第105話:元無能
「フェイクぼろ負けじゃーん!」
「うっせ! 俺は一対一で戦うスタイルじゃないの! 第一最初から本気じゃねーし! 送り込んだの分身だし!」
「せっかく力を貸してあげたのににゃあ……ダメだにゃあ……」
「てめぇらぁ……! 今すぐ降りろ! さぁ降りろ!」
1匹のワイバーンがニーベルグの空を飛び、その背に彼ら3人が乗っていた。
フェイクは2人にからかわれたことでムスッと頬を膨らましている。
「フェイクって大人ぶってるけど子供だよねー。かーわいい!」
「もう勘弁して……」
「ねぇねぇ、このままアルメニャアにいくにゃ?」
リセルは頭から生えた猫の耳をピクピクさせながらそうフェイクに問い掛ける。
「……アルメニアな? このまま行くよ。ジェイド達も待ってるだろーし、色々準備もあるしな」
「次は上手くいくといいねー」
「あっちは大丈夫だと思うぜ? なんせ今まさにやられてるところだし。だがロードはダメかもな……ありゃ何も分かってねぇただのガキだ」
「んーそうかなぁ? あたしにはそう見えなかったけどー?」
「あ? そりゃどういう意味だよ……?」
「実はちょっと羨ましかったりしてー。あれはねぇ……やっぱいいや。いーわないっと!」
「はぁー? なんなんだよ……」
「あ、ラピス山脈だー!」
「にゃー! やっぱり大っきいにゃあ!」
「ったく……もう勝手にしてくれ……」
ワイバーンは飛び続ける。
彼らの目的を果たす為、アルメニアへと絶望を届けに。
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「フェイクはブロンドの髪に青いコートのような服、顔には何かに斬られた傷がありました。身長は俺より少し低い程度なので……175くらいでしょうか。歳は20台前半だと思います」
『よし、すぐに調査をしよう。で、ティタノマキアと……確かにそう言ったのだな』
「はい、間違いなく」
翌朝、俺はすぐにケルト王へ連絡を入れ、昨晩の出来事を全て伝えた。
丁度ニーベルグ王達と話し合いをしている真っ最中だったらしく、昨日いたメンバー全員がその場にいたようだ。
俺の話が終わり、少し沈黙の時間があった後、ニーベルグ王の声が魔石から聞こえてくる。
『ロードよ、お主の考えを聞きたいのう。率直に奴らをどう感じた?』
「そうですね……まだまだいくつか疑問は残りますが、ティタノマキアは元無能の集団なんじゃないかというのが俺の率直な意見です」
『ふむ。ロードを襲った男……フェイクとかいったな。其奴が元無能だからか? ちと根拠としては弱いのう。他の奴らもそうだというのは早計ではないか?』
「ええ確かに。でも、理由はそれだけじゃありません。俺を勧誘しようとしたのも奴らが元無能の集団であることを匂わせますし、それにもう1つ……アディード様はティタノマキアの声明文をご存知ですか?」
『声明文? ああ……あの意味深なやつか』
「ロード様これを」
レヴィが情報誌から切り取ってあったティタノマキアの声明文を俺に渡してくれた。
「ありがとうレヴィ。じゃあ読み上げますね」
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〝親愛なる世界へ〟
今日も何処かで人が哭く。
今日も何処かで人が嗤う。
その差は誰が決めた?
そして誰が得をする?
時代か? 世界か? 国か? 人か?
