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無能と呼ばれた俺、4つの力を得る  作者: 松村道彦
第5章:それぞれの戦場で

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第196話:愚妹


 ギリシア陥落から3日。

 ギリシア軍は町を望む山頂の山小屋に数名の斥候部隊を送り込み、既に竜族の監視を始めていた。

 それによると、現在ギリシアには続々と竜達が飛来しており、そのサイズなどから考えて、恐らくヴァルハラにいた竜達がドラゴニアから来た竜達に賛同して集まっているのではないかと推察されている。

 既に数だけでいえばギリシアを襲った数と同等かそれ以上に増えており、竜族は着々とヴァルハラ侵略の基盤を作り始めていた。


 今のところそれ以外に目立った動きはなく、人間の町が襲われたという情報もない。

 また、ギリシアの斥候部隊は、どこからか魔物を捕まえてギリシアに運んでいる竜達の姿を何度も目撃していた。

 つまり竜族は今、再侵攻する為の力を蓄えているものだと思われる。


 ギリシアは海竜種(リヴァイアサン)の襲撃により多数の死者が出たものの、ほとんどの民が国を脱出することに成功していた。

 その後約半数に分かれ、ドワーフの国アースヘイムとエルフの国ウッドガルドにそれぞれ身を寄せている。

 フリードリッヒを始めとするギリシア軍はケルトに受け入れられており、ジル以外の四騎将達も深い傷を負ったものの生存。

 また、マリアナも一命を取り留めており、意識を取り戻した彼女曰く、北の魔方陣を襲ったのは人間だったとのこと。

 それについては現在調査中だが、恐らくティタノマキアだったのではないかと噂されている。


 水上国家アークマリンはやはり陥落しており、僅かな生存者を残すだけでもはや国としての機能は完全に失われていた。

 町の惨状から、恐らく大竜種(グランドドラゴン)の仕業と推察される。

 現在アークマリンで生き残った者はアースヘイムへ、ギリシア連合軍に参加していた兵士達の生き残りはケルトに身を寄せている。


 ギリシアから最も近いアースヘイムとウッドガルドは次の標的にされる可能性が極めて高く、両国は互いに協力して竜族の侵攻に備え始めていた。

 また、既に両国ともギリシア奪還に協力することを宣言しており、ニーベルグとケルトもそれに続いている。

 だが、肝心のオリンポスは未だに明確な答えを出していない。

 現在、ギリシアの王となったフリードリッヒは妹のオルガと共にオリンポスに入り、オリンポス王との交渉を進めているところである。



 ――――――――――――――――――――――



「ざっとだが……まぁ、こんなところだろう」


「だな。あとはジークさんの存在がでかい。あの人がいるだけで士気が上がるからな」


 旦那の師匠か……。

 確かにありゃ化けもんだった。

 タイマンじゃ絶対勝てねぇ。


「それなんだがな……オリンポスは現在、我らギリシアにいくつかの条件を提示してきている。どれもかなり厳しい条件なのたが、その中に……父を戦に参加させるなという項目があったそうだ」


「はぁ!? な、なんでだよ!?」


 まさかとは思ったが、つくづくやんなるねぇ……。

 権力に取り憑かれた人間ってやつは。


「……オリンポスにすれば、父の存在が邪魔なんだろう。ギリシアを奪還したのはオリンポス、そして勇者ロイ……それを印象付ける為にな」


 だろうね。


「だ、だが、あの人がいた方が遥かに……」


「確かに……父がいれば戦局を優位に進められる可能性は高い。だが、どうしたってオリンポスの協力は必要なんだよ。各国の協力が得られた場合、各国の軍を集める場所が必要になるだろう? ニーベルグはギリシアから遠いし、ケルトからギリシアに向かうには大軍を率いて険しいガラティア山脈を越えなければならない。それだけでも一苦労なうえ、今あそこには大量の竜達が飛び交っていて普通に山を越えることすらままならない状態だ。もちろん迂回するルートもあるにはあるが、そのルートはオリンポスの領地を通過することになるからな……結局オリンポスに許可を貰わねばならないし、移動距離は倍以上に跳ね上がる。それでは戦う前に兵が疲弊してしまうよ。アースヘイムやウッドガルドは陣を敷く条件を満たしてはいるが……それを察知された場合、奴らは必ず襲ってくるだろう。そうなれば……」


「……まず耐えられないでしょうね。我がウッドガルドは森に囲まれた森羅の国。灰燼に帰すのは火を見るより明らかかと。また、アースヘイムは山岳地帯にある国ですので……陣を敷くには向きません」


「……そういうことになる。オリンポスはギリシア以上に堅牢な防壁を持っているし、その軍事力も桁違いだ。故に、竜族もおいそれと手は出せまい。他にも大量の物資を蓄えていることや、オリンポスからギリシアまでほぼ平地というのも好条件。大陸の中心に位置していることから各国の軍も集まりやすい……様々な理由から考えて、オリンポスの協力は必要不可欠なんだよ」


「ちッ……オリンポスはそれを理解したうえで……」


「……ああ、そういうことだ。恐らくフリードリッヒ様は条件を飲むだろう。まずは国を取り戻すことが何よりも優先されるからな……とりあえず、我らも準備が出来次第一旦ケルトへ向かう。ギリシア軍と合流し、今後の作戦を練らねばならんからな。レヴィも目覚めたことだし、転移魔法使いを要請しよう」


