第101話:三傑
「ふー……いいお湯でした……」
恍惚の表情を浮かべ、レヴィが風呂場からふらふらと姿を現す。
丁度いいタイミングだ。
「レヴィそろそろ……」
「あ、もう時間ですか?」
「うん。2人とも頼む」
「よかろう」
「かしこまりました……」
俺達5人は部屋を後にし、ケルト王の私室へと向かう。
ケルト王から今日ここにニーベルグ王が来るという話をされ、俺達も話に加わるようにとお達しがあったのだ。
因みに伝説の武具の2人には念の為護衛としていてもらっている。
「ニーベルグ王はどんな方なんですかね?」
すっかりいつもの表情に戻ったレヴィがそう口を開く。
「直接見たことはないけど……女の人だったよな?」
「はい! 私は見たことありますよ! すっごく可愛い方です!」
ティアは元気よく手を挙げながらそう言った。
彼女は首都にいたから見る機会があったのかもしれない。
「そうなんだ。あれ? でも確か……もう何十年も前から変わってないような……」
「ロードさんそれ禁句です……気を付けてくださいね……」
「そ、そうなのか……? 分かった……」
どうやら踏んではならない尾があるようだ。
注意しよう……。
そんな話をしているうちに部屋の前へと辿り着き、立派な装飾がなされたその扉をコンコンと軽く叩く。
ケルト王の返事を待って俺達は中に入った。
「失礼します陛下……」
「遅い」
「えっ……!?」
入るなり聞こえた女性の声に驚く。
部屋を見渡すとケルト王とエディさん、そして初めて見る男性が2人と、ちょこんとソファーに座っている幼い少女がいた。
ま、まさかこの人が……?
「アディードよ……君も今来たばかりではないか。しかも障壁を解いた瞬間に直接この部屋に転移してきよって……」
「やかましいのうオーランド……別に構わぬだろうが。さて、まずは自己紹介といこう。妾はアディード=ストラトス=ニーベルグ。ニーベルグの王である」
や、やっぱりこの人が!?
彼女……いや、ニーベルグ王は黒く長い髪に赤い瞳、服装こそ王が着るようなものだったが……。
いやだってこれ……どう見ても10歳前後……。
「呆けておらんでお主も名を名乗れ」
う……た、確かに10歳には出せない凄みが……。
「し、失礼致しました! ロードと申します!」
「うむ。まぁ闘技大会を見ていたから顔は知っておるのだがな。見事な戦い振りじゃった。それにしても……バーンの言う通り確かによい魔力じゃ」
そう言ってニーベルグ王はニヤリと笑う。
可愛いらしいのにめっちゃ怖い……。
「お初にお目にかかります陛下。私はレヴィ。ロード様にお仕えしている者です。よろしくお願い致します」
「わ、私はティアでっす! よろしくお願いしますっ!」
「レヴィにティアじゃな。覚えた。2人もよい魔力を放っておるのう。で、気になるのはその後ろじゃ。お主らはいったい……」
ニーベルグ王は伝説の武具達の異質さに気付いているようだった。
彼らはこの世ならざるもの。
神の力を宿していると言っていい存在だからな。
「お初に、ニーベルグ王よ。我が名はケニシュヴェルト。そこのロードに生命を与えられた王者の剣なり」
「なんと……」
「わたくしはリッヒヴェーク……彼と同じく主に生命を頂いた聖なる杖に御座います」
「なんとなんと……!」
「2人は伝説の武具なのです。俺の生命魔法で肉体を与え、今こうしてここに」
「なるほどのぅ……聞いてはおったが実際に見るとやはり違うの。見事な力よ。おっと、妾の連れも紹介せねばな。ほれ、挨拶せんか」
「は……私の名はバイパー。よろしく頼む」
バイパーと名乗った男の人は、薄い紫色の髪に同じような瞳、腰には銀色の剣を差し、濃い紫色のコートのような服を着ている。
口元は襟で隠れており表情はよく分からないが、前髪から覗く鋭い眼差しで俺を見た後軽く会釈された。
「俺はディンだ。よろしくな」
彼は全身を灰色の鎧で固めていて、背中には大剣を背負っていた。
歳は40くらいだろうか。渋い顔立ちをしており、歴戦の強者といった印象を抱かせる。
「2人とも妾の側近……ディンはニーベルグの騎士団長、バイパーは妾の親衛隊長じゃ。腕は確かよ」
「よろしくお願いします」
「おう。確かにバーンの奴が言っていた通りだな。なぁ、今度是非手合わせを……」
「ディン……」
ニーベルグ王がドスの効いた声を発しながら睨み付ける。
