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無能と呼ばれた俺、4つの力を得る  作者: 松村道彦
第4章:闇へと堕ちる病

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第98話:神の子

 

「シェリル……お願いだから出てきて……!」


「……ごめんママ。体調が悪いからそっとしておいて」


「でも……もう1ヶ月もあなたの顔を見てないのよ!? お願いシェリル……お願いだから!」


「だから寝てれば治るってば……ほっといてよ」


「ミルちゃんとリンちゃんも来てくれてるのよ? だから出て……」


「だからぁっ! 嫌だっていってるでしょ!? 出たくないの! 誰にも会いたくないの! なんで分かってくれないの!? ほっといてって意味分かる!?」


「シェリル…………どうして…………」


 どうして?

 そんなの……そんなのこっちが聞きたいよ。

 だって、1ヶ月経っても……紙はピクリとも動かなかったんだから。

 もう……時間切れなの。


「うっうっ……なんで……なんでよぉ……」


 出られる訳ない……。

 "無能"だと分かった瞬間……きっと捨てられる。

 だったらこのまま一生ここで生きる方がマシ。

 パパとママに捨てられるくらいなら───


「シェリル……」


 ……今度はパパか。

 でも、何を言われたところで……ここからは出られない。


「私達はシェリルに何があったのかは分からない……けどね、何があっても私達はシェリルの味方だ」


 パパ……そんなの無理だよ。

 私が無能だって知ったらきっと───


「私は今でも覚えているよ……君が生まれてきてくれたあの日のことを。本当に嬉しかった……この子の為なら死ねるって……本気でそう思った。そして、それは今でも変わらない」


「うっ……うぅっ……」


「話してくれなくてもいい……信じてもらえないのは少し寂しいけど……そんなことはどうでもいいさ。シェリルの可愛い顔さえ見られればそれで……それだけでいい」


 パパぁ……。


「この扉を壊すことは簡単だ。でも、私はそんなことをしたくない。だって……私はシェリルを信じているからね。私の大事な大事な……愛する娘であるシェリルが、その可愛い顔をまた見せてくれることを……」


「ママも同じよ! あなたと……あなたとずっと一緒にいたい! シェリル……あなたを愛してる……!」


「シェリル! 何かに悩んでるなら私達にも相談してよ!」


「そうだよシェリル! 私達……親友でしょ? シェリルの苦しみは私達の苦しみだよ! だから……だから出てきて!」


 ママ……ミル……リン……!


「シェリル……みんな……君を愛してる」


「パパぁっ!!」


 私は扉を開け、目の前にいたパパに抱き着いた。

 温かいその胸の中に包まれた私は、


「シェリル……ありがとう……」


「パパ……パパぁ……」


 本当はもう限界だった。

 誰かに聞いて欲しかった。

 この不安を……この悲しみを……死よりも恐ろしいこの恐怖を……。


「私っ……うっうっ……」


「大丈夫だシェリル……もう大丈夫……」


「もうっ……1人じゃっ……ああっ……抱えられなくて……!」


 もう言ってしまおう。

 きっと大丈夫……。

 この4人なら……絶対に受け止めてくれるから……!


「私……私ね……! 魔法が使えないのっ……!」


 その時、私を抱き締めてくれていたパパの手が緩んだ。

 瞬間、凄まじい悪寒が私の身体を駆け巡る。

 それと同時に、まるで音だけがどこかにいってしまったような……そんな錯覚に襲われた。

 さっきまで聞こえていたママやミル達の嗚咽は消え、その恐怖に耐えられなかった私は……恐る恐るパパの胸から顔を離してみんなを見てしまう。


「あ……」


 みんなの……顔が…………。

 なによ……。

 なによその顔……!

 やだ……やだよ……!


「いや……違う……違うのっ! いや……いやぁぁぁぁぁぁッ!!」


「ぐっ!? シェ、シェリルッ!」


 私はパパを突き飛ばし、一気に階段を駆け下りて家から飛び出した。

 裸足のまま……夜の町を私は走り抜ける。


「やっぱりッ……やっぱりダメだった……!」


 言っちゃダメだったんだッ!

