第108話:グラム
髪型から顔、鎧や剣の形に至るまで全く同じと言ってもいい。
違うのは色だけ。
髪は白く、瞳は青。
鎧も白を基調としており、バルムンクは黒い鎧に金の縁取りだったが、彼女の白い鎧は銀で縁取りがなされていた。
そんな彼女は丁寧にお辞儀をした後、ニコッと俺に微笑んだ。
「身体を与えてくれてありがとう。私の名前はグラム。よろしくねロードくん」
「よろしくなグラム。あの、ひょっとして……」
「ええ。お察しの通り、私はバルムンクの姉みたいなもの。だから似ていて当然ってわけ」
「やっぱりそうなのか。にしてもそっくりだな……」
「グラム様、私の名はレヴィ。どうぞよろしくお願い致します」
「グラムー! 会えて嬉しいし!」
「レヴィちゃんもよろしくね。うふふ……ありがとうエポリィ、私も嬉しいわ」
エポリィがグラムに抱きつくと、2人は嬉しそうに笑い合う。
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グラム 封竜剣
神が創り出した伝説の大剣。
封竜剣という名が示す通り、竜の能力を全て封じる力を持つ。
故に、強靭な鱗も牙も息吹すらも、このグラムの前には無力と化す。
ただし、能力を使い過ぎると剣身が折れてしまい、暫くの間使えなくなってしまうという弱点もある。
武器ランク:【SSS】
能力ランク:【SS】
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路地裏から大通りへと戻り、嬉しそうに店を選ぶエポリィを眺めながら俺達はグラムから話を聞いた。
「バルムンクは私を元に創られたの。能力的には私の方が上だけど、あの子の方が私より多くの竜を狩れるわ。私を使う時は注意してね」
「分かった。それにしても本当にバルムンクとそっくりだ」
「ふふっ、自慢の妹よ。いつか2人同時に呼んでね」
「ああ、そうするよ」
「決めた! ここにするし!」
元気な声で俺達を呼ぶエポリィが一件の店を指差していた。
どうやら大衆食堂のようだが……かなり混んでいるな。
「因みになんでここに?」
「ここならメニューがいっぱいあるから色々食べられるし!」
「なるほどな。よし、じゃあここにしよう」
店の中は客で溢れかえっており、服装から察するに冒険者が多いようだ。
やはり領土の端にあるとはいえ、ケルトは冒険者に人気があるらしい。
「いらっしゃーい! 何名様ー?」
恰幅のいい女性の声が響く。
大きい鉄板の上には美味しそうな料理がいくつも焼かれていた。
彼女は手に持ったヘラを使い、肉を転がしたり麺料理を作ったりとせわしなく動いている。
「あ、4人です。席空いてますか?」
「はいよー! ちょっと待ってねー! ダニー! そこの酔っ払い放り出しなぁ! どーせツケだから外で寝かせとけー!」
「あーい! あらよっとぉ!」
ダニーと呼ばれた巨漢の男性は、机に突っ伏して寝ている冒険者を2人担ぎ上げて店の外へと運んでいき、そのまま店の入り口の横に転がした。
「お待たせー! どうぞー!」
「あ、はい! なんかすいません……」
「いつものことだから気にしないでー! ダニー! 5番テーブル上がりー!」
「あいよぉ! わりぃねお客さん。水はそこにあっから自分でたのまぁ。決まったら呼んでくんな!」
「酒おかわりー!」
「あいよー! んじゃごゆっくり」
客が放り出されても他の客はまったく気にする様子がなかった。どうやらこれがいつもの光景らしいな。
こういう雰囲気……初めてだけどなんか楽しい。
そうして席に着くと、エポリィは早速メニューと睨めっこを始めた。
「け、結局迷うし……」
「俺達の分もエポリィが選んでいいぞ。それをみんなで食べよう」
「ほ、ほんと!? じゃあこれと……これもだしー……あ、あとこれ……」
「もう1回言ってみやがれ!」
瞬間店に静寂が訪れる。
喧騒の只中にあった筈が、殺気のこもったその声に全員が反応していた。
その怒号を発したであろう男は目を血走らせ、フードを被った小柄な人を睨みつけている。
男は既に立ち上がり、今にも腰にぶら下げてある棍棒を抜きそうな気配を漂わせていた。
「あなたの自慢話はもううんざりです……と、そう言っただけですが?」
フードを被った人は座ったままそう答えた。
