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無能と呼ばれた俺、4つの力を得る  作者: 松村道彦
第4章:闇へと堕ちる病

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第126話:日常

 

「うー! 寒い寒い……」


「ここは今の季節でも雪が降るからにゃあ。アルメニアとは全然違うにゃ」


 今日はリセルが気分転換にと私を町に連れ出してくれていた。

 あの日から……リセルはずっと私の側にいてくれている。

 もう大丈夫なんだと分かっていても、暗くなると嫌なことばかり思い出してしまい、私はなかなか眠れなくなっていた。

 リセルはそんな私を慰め、私が眠れるようになるまで寄り添ってくれて……ありがとう……リセル。


 城下町はすごく賑わっていて、今が戦争中とはとても思えない。

 人込みをかき分けるように石畳の道を2人で歩く。

 商店通りの両端には店が建ち並び、お店もお客さんも笑顔で溢れていた。


「でもだいぶ慣れてきたよ。っていうか……リセルはそんな薄着で寒くないの?」


「ふふふ……リセルはフェーヤと一緒にいるから寒くないのにゃ!」


「わ! すごっ!」


 そう言って彼女が袖を捲ると、その腕は彼女の髪と同じ白い毛で覆われていた。

 普段は普通の腕だったから、出したり引っ込めたり出来るらしい。


「やっぱり融合魔法って凄いんだね」


「フェーヤはいつもリセルを守ってくれる最高の友達にゃ! あ……今はシェリルも最高の友達にゃよ?」


「ふふっ……うん……私もだよリセル」


 アルメニアが崩壊してから1ヶ月。

 私は彼女達に連れられ、北の大地にある小国オトリスにいた。

 オトリスはヴァルハラ大陸の北東の端、南西にあるアルメニアとは正反対に位置している。

 私はここに連れられてすぐリセル達の……つまり、ティタノマキアのリーダーさんと会った。

 彼は私が世間から離れている間に起きたことや、ティタノマキアが何をしているのかを私に話してくれた。

 そして……世界に何が起きているのかも。


「決心はついたにゃ?」


 2人で手を繋いで町を歩いていると、リセルがふとそう言った。

 私は返答に困ってしまう。


「……少しは」


「そっか……シェリルは優しいにゃあ」


「ううん……私だって憎い。あんな目に合わされて……正直許せないよ。でも……」


 彼らティタノマキアの覚悟は本物だ。

 本気で世界を一度壊すつもりでいる。

 それは……多くの人が死ぬということ。

 民衆にはなるべく手を出さないって言ってたけど、場合によっては……とも言っていた。

 事実レアは今……でも、無能と呼ばれている人を救う為には……世界を救う為には仕方ないって……。


「シェリル……リセル達みたいな子がこの世界ではいっぱい死んだにゃ。今生きている無能は結構救ったけど……このままだとまた新しい無能が生まれるにゃ。その子達はまた迫害される……それを止めることが出来るのはリセル達しかいにゃい」