 やっぱりケルトに行くことになるのか……。

 まぁ、行かない訳にはいかないもんな。

 俺も直接会った訳じゃないからなんとも言えないが、旦那の今の状態を聞いた範囲で考えると、多分レヴィちゃんは……もの凄いダメージを受けることになる。

 ……なんとか支えてあげないと。


「我らウッドガルドも出来る限りの協力を致します。此度の戦はギリシアだけのものではありませんから」


「……感謝する、ヴィクトリア殿」


「いえ、ギリシアのことは他人事ではありません。もちろんそれは我々だけでなく、アースヘイムも……いや、ヴァルハラ全体で取り組まなければならないことかと。ですから礼は不要です」


 にこりと笑うヴィクトリアちゃんに、ジル様……じゃなかった……えーっと……ジルさんは、目を伏せて頭を下げた。


「後は……ロード達のこと……だな」


「……ああ、そうだな」


 グラウディがぽつりと呟いた言葉により、部屋の雰囲気が一段と暗くなる。

 さすがの俺もこの話題だけは茶化せそうにない。

 旦那……いったい何があったんだ?

 生きて戻ってきてくれたのはいい。

 だがなんで……。


「その、ロード様という方は……?」


「あ、ああ……ヴィクトリア殿は知らなかったな。マグナ遺跡の神獣討伐の件は?」


「ええ、存じております」


「それに参加していたのが私とグラウディ、ここで世話になっているレヴィ、そして……今ケルトにいるロードだったんだ。ロード達は優秀な冒険者でね……はっきりいって彼らがいなければアレは討伐出来なかった。後から聞いて分かったことだが、今回も彼らがいなければ……もっと悪い状況になっていただろう」


 確かにな……。

 旦那があそこで踏ん張らなかったら……多分ギリシア連合軍は全滅していただろうな。

 恐らくフリードリッヒは死に、ギリシア奪還なんて言葉すら出なかったかも……。


「因みにレヴィは現在Sランク、ロードは俺と同じSSランクになってます。でも、力は俺より遥かに上です。その実力は……SSSランクといっても過言じゃない」


 そういや……いつだったかランクが上がったって言ってたな。

 まぁ、もう旦那はランクとかあんまり気にしていないみたいだけど。


「なるほど……かなり重要な人物ということですね。それで、いったい彼に何が……」


 その時、部屋の扉が突然ノックされ、ジルさんが返事をすると1人の兵士が姿を現した。


「お話中のところ失礼致します。ヴィクトリア様に緊急の呼び出しが……」


「わたくしに? どなたからでしょう?」


「そ、それが……ヴィヴィアン様からでして……」


「ヴィヴィアンから? 母上ではなく……わたくしにですか?」


「いやそれが……最初は女王陛下とお話になられていたのですが、途中から……その……」


「……なるほど。喧嘩が始まった訳ですね」


「はい……」


 ヴィクトリアちゃんにも色々あるらしいな……。

 つか、今女王陛下って言ってたよな?

 しかも母上って……つまり、お姫様ってこと!?

 はぁー……マジで完璧だな。


「分かりました。すぐに向かいます」


「はっ! それでは失礼致します!」


 兵士が去った後、ヴィクトリアちゃんは1つため息をついた。

 ああ……それすら麗しい……。


「申し訳ありません。愚妹が粗相をしたようで……お恥ずかしい。お話はここまでに……」


「いや、気にしないでくれ。そちらにはそちらの都合があるだろう。急に呼び出してすまなかった」


「いえいえ、ジル様とは旧知の仲ですから。それで、もうここを?」


「恐らくは……要請を出せばすぐに迎えが来る筈だ」


「そうですか。では、次にお会いするのは……」


「ああ……」


 竜族との戦《いくさ》の中で……そうなる訳か。


「ご武運を……ジル様」


「貴公にも……ヴィクトリア殿。世話になった」


 2人は握手をした後抱擁し、互いに笑みを浮かべながら頷き合う。

 美人同士だと絵になるねぇ……。


「グラウディ様、ソロモン様も……どうかお気をつけて」


「ありがとうございます。ヴィクトリアさんも気をつけて」


「ありがとうヴィクトリアちゃん。また会おうね」


「ええ、必ず。では……」


 ヴィクトリアちゃんは深々と一礼した後、静かに部屋を後にした。

 麗しい……。


「さて、我らも動こう。一番の問題はレヴィだが……」


「ああ、どう伝えるか……だな……」


「それなんだけど……俺に任せてくんないかな? ケルトに着いてから少しずつ話そうと思うんだ。今話しちゃうとさ……嫌な想像ってどんどん膨らんじまうだろ?」


「そうだな……お前から話すのが一番いいかもしれん。だが、本当に大丈夫か?」


「まぁ、なんとかするさ。旦那に……任されちゃったからね」


 最高のご主人様にあんな目されちゃ……絶対に応えなきゃ駄目でしょ。

 魂……懸けてな。


武具達のイラストが一部公開となりました。

詳しくは活動報告で(´∀`)

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