俺達のいる場所からは顔が見えなかったが、どうやらその人は女性らしい。
「テメェ……ちょっと顔がいいからって調子に乗ってんじゃねぇぞ! 俺様を誰だと思っていやがる……Sランク冒険者のザザーン様だぞ!」
彼が名乗ると周囲がざわめき出した。
すると、周りの席から他の冒険者の声が聞こえてくる。
「ザザーンって……あの?」
「ああ、〝噛み切りのザザーン〟だろう。元々気性が荒い奴だが……ありゃ相当酔ってるみてーだな。あのお嬢ちゃんずっと絡まれてたからなぁ……可哀想に」
なるほどそういうことか。
それにしてもやばい雰囲気だが……。
「ザザーン? 知りませんね。私はあなたになんの興味も無いですし、出来れば消えて欲しいのですが。うるさくてかないません」
彼女は平然とそう言い放ち、まるで何事もなかったかのように食事を続けた。
その余裕の言動に、ザザーンという男は怒りに身を震わせている。
「はは……このザザーン様も舐められたもんだぜ。おい勘違いすんじゃねぇぞ? たまたまテメェが視界にいたから声を掛けてやったんだ。貧相な身体をしたメスガキになんざ最初から……」
「……今なんつった?」
突如彼女の声色と口調が変わる。
それと同時になんだか店の中が急に暑くなったような気が……。
「……え?」
「耳クソが溜まってやがるみてぇだな。もう1回だけ言ってやる……今なんつったかって聞いてんだよ虫ケラ」
「ロード様あの方は……」
「〝視た〟のか?」
「はい……このままだとあの男がやばいです」
既にザザーンは腰にぶら下げてあった鉄製の棍棒を抜き、頬をヒクつかせながら不気味に笑っていた。
どうやら酔って歯止めが効かないらしい。
「上等だ……こっちももう1回だけ言ってやるよ。テメェみてぇな貧相な身体をしたメスガキに……興味なんざねぇッ!!」
怒りに任せザザーンはを鉄の棍棒を振り下ろす。
だが――――
「うわっ!?」
棍棒は何かに熱せられたように赤く染まり、一瞬でどろりと溶け落ちた。
ザザーンが慌てて柄から手を離すと、溶けた鉄が石畳の床に落ちて煙を上げている。
彼女が立ち上がると被っていた青いローブのフードが脱げ、水色の髪とともに彼女の幼い顔があらわになった。
「な、なんっ……!?」
「死んだぞテメェ!」
「アイギス!」
俺は間に割って入り、彼女が放った何かをアイギスで受け止めた。
しかし、衝撃を受け止めきれずに俺はザザーンごと店の外まで吹き飛ばされる。
「ぐっ!」
ザザーンの身体がクッションになり俺は無傷だったが、一緒に吹き飛ばされた彼は頭を打ったのか気絶していた。
急いで起き上がり店の方を見ると、ゆらゆらと揺れながら近付いてくる彼女の姿が目に入る。
目の前にまで来た彼女は、首を傾けながら凄まじい形相で俺を睨みつけていた。
「誰だテメェ……そいつの仲間かコラ」
う……小さいのになんて迫力だ……。
闘気なのか魔力なのかは分からないが、彼女の輪郭が陽炎のように揺れている。
「い、いや違いますけど……とにかく落ち着いて……」
「あぁん!? 人の喧嘩に横槍いれてんじゃねぇぞコラァ! だったらこの怒り……テメェにぶつけて……!」
「やめなルカ!」
その声に彼女の動きが止まる。
やっぱりこの人……。
「お、おかみさん……」
「ったく……そいつも悪いがあんたもその辺にしときな! SSSランクの称号が泣いてるよ!」
「うっ……だ、だってあの野郎が……!」
「いい加減大人になりな! ったく……ちっとも成長してないんだから。その子に感謝しなよ? また怪我させるところを助けてもらったんだからね!」
「うぅっ! は、はい……」
ふぅ、助かった……か?
「あんた大丈夫かい? 本気じゃなかったとはいえ、ルカの攻撃を受けてよく無事だったねぇ」
「な、なんとか……おかげで助かりました」
「あっはっは! 無事でよかったよ。しっかし……あんたもなかなか腕利きみたいだね。ほれ、ルカ謝んな!」
「ご、ごめんなさい……」
「あ、いえいえ……」
すっかり別人のようになった彼女はため息をつきながら肩を落とす。
噂は本当だったらしいな。
とにかくキレやすい……〝爆怒の妖精〟ことSSSランク冒険者ルッカルルカ。
結構あちこちで問題を起こしているのは聞いていたが……。
「あたしの店でラッキーだったねぇ。じゃなきゃ店ごと吹き飛んでたよ! あっはっは!」




