第158話:当事者
「フェイク……フードなんか被って暑くないにゃ?」
「あちぃ……が、俺はツラが割れてる。一応隠しとかねーとやべぇ。さて、とりあえずバラけるぞ。ったく……ムムの魔法が上手くいかなかったなんざ初めてのことだぜ……」
「本当にこの町の中にいるのかなぁ……」
「さぁな……アナも言ってたが、あくまでここらへんってだけだ。ムムが"視えた"のはこの町の上空まで。もしかしたら周りの山ん中かもしんねぇ。まぁ、とりあえず無能がいるかの聞き込みから始めよう。あ、いいかおめーら……騒ぎは起こすな。何度も言ったが魔法を使うんじゃ……」
「分かってるにゃ!」
「分かってるわよ!」
「……恨むぜ大将。まぁいいや……なんか分かったら魔石で知らせろ。じゃ、解散」
フェイクは手をひらひらさせながら背中を向け、気怠そうに歩き始める。
やがて彼は群衆に紛れて見えなくなった。
「じゃ、シェリルっ! また後でにゃ!」
「あ、うんっ!」
リセルは笑顔で私に手を振り、手をパタパタさせながら走っていく。
「よし、私もいかなきゃ」
私がティタノマキアの10人目となってからもうすぐ1ヶ月。
それなりに魔法を使えるようになった私は、ここフォッケンで初めての任務を始めようとしていた。
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『クロス様……フェイク、リセル、シェリルが参りました』
私達3人はアナさんに呼ばれ、クロスさんの部屋へとやってきていた。
相変わらず薄暗い……この部屋だけはなんか慣れないんだよね……。
『いきなり呼び出してすまない。ところでシェリル、もうここの暮らしには慣れたか?』
『あ、はいっ! おかげ様で……』
クロスさんは微かに笑みを浮かべて頷くと、椅子の背もたれに身体を預けて腕を組んだ。
『ならいい。さて、呼び出したのは他でもない……お前達に任務を与える』
任務……!
遂にこの時が……。
『あいよ。今度はなんだ?』
『現在、大局的に見て事は上手く運んでいる。が、まだ人手が足りん。最後の詰めは我らの手で成さねばならんからな』
この1ヶ月の間に、私はティタノマキアが何をしようとしているのかをだいたい聞かされていた。
といっても細かいことまでは聞かされておらず、それはリセルも同じらしい。
これは万が一にも情報が漏れるのを避けるため。
仮に捕まった場合、人の考えを読み取ってしまうような魔法を使われれば全てバレてしまう。
だから、本当に重要なことは限られた人しか知らないようになっていた。
『つまり……新しい無能か?』
『そうだ。既に目星は付いている。アナが"感じ"、ムムが"視た"。だが、完全には分からなかった』
『あ? そりゃいったい……』
『私が"感じ"られるのはだいたいの位置だけ……いつもはそこからムムが詳細を"視る"訳だけれど、その近辺上空の視点からその者にピントを合わせようとした瞬間、何かにムムの魔法が弾かれてしまったの』
『マジか……そんなん……』
『ああ……こんなことは初めてだ。まだ不明だが、そういった力があるのかもしれん』
そういった力?
いったいどんな……。
『でも、まだ魔法を使えない筈だよにゃ? じゃあその力はにゃんにゃんにゃ?』
にゃんにゃんにゃ……!
リセルは基本語尾だけに「にゃ」が付くけど、たまにこうなる時がある。
やば……笑っちゃいそう……。
『クロス様、リセルは"その力は何なんにゃ"……と申しております』
『にゃ!?』
『……それくらいは分かる』
『『ぶふっ!』』
『な、なに笑ってるにゃフェイク! シェ、シェリルまで……!』
『ご、ごめんねリセル……くふふ……』
『くっくっく……あー腹いてぇ……今ので笑わねぇのはジェイドくらいだぜ』
『にゃ、にゃんにゃんにゃまったく!』
『『ぶふっ!』』
顔を真っ赤にして怒るリセルが可愛かった。
何度か彼女に謝り場が落ち着いた頃、アナさんが静かに口を開く。
『ふふっ……失礼いたしましたクロス様。では続きを』
その時、不意にアナさんと目があった。
もしかして……私の緊張を和らげる為に?
ありがとうアナさん……。
『……やれやれ。では、リセルの質問に答えよう。恐らく魔法とは違う、その者が持つ生まれ持った"何か"だ。フェイクが生まれつき魔力量が多いように、人には特殊な才能を持った者がいる。それが何かは分からないが、とにかく接触し勧誘する……それが任務だ』
『了解。で、場所は?』
『ニーベルグ第二の都市フォッケン、及びその近辺のどこか……それしか分からなかったけどね』
『分かった。じゃ、行くわ』
『ああ。フェイク、リセル、シェリル……武運を』
『任せるにゃ!』
『が、頑張ります!』
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「とは言ったものの……」
王都アルメニアより全然広いよこの町。
これで第二の都市か……ニーベルグってすごいなぁ。
さっきから商店や食堂、喫茶店に入って話を聞いてみたけど、この町に無能がいるなんて誰も知らないみたい。
やっぱり外にいるんじゃないかなぁ。
私だったら暮らしていける自信ないもん。
あの時みたいにきっと逃げ……。
「あ……そうか……ここにいる人じゃなく、いなくなった人……それも子供を探せばいいんだ」
"この町に無能はいるか"じゃなく、"この町からいなくなった子供はいるか"って聞けばいい。
無能がいないか尋ねるより聞きやすいし……よし、それでいこう。
まぁ問題としては、その人が何歳かが分からないってことだなぁ。
いなくなった人を探してるって言えば協力してくれるかもだけど、いつ頃いなくなったか聞かれても答えられないし。
……なんだか見つけられる気がしなくなってきた。
でも、山の中に暮らしていた私だって見つけられちゃったし、絶対無理ってことはない。
とにかく探してみよう。やれることはやらなきゃ。
「ん……」
そんなことを考えながら大通りを歩いていた時、ふと暗い路地裏に目がいった。
何故だかは分からないけど、行った方がいい気がする。
「昔からこういう勘は当たるんだよね……」
あんまり入りたくないけど……もし無能がまだ町にいるならこういう所にいる可能性は高い。
少し躊躇したが、私は意を決して路地裏に足を踏み入れた。
昼間だというのに真っ暗……嫌な感じがする。
その路地裏はかなり長く、大通りに面していた建物が終わっても、その裏にまた別の建物が建っていた。
「どこまで続いてるんだろう……」
周りは民家みたいだけど、とにかく汚い。
道にはゴミが散乱し、そこで寝ている人も何人かいた。
町の真ん中にスラム街……綺麗なのは表面だけみたいね。
「まるで……この世界みたい」
私は知らなかっただけ。
今も大半の人間は知らない。
この世界が狂ってることなんか関係なく、みんな自分の生活に必死だから。
私だってこうならなければきっとそうだった。
多分普通に結婚して、普通に子供を産んで、普通に暮らしていたと思う。
もしそうなっていたら、世界が狂ってるって話を聞かされても信じなかっただろうし、自分には関係ないからって……。
でも、私は世界の当事者になってしまった。
あいつらを許す訳にはいかない。
こんな馬鹿げたシステムは破壊しなきゃダメだ。
私のような……そして、リセルみたいな悲劇はもうたくさん。
私達が終わらせるんだ。
そして、正常な世界に導く……なんとしても。
「ん? 看板が……」
暫く進んだ先に、どうやらバーと思われる店を見つけた。
私の勘が"入れ"って言ってる。
「ふぅ……よし……」
私は再び意を決し、その扉を開けた。