時の流れに逆らうは、神を超える為に他ならない。
何故世界はこんなにも歪んでいるのだろうか。
何故世界はこんなにも悲しんでいるのだろうか。
誰かが正さねばならない。
誰かが正常な世界へと導かなければならない。
我々がそれを行わなければならない。
我々にはその権利がある。
無知な王に死を。
無力な民に力を。
我らはティタノマキア。
我らは世界を救う為に、無を狩る存在である。
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『何度も聞いた文章じゃのう。で、これと無能にどう関係が?』
「最初これを読んだ時は意味が分かりませんでしたが、よくよく考えると俺が無能だった時の心境に似ていると思ったんです。世界の不平等さや不条理さ、自分は泣いているのに相手は笑っている……こんなことはおかしいって」
『なるほどな……』
「誰がこれを決め、誰が得をするのか……これは無能じゃなくなった後、異常さに気付いてから俺が思ったことに近いんです。それに世界の歪みを正したいってのも考えましたし、それを知った以上無視することは出来ないとも思いました。この文章ほど傲慢なつもりはありませんけどね……」
『元無能であり、世界の異常に気付いた者のみにしか分からぬ感情と思考か……』
「ええ、そして何より最後の文……最初これを見た時はその前文にある〝無知な王〟を消し、〝無力な民〟を救うって意味だと思ってました。もちろんその意味も込められているかもしれませんが、今回の一件で違う意味なのではないかと思ったんです。多分本当の意味は……〝無能〟の〝無〟の字を消し、能力のある人間にするって意味なんじゃないかと」
『なるほど。フェイクは恐らくティタノマキアの大将……つまりリーダーに救われている。真の力を教えてもらい、無能から能力者に変わった訳だ。〝無を狩る〟とはそういう意味か……確かに筋は通るな』
「そして、もし仮にそれが真実だとしたら……ティタノマキアは凄まじい力を持っていることになります」
無能は神に近い力を持った者だという仮説が正しいのならば、ティタノマキアのメンバーは全員がそれを保持していることになる。
レヴィはもちろんフェイクを〝視た〟のだが、何故か鑑定魔法が効かなかったという。
その為フェイクの魔法がなんなのかは分からなかったが、俺が殴ったあの感触は間違いなく人間だった。
恐らく捕まえていたフェイクも偽物で、そういったものを生み出せる能力を持っていると考えられる。
恐らく〝視た〟のが偽物だったからレヴィの鑑定魔法が通じなかったのだろう。
あの異形のことはよく分からないが……何にせよ厄介な力であることには変わりない。
『確かにな。ロードやバーンのような力を持つものが複数いるというのは……厄介じゃの』
「フェイクは最後に〝俺達が殺すのは邪悪……〟と言って消えました。奴らが殺した人の共通点を洗ってみてはいかがでしょう? 何か分かるかもしれませんし、それによって奴らの今後の動きが見えるかもしれません」
『分かった……それはすぐにやらせよう。エディ頼む』
『は、すぐに』
「ありがとうございます。それと……アディード様にお願いがあるんです」
『なんじゃ? 申してみい』
「フェイクは俺以外に興味はないと言っていましたが……」
『あい分かった。イストに腕利きを派遣しよう。念の為な』
「助かります……」
そこで話は終わり、何か分かれば互いに連絡することになった。
とりあえず伝えたいことは伝えられたし、イストの防衛を強化してくれるのは助かる。
「これでよし……と」
「お疲れさまでしたロード様」
レヴィが紅茶を淹れてくれたようで、俺の前にそっとカップを置く。
そのままソファーに座る俺の隣に彼女は腰を下ろした。
「ああ、ありがとうレヴィ。とりあえず出発は延期だな。ニーベルグ王が派遣してくれる人達を待ってからにしよう。まぁ、奴らが俺を狙うなら離れた方がいいのかもしれないけど」
「まぁ念の為全てが整ってからでよいかと」
「だな。さて、大体は伝えられたけど……やっぱりまだまだ分からないことも多いな。声明文も全部が分かった訳じゃないし」
「ですね。一番謎なのが〝時の流れに逆らうは、神を超える為に他ならない〟という箇所でしょうか」
「そう……それが分からない。何か意味はある筈なんだけどな」
「もう少し情報が必要なのかもしれません。それにしても……気の抜けない日々が続きますね」
そう言うと、彼女は俺の肩に頭を乗せた。
確かにな……どうやらゆっくりできる日は当分来そうにない。
「そうだな……だから、今を大事にしよう」
「はい……」
すぐ近くに彼女の顔がある。
窓から差し込む朝日に照らされ、その瞳がキラキラと輝いていた。
俺はそれに吸い込まれるように……。
「「ふーん……」」
「「うわぁっ!?」」
突然背後から掛けられたティアとアスナの声に、俺達は思わず叫び声を上げながら飛び上がってしまった。
い、いつからいたんだ……!?
「お母さんを仕事場まで送りに行ってる間に……」
「仲がおよろしいことで……」
そう言ってニヤニヤと笑う2人。
「こ、これはだな!」
「あ、あれです! ……そう! あれです!!」
「あれですしか言ってないしー」
「全然分からないねぇー?」
「「うう……」」
は、恥ずかしい……けど……。
こんな日常が一番楽しい。
だからいつか……ずっとみんなで笑えるように……。




