第142話:最深部
「承知ッ!」
リジルはその場をヘラクレスに任せると、身を翻し城へと向けて駆け出した。
すぐにドラゴンが背を向けたリジルの後を追おうとするが、ヘラクレスの放つ光弾が先頭を行くドラゴンの頭部を貫いたことで矛先を彼女へと変える。
「「「ガルァッ!!」」」
「ふんッ!」
ヘラクレスは迫るケルベロスの頭を踏み台にして大きく跳躍し、囲んでいた魔物とドラゴン達を飛び越えて城とリジルを背に棍棒を構えた。
「「「「「ギォォォォォォッ!」」」」」
モンスター達は反転し、ヘラクレスに対し咆哮を上げて一気に押し寄せる。
ヘラクレスは全身に魔力を滾らせ、やはりというべきか不敵に笑うのだった。
「さて……ここを通りたくばこのヘラクレスの喉元を喰いちぎってからにしてもらおうか。だがこの首……安くはないぞッッ!」
リジルはそれを背中で聞き、より一層強く大剣を握りしめる。
走りながら残る魔力のほぼ全てを大剣へと叩き込み、城の入り口に陣取る大竜種へと狙いを定めた。
しかしその時、城を飛び越えてドラゴンの群れが現れる。
「まだおったのかッ!?」
伏兵として潜んでいたドラゴン達が、城に迫るリジルに対し牙を剥いたのだ。
まばらに残っていた魔物達もそれに加わり、リジルに襲い掛からんと次々に押し寄せる。
「ちぃッ……!」
やむを得ずリジルが足を止めた直後、黄金の魔弾と赤い閃光が飛び掛かる魔物を貫いた。
「ロード殿ッ……!」
「行けリジル!」
「はッ!」
ロードはリジルの援護に回り、さらにレヴィ達に指示を出す。
リジルはドラゴンや魔物の牙がその身に迫ろうとも、決して足を止めることなく走り続けた。
それに応えるかのように、ロードはリジルに近付くモンスターをことごとく撃退していく。
そうして走り抜けたリジルの目の前、大竜種は山のような体をさらに膨らませ、その口からは光が漏れ始めていた。
「もう遅い……我が渾身の一撃を受けるがいいッ! はぁぁぁぁッ! "竜魂紡ぎし金紅の大剣"ッ!」
大上段から振り下ろした真紅の刃。
その剣筋から放たれた紅と金の閃光が、一瞬で大竜種の巨体を真っ二つに引き裂いた。
いや、正確には消滅させたのである。
竜と竜の力同士をぶつけることにより、存在そのものを相殺させてこの世から消し飛ばす。それがリジルの必殺剣。
そうして断末魔の叫びもなく左右に分かれた大竜種の体が大地を大きく揺らすと、それを見届けたリジルはニヤリと笑い、本来の姿へと戻るのだった。
「行けレヴィ!」
「はいっ!」
大竜種が倒れたことにより、レヴィ達は一直線に城の入り口へと突き進む。
その背後に迫っていたモンスター達を駆逐し、ロードは彼女らを守るように背後についた。
「先に行く! 必ず来いよ!」
「神獣は片付けておく……また会おうロード!」
背中に掛けられた言葉を受け、ロードの手帳を握る手に力が入る。
「……必ず行きます!」
ロードは手帳を開きながら、振り返らずに走っていくレヴィの後ろ姿を一瞬だけ見た。
当然不安はある。本当ならば離れたくはない。
だが、今自分達が何をすべきかを考えれば、これ以外の選択肢はないとその想いを断じた。
今重要なのは3人を無傷で神獣の元へと向かわせ、それを追うであろうケルベロス達を足止めすること。
それに、レヴィ達は必ず自分が来ると信じている。
だからレヴィは振り返らない。
必ずまた会えると分かっているから。
そしてロードもそれに応えるべく、それ以上何も言わずに一瞬で視線を前へと戻したのだった。
「ミスティルテイン!」
そうして呼び出した宿り木の槍を握り締め、ロードはすぐさま彼女に生命を与える。
ロードの思考は、既に彼女へと伝わっていた。
「りょーかいだよっ!」
瞬時に人型へと姿を変えたミスティルテインから、レヴィ達が消えた城の入り口へと槍が放たれる。
