第259話:覇権
「あくまでも可能性の一つだがな。実際には分からぬ。今話したことも薄い記憶を繋ぎ合わせただけで、結局のところ見当はずれの紛い物やもしれんということだ。なにせハデスがどういった神だったか、名を聞いてようやく思い出したくらいだからな」
「そうか……あ、ところでさっきから言ってるその……薄い記憶ってどういう意味なんだ?」
「ああ、その説明がまだだったな。とはいえ私も初めてのこと故、これもあくまで可能性の一つに過ぎぬが……存在を否定された神は、その概念すらも否定されるのだと思う。故に、それを知り得る者の記憶からも消えていくのではないだろうか。なにせ繋がりの深い私ですらが、もはやヒュペリオンの顔すら思い出せぬ。因みにエクスカリバー、ゲイボルグ……自身を生み出した神の名は分かるか?」
「む、いや……神に創られたことは覚えているが、名は分からぬ」
「あたいも覚えてねぇわ。冥界系の女神だったことだけは覚えてっけど、そいつが今いるかいないかすら分からねぇ」
そうだ。
前に聞いた時も2人はそう言っていた。
「ふむ……本来ならあり得ぬことよ。自身を創った神を知らぬなどな。しかし、お主達はそれが普通だと思っていたのではないか?」
「そうだな……別に気にはならなかった」
「あたいもだ」
ということは、エクスカリバーとゲイボルグを創った神も消えてるってことか?
他の武具達も大体が同じような答えだったし……あ、でも……。
「そういえば、女神って書いてある人もいたよな? その時はあまり気にならなかったけど……」
「ああ、そうだな。女の神も存在していたような気はする。まぁ、複数いるのだから当たり前なのやもしれぬが、それすら気にならぬ程、神に対する考えが薄れているということなのだろう」
それはあり得るな。俺も全く気にしていなかったし。
だが、これでようやく……一つだけ分かった。
「エクスカリバー達ですら分からないってことは、神から遠い存在である俺達人間が覚えていられる筈がない……ってことか」
「そういうことだ。だが、ここで一つ矛盾が生まれる」
「矛盾? ……あ」
「そう……ハデスがまだ存在しているのならば、奴のことを私達や人間達が忘れているのはおかしい。ミョルニルはあの魔力を見たことで思い出したようだったがな。また、仮に今の話が真実だとして、ハデス1人で全てが成せたとは到底思えぬ。天界の覇権を握ることが奴の目的だったという仮定の話になるが、元々その座にいた者は奴より上位の存在だ。名は忘れたが、ハデス1人でどうにかなるものではなかった筈……つまり、ハデス側に組し、他にも生き残った神がいると考えた方が自然だろう。それにも拘らず、この世界には神の名が一つも残されていない。仮説自体が間違っているのか、それとも何かしらの理由でそうなっているのかは……私にも分からぬがな」
「うーん……」
それも謎だが、分からないことは他にもある。
ハデスの目的が天界の覇権を握ることだったとすると、それはもう叶っているんじゃないのか?
あの時、ヨルムンガンドを操っていたのは、間違いなくハデスだった筈だ。
争いの結末は分からないが、奴が生きているってことはそういうことだろう。
だったら、なんで人間に害を与えるような行動を取るんだ?
もう願いは叶った筈じゃないのか?
そもそも2千年前、ヨルムンガンドに力を与えた理由は?
その頃から全ては始まっていたのか?
あと、フェンリルはなんの為に?
あいつはあそこで何をしていたんだ?
それに、何故伝説の武具達を探していた?
そして、無能と呼ばれる存在……それが生まれたのもこの千年の間の筈だ。
やはり何か関係があるのだろうか?
……駄目だ。
分かったこと以上に、分からないことが多過ぎる。
「今私が話せることはこれくらいか。あまり役に立てんですまぬな」
「あ、いや……十分だよ。ありがとうクラウソラス。また話を聞かせてくれ」
「うむ。恐らくだが、この先も何かが起こると私は思う。我が半身が消えてから約千年……今になって時が動き出しているように感じるのだ。長い沈黙を経て、何かしらの舞台が整いつつあるのかもしれぬ」
「舞台……」
確かに……千年前にそれがあったのなら、今まで何もなかったのはおかしな話だ。
つまり、千年待たなければならない理由があったってことか?
