第153話:封印
ジルさん達との話が終わり、貴賓室へと通された俺達は、2人でベッドに転がりながら手帳を見ていた。
その近くにある椅子にはエクスカリバーが座り、ソファーにはゲイボルグが寝転んでいる。
これは用心の為でもあるが、2人に話を聞く為でもあった。
手帳を確認し終えると、エクスカリバーがため息をつきながら口を開く。
「消えたのは……所謂"魔剣"と呼ばれる類いの連中だ」
「だなぁ……あん時手帳の中に潜り込んできた黒い光はよぉ、"奪う"つーか"誘う"って感じだったんだわ。あたいはご主人様にくっついてた方が楽しそーだったから乗らなかったけど、"魔"を冠する他の連中は血の気が多いからなぁ……ひっひっひっ……」
「貴公……よく人のことを言えたものだな……」
「うっせ! つか、あたいなんか可愛いもんだぜ? 多分出ていった奴らは、ご主人様についてても欲望を満たせないと思ったんだろうな。仮に生命を与えられても、ご主人様が好きにさせちゃくれねぇ……ってよ」
「なるほどな……」
「因みに"魔"を冠する連中は使い手を選ばない。あたいは前のご主人様の影響で随分薄まったけど……他の連中は違うらしい。負の感情によって生み出され、その欲望に従い使い手に力を与える……そいつが死のうが何しようが関係ねぇ。そもそも聖剣様みたいな真っ当な方々とは成り立ちが違うからな。だから誘いに乗ったんだろーよ」
「……中はどんな感じだ?」
「別段変わりはない」
「あたいらは仲良しこよしじゃねーからな。別に気にしちゃいねーよ。まぁ、中にはつるんでる奴らもいるが、力を貸す奴は貸す、貸さない奴は貸さない、出ていきたかった奴は出ていった……そんだけだ」
「そうか……」
「それにしても……あの女はいったい何者なんでしょう……」
フェンリルを操り、伝説の武具を奪った女性の声。
当然フェンリルの仲間だろうが……。
「分からない……だが、なんとしても取り戻さないと」
「ですね……」
「そういえばさ、奪った奴は"封印"がどうとか言ってたよな?」
「ええ確かに。"封印が解けかけているのに"とかなんとか……」
「エクスカリバー達は何か知ってるか?」
「いや、分からぬ」
「しらねー」
「そうか……となると……ゲイボルグ、悪いが一旦戻すよ。また呼ぶからさ」
「ん? まぁいいけど……んじゃまたな」
彼女から魔力を抜いて手帳に戻す。
そして、俺はその手帳をまじまじと見つめた。
「さて、やってみるか……」
俺には今までやろうとしてやらなかったことがある。
やる必要がなかったというのがその理由の大半だったが、その他にも気掛かりなことがあった。
でも、今はやるべきかもしれない。
やっても無駄かもしれないが……。
「レヴィ、魔力はあるか?」
「え? ええ、ある程度はありますが……」
「万が一の時は鎖で止めてくれ。ヤバそうだったら俺もすぐに魔力を抜くけど、間に合わないかもしれないし」
「な、なにをなさるおつもりですか?」
「この手帳に生命を込める」
「えっ……」
「これだけの力を持った手帳だ。ひょっとすると……魂があるんじゃないかと思ってさ」
「た、確かに……その可能性はありますね」
「ふむ……無くはないか」
「前から考えてはいたんだ。ただ、仮にこの手帳に魂があったとして、いい人ならいいけど、もし悪い人だったら……ってな」
この手帳がどういう能力を持っているかは分からないが、仮に武器を抜いていてもそれを封じられたら手が出せなくなってしまう。
何かあっても魔力を抜けば大丈夫だと思ってはいるが、例えば生命を込めた瞬間に武具を解放したり、最初は普通でも、いきなり武具を使って消えたり……もちろん与えた魔力が切れれば元に戻るだろうが、俺の手から離れること自体がまずい。
まぁ、これは他の武具達にも言えることだが、この手帳に生命を与えるのは特にリスクが高いと考えていた。
武具達は協力してくれる時にページが光ることと、既に呼び出した人から話を聞けばどういう人なのかが分かるが、この手帳に関してはまったく分からない。
そもそも魂があるのかどうかも不明だが。
「……分かりました。鎖を出しておきます」
「頼む。あ、あとさ……ズボンは履いとこうな?」
「む……」
レヴィは薄いシャツにパンツ姿という、目のやり場に困る格好をしていた。
情けないが未だに慣れない……。
レヴィは何かぶつぶつ言いながらズボンを履き、手に歪な鎖を構えた。
俺はベッドから降り、レヴィの正面に立つ。
「いくぞ」
「……どうぞ」
なんか怒ってる気もするが……。
と、とにかくやってみよう。