槍が突き刺さった場所から蔓が一気に伸び、あっという間に城の入り口は巨木の壁で塞がれた。
「バルムンク!」
右手にエクスカリバーを、左手にバルムンクを構え、フラガラッハとタスラムを纏ったロードは強い決意のもと、迫り来るモンスター達へと向かっていくのだった。
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「離れずついて来い!」
彼らは広く長い通路を走り抜ける。
先程まで魔物で埋め尽くされていたであろうそこは、今や3人が並んで走っても尚余裕があった。
先導するグラウディの重力魔法が僅かに残った魔物達の動きを止め、瞬時にジルがその命を刈り取り進んでいく。
それはロードへ向けた道しるべ。
彼らはロードを信じ、ただひたすらに目的地へと向かっていく。
そうして辿り着いた中心部にある大部屋の中央に、ダンジョン最深部へと繋がる巨大な魔石が姿を現した。
青くひし形のその魔石は、ふわふわと宙に浮かび、微かに回転しながら耳鳴りのような金属音を奏でている。
本来はこれを守るように大量の魔物がいる筈だったが、既にそれらの姿はここにない。
「よし……行くぜ」
「ああ」
「……はい」
3人は魔石に駆け寄り、グラウディの合図で同時に魔石に触れた。
瞬間視界が暗転し、身体がふわりと浮く感覚を覚える。
そうして転移した場所はまるで祭壇のような場所で、左右にある巨大な燭台からは激しい炎が上がっていた。
レヴィが振り返ると、先ほど触れたものと同じような魔石が、やはり微かな金属音を奏でながらゆっくりと回っている。
さらに、灯りに照らされた祭壇から続く階段の先を見ると、広い部屋の床に魔物や竜の残骸とおぼしきいくつかの肉片が転がっていた。
「この先に神獣が……」
「ああ……最深部は三層しかない。俺が奴を見たのはこの下だ。進むぞ」
2人は無言で頷き、階段を下りて先へと進んでいく。
地面に散らばる死骸を避けながら歩いていくと、今までのダンジョンとは全く違う、なんとも言えない妙な雰囲気をレヴィは感じていた。
これまでのダンジョンは石や砂岩で造られていたが、その空間は青銅のような材質で造られており、さらに床や壁にはよく分からない模様がびっしりと描かれている。
祭壇以外柱も何もないその不思議な空間に、彼らの足音以外は聞こえてこない。
その静けさがとにかく異様だった。
「ここはいったい……」
「分からん。ここが発見されてからかなり年月は経っているが、この最深部に関しては未だに謎が多い。そもそもここまで辿り着ける奴がそういないってのもあるがな。だから俺みたいなダンジョンに詳しい冒険者に調査依頼が出ることがある」
「その時に神獣を見つけた訳ですね」
「そうだ。因みにかなり前になるが、ギリシアが大部隊で調査したこともあったらしい。貴重な魔石とか魔道具とか、それなりに成果はあったみたいだが……同時に多くの犠牲者が出た。だから現在のギリシア政府はダンジョンの解明に消極的だ。俺を雇うのはダンジョンの謎を解明したくて仕方がない考古学者か、古代のロマンを追い求める酔狂な金持ちくらいさ……っと、こっからは無駄話をやめよう」
祭壇から見て正面にある大きな入り口。
その先に下へと続く広い階段があり、グラウディを先頭にゆっくりとそれを下っていく。
階段の両壁にはいくつもの火がともり、このダンジョンが未だに生きていることを表していた。
そうして階段を下りきった彼らだったが、その先に見えたものにより足が止まる。
そこは草木が生い茂り、空間の半分が透き通った水で埋め尽くされ、そのほとりには岩で出来た小さな城が佇んでいた。
都市型ダンジョンのように空があり、綺麗な満月が雲に隠れることなくその場を照らしている。
まるで絵画のような風景の中央。
目が合った黒く巨大な狼は、大きな口を歪ませて笑みを浮かべた。
『ようこそ』