 なんで言っちゃったの!?

 なんで信じちゃったの!?

 なんで私が───


「無能にならなきゃ……いけないのッ……!?」



 ──────────────────



 気がついたら、私は見知らぬ小屋の中にいた。

 どこをどうやって走ったかなんて覚えてないし、ここがどこなのかも分からない。

 とにかく逃げたかった。

 家族からも親友からも町からも……そして現実からも。


「パパ……ママ……うぅっ……うっ……うっ……」


 もう王都には戻れない。

 あの顔は……そういう顔だった。

 私はふらふらと小屋の外に出る。


「もう朝に……ここは……どこなの?」


 いつの間にか眠ってしまっていたようで、辺りは既に明るくなり始めている。

 私が辿り着いたその小屋はボロボロで、今は誰も使ってないみたいだった。

 私はもう一度中に入り、小屋の中を物色する。

 鍋やスコップ、バケツにランプ……釣り竿や火打ち石もあるし、薪割り用の斧と……あ。

 机の引き出しの中に錆びついたナイフが入っていた。

 私はそれを握り、ゆっくりと首に当て───


「はぁっ……! はぁっ……!」


 もうなんの希望もない。

 死ぬしかない。

 両手で握ったナイフを首に押し当て、少しずつ力を込める。

 手はガタガタと震え、その冷たい感触が私にこれが現実だと教えていた。

 夢も希望もない……悲しい現実を。

 でも……でも……!