そして、クラウソラスの言うように舞台が整いつつある……全てはハデスの思惑通りに……。
「あ、一つ忘れていた」
「え?」
ま、まだ何か重要な……。
「2人が仲違いしている理由は、単純に"どちらが強いのか"というよくある話だ」
「ぬ!?」
「あ!?」
ちょ!?
「ク、クラウソラス……!」
「ん? そもそもそれを聞く為に私を呼んだのであろう?」
「あ、いや……」
こ、こっそり教えてほしかっ――――
「主人よ……それは真か?」
「え……う、うぅん?」
「どっちだよ!」
うう!
こ、こうなったら仕方ない……。
もう正直に話そう。
「だ、だってさ……2人に喧嘩してほしくないし、理由が分からないと止めようもないだろ? だから、まずは理由を聞いてからと思って……」
「ハッ! 止めても無駄だぜ? 今回ではっきり分かったからなぁ……あたいはこいつが嫌いだ」
「ほう。奇遇だなゲイボルグ……我も同じだ」
「ちょ……2人とも落ち着い……」
「その見下したような目が気に入らねぇんだよ! いつも偉そうに……!」
「我にはそんなつもりなどないが? 貴公が勝手にそう思っているだけであろう」
「うるせぇ! 大した実力もねぇくせに……でけぇ面してんじゃねぇよ!」
その時ブチッと……何かが切れた音がした。
「いいだろう……! 我と貴公……どちらが真の強者か! 今ここで決めようではないかッ! 槍を抜けゲイボルグッ!」
――――――――――――――――――――――
そうして……今に至るという訳だ。
「主人よ! 我を手帳に戻してくれ!」
「あたいもだ! 1時間したらまた呼べ!」
「はい」
「ロ、ロード様……」
2人を手帳へと戻し、俺は窓から外を眺める。
うん……やっぱりいい天気だ。
「クックックッ! こんなに笑ったのはいつ以来か……!」
楽しそうでなによりだ。
「クラウソラス様!」
「あー……すまぬすまぬ。だがな2人とも、そう悲観せずともよいではないか。我らは所詮、戦う為に生まれた武器なのだ。闘争とは切っても切れぬ間柄よ。中には違う者もいるが……まぁ、ほとんどの者は戦うことを好いておる。それは仕方のないことなのだよ」
「言ってる意味は分かるけど……」
「なに……何も本気で殺し合う訳ではない。ほんの戯れに過ぎぬよ。一通り暴れさせてやれば満足するだろうて。何事にも息抜きは必要ぞ?」
「ロ、ロード様ぁ……」
「はぁ……こうなった以上、もう仕方ないよレヴィ。確かにクラウソラスの言う通り息抜きは必要だと思うし……でも、その代わりルールをちゃんと決めて、危なくない範囲でやってもらおう」
それでスッキリすると信じて。
というか、もう逆らえないし。
「ロード様がそう仰るなら……」
「よし、ならば私も運営側につこう」
「え? クラウソラスは戦わないのか?」
「ああ。はっきり言って私は弱い。普通に剣を振るえば、エクスカリバーの足元にも及ぶまいよ。私の力は、悪しきものを祓うというただ一点に集約されている。つまり、伝説の武具達に邪念がない以上、私に勝ち目はないということだ」
なるほど。
要するに、強さの種類が違うってことか。
「まぁ……魔剣と呼ばれる者達なら話は別だったが、もう手帳の中にはおらぬしな。まったく、厄介なことになったものだ。あの中には私と同格の者もいたというのに……」
「えっ? クラウソラスと同格って……神の半身ってことか!?」
「然り。その者の名はアポカリプス……またの名を"終焉剣"。世界を終わらせる剣と……そう呼ばれている」