 この国は彼らの国。

 元々はアルメニアのように無能を迫害していた国らしく、政府を秘密裏に倒して国を乗っ取ったらしい。

 有事の際は王様とか偉い人の複製をフェイクさんが創り、その護衛としてジェイドさん達がつく。

 そうして国民や兵士に知られぬまま……この国はティタノマキアに支配されている。


「もちろん選ぶのはシェリルにゃ。一緒に戦ってくれたら嬉しいけどにゃ……」


 この国にはティタノマキアに助けられ、危機を脱した元無能が何人か住んでいるそうだ。

 彼らは助けられた恩義は感じていても、ティタノマキアに手を貸すことを拒んだらしい。

 リーダーは私にも選ぶ権利があると言った。

 出来るなら力を貸して欲しいと……でも、出来なくても責めはしないと。


 私も彼らに協力したい。

 私が受けた屈辱と絶望を奴らに叩きつけたい。

 私のように迫害される人をなくしたい。

 でも……あと一歩踏み出す勇気が無かった。

 人を殺す勇気が。

 だから……。


「もう少し……考えてもいい?」


「もちろんにゃ! ゆっくり考えて欲しいにゃ」


「ありがとうリセル。魔法の特訓はちゃんと続けるからね」


「うんうん! シェリルの魔法は優秀だからにゃあ……きっとシェリルの助けになるにゃ!」


 私は副リーダーさんから自分が本当に使える魔法を教わっていた。

 初めて聞いた時はびっくりしたし、そんな力があるなんて信じられなかったけど……それを聞いた時、3年前に王都から遠く離れた山まで移動したのを思い出した。

 私の本当の魔法を使えば確かに可能だったと今なら分かる。

 その話をしたら、副リーダーさんは"様々な負の感情によって力が暴走したのではないか"と言っていた。


「あ、シェリル! あのお店がおいしいにゃ!」


「わ、分かったから! ふふっ! 引っ張らなくても逃げないよー!」


「早く行くにゃー!」


 今はただ……この普通の日常が嬉しい。

 だって、二度とこんな日が来ると思ってなかったから。

 こんな気持ちにさせてくれたみんなの力に……私はなりたい。

 あと一歩……。



 ――――――――――――――――――――――



「くぅ……むにゃ…………シェリルゥ……」


「リセル……ふふっ……」


 その日の夜。

 二段ベッドの上で眠るリセルの寝言を聞きながら、私は魔法の特訓をしていた。

 魔法が使えなくて……苦しくて、悲しくて、辛かった……そんなあの頃とは違う。

 日に日に力を増していく自分の魔法が嬉しかった。

 だからついつい夜更かししてしまう。


「うん……上手くいった。あ、もうこんな時間か……そろそろ……」


 その時部屋の扉が軽くノックされる。

 誰だろうこんな時間に……。

 すると少し扉が開き、そこからニコッと笑った顔が覗く。


「あ……」


「しーっ……」


 彼女は人差し指を口に当てた後、私に向けて手招きする。

 私は静かに部屋を抜け出した。


「リセルを起こしたら可哀想だから……ごめんねシェリルちゃん、こんな夜遅くに」


「いえ、私は大丈夫ですけど……どうしたんですか? アナさん」


 アナさんはティタノマキアの副リーダー。

 私に本当の魔法を教えてくれた人だ。

 凄い美人ですごく優しい……私の憧れの人。


「ちょっとシェリルちゃんとお話しがしたくて。こっちに来てくれる?」


「あ、はい。分かりました」


 彼女に連れられて城の中を歩く。

 今やオトリス城はティタノマキアのアジトになっており、メンバー以外は入ることが出来ないようになっている。

 メンバーの中には無能じゃなかった協力者さんも何人かいるけど、主要メンバー9人は全員元無能だ。

 協力者さん達は主に雑務や国の管理をしていて、たまに戦闘にも加わるらしい。

 みんな強くて、そして優しい……いい人達ばっかりだ。


「ここなら今の時間……誰も来ないわ」


 そこは城の上部にあるバルコニー。

 眼下には深夜の城下町が見える。

 灯りはなく、町は静まり返っていた。


「あの、それでお話しって……」


 アナさんはいつものように微笑み、そして静かに口を開いた。


「あなたの迷いは知ってる。けど、いつかは決めなければならないわ。この城にいられるのはティタノマキアのメンバーだけ……秘密を守る為にね」


「はい……分かってます」


 そう……いつかは決めなければならない。

 それは分かっている。

 リセルはゆっくりでいいと言ってたけど、いつまでもという訳ではないと。


「隠し事はしたくないから言っておくわね。城下町に住んでる元無能も一応監視してる。私達のことをどうにかしようとすれば……ね。そして、二度と接触はしない。仮にすれ違っても会話はおろか、目を合わすことすら許されないわ」


「はい……」


 つまり、私がティタノマキアに協力しないということは、二度とリセルと話せないということだ。


「あなたは可愛いから、きっとすぐに城下町で恋人が出来るわ。そしていつか結婚して、子供を産んで家庭に入る。そんな普通の幸せもすぐそこにあるの」


 私の夢……"綺麗な花嫁さんになる"。

 絶対に叶わないと思っていた夢。

 でも……。


「ごめんね……本当ならこんな意地悪はしたくないんだけれど……」


「いえ……分かってますから……」


「ありがとう。あ、そういえば……リセルとはどう?」


「リセルは……可愛くて優しくて明るくて……あの子といるだけで幸せな気持ちになります。今日も一緒に町へ行って、2人でご飯を食べました」


「ふふっ……仲良くなれてよかったわ。あの子も可哀想な子だったから……今笑っていられるのが不思議なくらいにね」


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