怖……。
「……冗談です陛下」
「ふん……では挨拶も終わったし、本題に入るとしよう。座るがよい」
「俺の部屋なんだが……」
ケルト王の言葉は無視され、俺達は促されるままソファーへと座る。
俺の左右にレヴィとティアが座り、テーブルを挟んでケルト王とニーベルグ王が座った。
その後ろにバイパーさんとディンさん、エディさんがそれぞれの王を守るように立っている。
ケニシュヴェルトとリッヒヴェークも俺の背後で静かに佇んでいた。
なんだか凄い光景だな……これ。
「さて、何故妾が来たか……分かっておるなオーランドよ」
「大体は察しがつく……ティーターン絡みだろう?」
ティーターン……つまり戦争の話か。
「そうじゃ。妾には声が掛からんかったが……お主はティーターン王に助けを求められたのであろう?」
「まぁな……とはいえ色々あって軍部に任せっきりだったが……」
魔法病や俺達のことか……。
やっぱり申し訳ないな。
「すいません俺達のせいで……」
「ロードが謝ることはない。俺の身体が弱かっただけの話……それに、命の恩人に報いなければ何が王か」
「そうじゃ。ロードに咎はない。むしろよく魔王を倒してくれたわ。そうでなければヴァルハラはより危険な状況へと向かっていたであろう」
「は、はい……そう言って頂けると……」
「うむ。さて、まずは状況の整理からじゃな。バイパー説明せい」
「は……」
バイパーさんの話によると、今危険なのは3つの事柄だという。
まずは何よりティーターンとレアの戦争状態。
今は睨み合いが続いている状況で、レアはそれをやめる気はないらしい。
オリンポスとケルトがなんとか話し合いで解決しようとしているが、交渉は難航しているようだ。
次に竜族。
アルメニア付近では強力なドラゴンが度々現れるようになっており、かなり不穏な空気が流れているという。
そういえば、バーンさんが以前にドラゴンの数が多いって言ってたな……。
そしてティタノマキア。
目的も思想も分からないが、この機に乗じて何か動くのではないかというのが各国で噂されているようだ。
「今レアにはバーン様達が向かっており、レアが戦争を起こそうとした理由を探っています。竜族に関してはギリシアとアルメニアが連携して対処するようですが、もし仮に竜族が本気ならば我らニーベルグやオリンポス、ケルトも加勢しなければ止まらないでしょう」
「もし魔族が未だに力を持っていたらと思うと恐ろしいことじゃ。魔族はケルト側から、竜族はアルメニア側から侵略を始め、人間は北へと追い込まれる。その北では人間同士の戦争が始まり、ヴァルハラは全て戦火に包まれておったかもしれん」
「確かに……因みにティタノマキアに動きはあったんですか?」
「今のところはないの。無論、我らが知り得る範囲ではあるがな。奴らに関しては何を基準に動いているのかが分からんからな。何か目的があって暗殺を繰り返しておるのだろうが……声明文もよう分からんしな」
声明文……あの詩みたいなやつか。
確かにあれはよく分からなかったが……ちょっと引っかかることもあったんだよな。
「まぁ、今は分からぬことに頭を使っている場合ではない。ティーターンとレアの戦争はなんとしても止めねばならん。オーランドよ、お主の国は直接関わっておるのだろう? 何か情報はないのか?」
ニーベルグ王の言う通り……今はティタノマキアの目的を考えている場合ではないか。
今の状況を打開するのが先決だろう。
「うむ……俺もようやくそれに手をつけ始めたのでな。エディ、彼女は?」
「は……もう間も無くここへ到着するかと。昨日までオリンポスにおりました故」
「ん? 彼女とは誰じゃ?」
「ああ、我がケルト軍の全指揮権を任せている者だ。まだ若いがその実力はケルトでも1、2を争う程よ。そして何より頭が切れる。俺が自由に動けるのは彼女とエディ、そして我が息子のおかげよ」
「なるほど。かの有名な〝ケルトの三傑〟か。息子は息災か?」
〝ケルトの三傑〟……聞いたことはある。
ケルトを支える優秀な3人の騎士。
それぞれが一騎当千の強者で〝彼らがいる限りケルトは落ちない〟とまで言われている。
そうか……エディさんもその1人なんだな。
「おかげ様でな。息子も彼女と共にオリンポスに行っている。多分一緒にここへ……」
その時、部屋の扉がノックされた。