「うっ……うぅっ……! 死にたく……ないよぉ……! まだなんにもしてないっ! まだなんにも……!」


 ナイフを机の上に置き、私は椅子に腰掛け泣き続けた。

 魔法も……死ぬ勇気も……生きる価値も……私にはなんにもない。

 本当に何も───


「ん……?」


 机の上に置かれたナイフをぼーっと見ていたら、その下にある紙に目がいく。

 何の気なしにそれを手に取り開いてみると、黄ばんでいて見えづらかったが、それはアルメニアの地図だった。


「嘘……アルメニアの端っこじゃない……」


 地図には小屋の絵が描かれており、そこに赤く印がついている。

 そのおかげで、今自分がどこにいるのかようやく分かった。

 私が住んでいた王都から今いる場所はかなり遠く、とてもじゃないけど一晩で走れる距離ではない。

 というか、馬車でさえここまで数日は掛かる筈だ。


「わ、訳わかんない……でも……」


 地図によると近くに町もあるし、川も流れてる。

 ここなら誰にも見つからない。

 死ねないなら───


「やるだけ……やってみようかな……」



 ──────────────────



 私がこの小屋で生活を始めてから、もう3年が経った。

 夜中に近くの町に行ってゴミを漁ったり、畑から食べ物を盗んだり、その種を植えて畑も作ったし、釣りをしたり罠を仕掛けたり、なんだかんだ楽しかった気もする。

 人間、死ぬ気になればどこでだって生きられるらしい。

 必死に生きてたら、いつしか死ぬことも忘れていた。


「……無理だ」


 でも、もうダメだ。

 普通に生きられるようになってきたら、逆にどんどん苦しくなっていった。

 必死に生きようと頑張っていたから忘れていたけど、結局希望なんてないことに気付いてしまったから。

 やれるだけのことはやった。

 魔法の練習もした。

 でも、何も変わらない。

 一生このまま。

 だからもういい。

 3年という月日は、私に死ぬ勇気だけを与えてくれた。


「さよなら……パパ……ママ……」


 本当はずっと一緒にいたかった。

 大好きだったから。

 ミルもリンもそう……みんなは悪くない。

 私が無能だったからいけないんだ。

 そう思うと、涙が溢れて止まらなかった。

 奇跡が起きるのをどこかで願って生きてきたけど、そんなものはどこにもない。

 だからもう……生きていたくない。


「ああ……なんて意味のない……」


 そうして、私が立っていた椅子を蹴ろうとした瞬間、小屋の扉が勢いよく開かれた。


「えっ!?」


「お、いたいた! ん……? おいおい! 死ぬとこだったのか!?」


 開かれた扉から、数人の男が入ってきた。

 服装からして多分アルメニア兵士……。

 な、なんでここに───


「なぁ、お嬢ちゃんあんたさぁ……無能だよな?」


「え…………」


「その反応……当たりだな」


「やったぜ! これで出世間違いなしだ!」


「な……なに……?」


「お嬢ちゃん……もし無能じゃないなら魔法を使ってみてくれ。ちゃんと使えたら帰るからよ」


「え……いや、あの……」


 心臓が痛い。

 なんなの……なんなのよ。

 私はもう───


「やっぱり無能だな」


「ち、ちが……」


「俺達は無能を探しててなぁ……そしたら、町である噂を聞いてよ。何年か前から、ゴミ漁りしてる女の子がいるって。んで、調べてたらこの小屋に辿り着いたって訳よ」


 やだ……。


「なかなか苦労したぜ……地道な聞き込みでやっとだ」


 やだってば……。


「さ、一緒に……」


 私は立っていた椅子を蹴飛ばした。


「ぐがっ……!」


「こ、このアマ!」


「下ろせ下ろせ!」


「早く縄を切れ!」


 すぐに縄を切られ、私は男達に拘束された。


「ゲホッ……やだっ……やだぁっ! やめでぇっ!」


「大人しくしやがれ!」


「縛れ早く!」


 やめて……!

 もういや……!

 私はもう……!


「お願いだがら死なぜでぇっ!!」



 ──────────────────



 某国───


 ロードが目覚めた頃、ある城の一室に彼らはいた。

 9人の男女は机を囲み、来たるべき日に向けて言葉を交わす。


「いよいよだ」


「結構掛かったねー」


「そうかぁ? むしろ早かったろ」


「んで、こっからはどうすんだよ大将」


 全員が1人の男を見る。

 彼は腕を組んだまま、全員の視線を受け止めた。


「最後の詰めを。後は勧誘……やはり彼は欲しい」


「ムムが"視た"のか?」


「うん。強いよ」


「ああ……凄まじい強さだ。元無能であることは、分かってたしな。後は、アルメニアの方か」


「アルメニアねぇ……どんか感じだ?」


「報道はされてないけど、3ヶ月くらい前かなぁ? 運がいいよあの子。たまたま"視えた"から」


「あらら、丁度いいタイミングでしたね。リーダー、班分けは?」


「ねぇねぇ! あたしはあたしは!?」


「気がはえーよ……大将に任せろ」


 大将と呼ばれたその男は、男女をいくつかの班に分けそれぞれに指示を出す。


「やっぱりフェイクと一緒かにゃ……飽きたにゃ」


「そりゃこっちのセリフだ……」


「フェイク達は彼の元へ行った後にアルメニアへ。ムムを連れてな。ジェイド達は先に行け」


「はいよ」


「りょーかいにゃ!」


「では、解散」


 1人また1人といなくなり、部屋には2人の男女が残った。

 女は席を立ち、まとめ役の男の膝に座る。

 さらに女は男の肩に手を掛け、その身体を預けた。


「いよいよですね……」


「ああ……いよいよだ。だが、ここからでもある」


「ふふ……あなた様に救われたこの命……あなた様の為に……」


「期待している」


 2人は口づけを交わす。

 薄暗い部屋に吐息が漏れ、彼らは激しく求め合う。

 見据えるは、遥か高いその頂《いただき》。

 全ては復讐の為。

 自分を、自分達を虫ケラ同然に扱い、人生を踏みにじられたその恨みを晴らす。

 なんとしても、なにをしても。


「時は満ちる。我らは神の子……ならば、成し遂げる以外にあり得ない」


 世界がまた、大きく動こうとしていた。


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