから離れないボッグスに、ロードは空を駆け抜けブリューナクの一撃を見舞う。
しかし、雷神の槍が深々と突き刺さっても尚、ボッグスは折れることなく拳を振るう。
「ぐッ! このぉッ!」
それを魔銀の義手で受け止め、ロードはボッグスの顔面に蹴りをたたき込む。
その時、衝撃でロードの腰に下がっていた茶色のポーチがこぼれ落ちた。
「おらぁッ!」
「!!!」
ロードの攻撃に合わせ、バーン渾身の拳がボッグスの腹部に突き刺さると、これまでの戦いの中で初めて、その顔が苦痛に歪む。
バーンはその瞬間を逃さなかった。
「ぬんッ!」
バーンは剣を掴んでいたボッグスの腕を振り払い、その身体を蹴って引き離すと、空中で態勢を立て直して地面に降り立った。
引き離されたボッグスは、そのまま勢いよく地面に叩きつけられるも、すぐに起き上がって2人を睨みつける。
「ふぅ、なんて野郎だ。ロード無事か?」
「ええ……くそっ」
バーンの隣に着地したロードが見上げた先、既に巨神の姿はそこになく、あるのはそれが開けた大きな穴のみであった。
「……やられたな」
「はい……とにかくまずはッ……あっ……!」
「どうし……ッ!? こいつ……」
それに気付いた2人は、同時に構えを解いていた。
というより、もう構えをとる必要はなかった。
彼らの前に立ち塞がったボッグスは、立ったまま、もう動くことをやめていたのだから。
「……敵ながらあっぱれって言葉は、こういう時に使うんだろうな」
「そう……ですね」
王の為に、文字通り命を懸けて戦った男、ボッグス。
彼は最期まで王を信じ、その命を散らした。
果たして、エミーナとどちらが幸せだったのかは分からない。
ただ、やはりロードには、その結末が酷く虚しく思えたのだった。
「さて、と……まぁやべぇな」
「……ですね」
バーンの言葉で思考を切り替え、ロードは周りを見回した。
上空からは瓦礫が降り注ぎ、張り巡らされたパイプからは爆音とともに火の手が上がる。
更に、絶えず続く地響きが、この地下空間が崩落する寸前であることを2人に教えていた。
「俺らだけ脱出するのは簡単だが……そういう訳にはいかねぇな」
「はい……なんとかしないと」
ロードの目に、動かなくなった大量の人造魔石機兵達が映っていた。
その中には、王の命によって核にされたなんの罪もない人々がいる。
「少しずつ逃してはいたんですが……数が多過ぎました。それに、今まで通ってきた場所にも人造魔石機兵になった人がいます……もう、時間がない」
ロードはロバートが操る巨神と戦いながら、生命魔法で人造魔石機兵を操り、少しずつ戦場から彼らを遠ざけていた。
しかし、彼が一度に与えられる生命は、最大で4つまで。
ティア達を逃す為に生命を与えたプリトウェンと、ボッグスと戦っていたゲイボルグを差し引き、その時生命を与えられる対象は2つしかなかった。
全てを逃すには、時間が全く足らなかったのである。
「しゃあない……あれをやるか」
バーンは地に伏せる人造魔石機兵達と、崩落が加速していく頭上の様子を眺めた後、ため息混じりにそう呟いた。
「え、あれ……ですか?」
「この状況を打ち壊す策はある。だが、まだ条件がな……ロード、上にいる奴らに連絡出来るか?」
「あ、はい。通信魔石……あれっ? どっかに落とし……ッ!?」
腰のポーチを探ろうとしたロードの手が空を切る。
そして、慌てて周りを見回したロードの視界に、その少女が映り込んだ。
「き、君は……!」
「……目が覚めたのか」
その少女……リナリアは、ロードのポーチを右手に持ち、静かに上を見つめていた。
「……行ったのだな……陛下は……」
「ああ。お前らを見捨ててな」
「フッ……知っているよそんなことは。エミーナの首を見ればな」
そう言いながら、リナリアは振り返り、地面に横たわる彼女を見つめた。
「あの切断面……幾度なく見たものだ。エミーナの魔法で消えた……馬鹿な奴だ。自死など……そんなことをするくらいなら、陛下の玉避けになればよいものを……」
リナリアは2人に向き直り、ポーチをロードへと放り投げた。
「わっ……と……!」
「これは返してもらったぞ」
そう言った彼女の右手には、赤い魔石が握られていた。
「あ、それは……!」
「そう……これで人造魔石機兵を操ることが可能だ。今地面に伏せている者どもも、私が魔力を込めれば即座に動き出す……貴様らを殺す為にな」
「くッ……!? バ、バーンさん?」
身構えるロードを、バーンが手で制す。
その光景を見て、リナリアは目を閉じて微かに笑った。
「……はっきり言っておく。今から私がすることは、決して貴様らの為に行う訳ではない。勘違いするな」
そう言うと、リナリアは再び自身の左手の人差し指を……耳に突き刺した。
「なッ!?」
「ぐッ……う……こ、これは全て……陛下の恩為ッ!」
直後、赤い魔石が光り輝く。
それと同時に、動かなくなっていた人造魔石機兵達が起き上がり、片足のものは器用に飛び跳ね、足がないものは手だけで這いずり、まるで避難するように端の方へと移動を開始した。
「こ、これは……」
「きょ、強化ッ……強化された……わたッ……私の今の力ならぁッ! はぁッ……はぁッ……ち、地下にいるすべ……全ての人造魔石機兵を操るこッ……とが可能ッ! 何をするのかは知らんがッ……端に寄せれば邪魔になるまいッ!?」
「……ああ、それでいい」
「フッ……フフッ……決して貴様らの為にッ……ではない! こ、この戦いに勝利した陛下のッ……覇道にはぁッ! 駒が必要だからなぁッ! す、少しでも人造魔石機兵をッ……!」
「分かってる。ロード、上の連中に連絡しろ……城からなるべく離れろ、とな」