俺は手帳に生命を込める。
瞬間手帳は浮き上がり、黒い光を放ち出した。
「やっぱり……!」
色付きの光は魂の証。
そうして手帳は一瞬で人の形となり、スッと床に降り立つ。
俺達が警戒する中現れたのは……レヴィより小さい女の子だった。
身構える俺達の前で、彼女はキョロキョロと辺りを見回している。
そして俺と目が合った途端、その瞳が一気に潤みだした。
「え!? あ、あの……」
「う……ううっ……うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!」
「えぇっ!?」
「ど、どうされたんですか!?」
「何故泣いておるのだ……?」
彼女はいきなり号泣を始め、床にペタリと座り込んでしまった。
金髪のツインテールの彼女は黒いワンピースのようなものを着ているが、何故か服がビリビリに破れている。
見た目は15歳くらいだろうか。
そんな彼女は青い瞳からポロポロ涙を流し、これでもかというくらいに泣き叫んでいた。
「あのー……」
「ううっ……ひぃっ! ちゃわるなあっ!」
差し出した手を叩かれる。
ちゃ、ちゃわるなって……。
そうして泣き続ける彼女の前で待つこと数分。
ようやく彼女の嗚咽が収まってきた。
「ひっく……うっうっ……」
「大丈夫ですか……?」
「うっうっ……大丈夫……ひっく……」
「ご、ごめんな突然呼び出して。話を聞かせてもらいたいんだけど……まずは名前を……」
「ぐすっ……ふぅー……うん……ひっく……あ、あたしは……"納める者"……」
「お、"納める者"? それが……君の名前?」
彼女はこくんと頷く。
"納める者"……武具を納める手帳だからか?
「あの、納める者様? 私はレヴィと申します。1つお許しをいただきたいのですが……メル様とお呼びしてもよろしいでしょうか?」
「え……? メ、メル……?」
「"納める者"の間をとってメル様……可愛らしいお姿にぴったりかと」
「か、可愛い? ……あたしが? えへへ……」
「どうでしょう?」
「う、うん……そう呼びたいならメルでいいよ!」
レヴィのおかげで"納める者"……いや、メルの顔が笑顔に変わる。
目は真っ赤に腫れているが。
「ふふ、よかった……ではメル様? お話をお聞きしてもよろしいですか?」
「うん、いいよっ!」
メルは先程までの泣き顔が嘘のようにニコニコ笑っている。
エクスカリバーは気が抜けたのか、1つため息をついた後、ゆっくりと椅子に腰を下ろした。
「じゃあ改めて……俺の名前はロード。よろしくなメル」
「うんっ! まぁあたしはロードのこと知ってるけどね! ずっと見てきたから……えへへ」
そりゃそうか。
あれ……じゃあなんでさっき引っ叩かれたんだ?
いや、とりあえずは……。
「まずは……なんで泣いてたのか教えてくれるか?」
それを聞いたメルはまた泣きそうな顔に戻ってしまう。
「あ、ごめんな……! 言いたくなかったらいいんだけど……」
「う、ううん! 違うのっ! あたしが悪いの……が、頑張ったんだけどね……! でも、ダメだった……だから悔しくて……あ、さっきはごめんね……あたし混乱してて、怒られると思ったから……ぐすっ……誰かと話すのも初めてで……」
メルの目から再び涙が溢れる。
レヴィがメルを抱きしめると、彼女はレヴィの胸に顔を埋めた。
「そうか……武具が出ていかないように頑張ってくれたんだな」
メルはそのままこくんと頷いた。
俺は思わずメルの頭を撫でる。
するとレヴィの胸からメルが顔を上げ、眉尻を下げて俺を見つめた。
「ロード……」
「ありがとうメル……でも大丈夫。必ず取り戻すからさ。だから、色々教えてくれ……な?」
「……うんっ! なんでも聞いて!」
正座するレヴィの膝の上にちょこんと座り、再び笑顔になったメルは俺の方を向いた。
「ありがとうメル。じゃあまず……奪った奴は"封印が解けかけている"って言ってた。それはどういう意味なんだ?」
「んとね……魔王と戦った時にさ、錆びた剣が出たことを覚えてる?」
「ああ……覚えてる」
魔王ゼノを倒す決め手になったあの錆びた剣。
未だにページは光っていないが、確かにそれは手帳の中にいる。
因みに以前、エクスカリバーにもその剣について聞いてみたが、彼女も手帳の中で会ったことがないらしい。
「ロードが危なかった時、あの剣が"出せ"ってあたしに言ったの。本当はやっちゃいけないことだったんだけど、あたしもロードを助けたいって思ってたから……少し封印を破っちゃったんだ」
「封印を……破った?」




