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東の魔王 1

「今日も東は平和だな。皇帝に報告書出さねえと……」


ここは人間界ヒドゥングニ、その名の通り人間の世界。

かつて天界と魔界の狭間に置かれし、魔法界ミーゲンヴェルドと一別された。

この世界は所謂、魔王と勇者がいる世界ではなく、強い魔力を得た人間が魔王と呼ばれる。


「こんばんは! ここ魔王のお城!?」


そぐわぬ可愛らしい声が聞こえて来たと、振り向く。


「は?」


そこに誰もいないなんて、思わず間の抜けた反応をしてしまう。


「雇ってくださいなっ!」


いつの間にか、奇妙な少女に背後を取られていた。




「暗黒帝、下賤の輩が西城へ入り込みました」

「通すがよい」


広大な城の四方を各魔王が固め、中央を絶対の秩序たる暗黒大皇帝が守護している。

荘厳たる城の内部は黒で固められ、下賤は鎮座する皇帝の神々しき姿に男は恐れ慄いた。


「己が踏み入れた人外への狭間、震えているが怖いのか?」

「金がほしい!」


高級そうな衣服がはボロボロになっている。

国で贅の限りを尽くしたものの、財政がままならなくなった。

自国は飢えに苦しみ出したと、国王と名乗る男は言う。


「醜い豚よ、釜茹でにされるなら銅が良いか?」

「ひいい……!」


男は城から逃げだし、深い森へと入っていった。



「これより、東魔王の幹部志願者の面接を開始いたします。お入りください」

「失礼します! 名前はファニム・オルフェベーラ

ブルーム王国からやって来ました!」


まっすぐなクリーム色の髪、白い仮面で目と眉の動きは読めない。

首から下は大きなリボンのついたケープ、足までの丈の今時ない白く清楚な衣服。

どこかのご令嬢か、それにしては身体能力があり、只の人間の動きではなかった。


魔王と呼ばれる我々の場合、魔法界に嫌気がさして人間界に君臨している。

互いに顔見知りで、俺は赤子の頃、父に連れられて魔法界を抜けた。

つまり彼女のような力をもつものは、魔法界から何らかの理由で降りてきたのだろう。


「ぜひ自国を侵略して頂きたいです!」

「は?」


いきなり何を言い出すかと思えば笑顔で物騒なことを嘆願してきた。


「あの…さ、意味わかって言ってるのか?」

「そんなことおっしゃらずに、ブルーム国を見てくれませんか~!?」


ファニムはまったく人の話を聞かないというか、先読みしている傾向がある。

まだ断っているわけでもないのに、それほど国が嫌いなのだろう。


「見るだけな」


(待てよ……まさか)


東の城を開けさせ、警備を手薄にする作戦じゃないだろうか?


「ファニム」

「何ですか~?」


嘘をついているのか、疑いながら強く彼女を睨む。


「俺はここの魔王、簡単に城から出るわけにはいかないんだ」

「そうなんですか? 魔王ってもっといかついんだと思ってました!」


でも見ると言ってしまったのに破るのは最低だ。


「今からここで視る」

「え、どうやっ……」


区分・ヨウコク:区域はフランポーネのブルーム国。

領地面積はこの城全域と同等、民が空腹に倒れて叫んでいる。

城の前には民が集まり、石や靴を投げつけていた。


「これは酷いな、すぐに皇帝に掛け合う……」

「よくわかりませんが嬉しいです!」



さてと、皇帝のいる場所に着いた。

ここに来るにはいくつもの仕掛けが必要で、毎度パスワードも変わる。


(正直めんどうくせえ!)


「……ああ、もう6時すわ!」

「今日もお疲れ様でした。これ今日のお給金ね」

「じゃあなー金龍」


聞こえてきた会話はお客には見られたくない場面だ。


「む?」

「誰だ!?」

「俺だよ」


どうしようもないのでドアを開ける。


「私ファニムです!」


顔面蒼白の二人に、ニコニコ笑顔のファニムが挨拶する。


「まあ、友人でもあり、契約関係なんだよね。今はそれしか言えない」


魔法界離脱前、4魔王と皇帝は友人で、誰が皇帝につくか話し合った。

結果的に見かけはそれっぽいが、魔法が得意で戦闘は苦手な金龍になる。

物理兵をけずり、魔法使いを叩くという戦法だった。

魔法界と人間界を行き来するゲートを開くには膨大な魔力と技術が要る。

彼にはここで魔力を備蓄してもらうのだ。それを話すわけにはいかないが。



「なるほど、そういう経緯で……」

「王が逃げおおせた今こそがチャンスです!」


荒れた国はどうにもならない。だからせめて一思いに攻めて壊してくれと彼女はいう。


「でも、さっき王は資金援助に来たというじゃないか」

「援助などなさったんですか?」

「まっさか、断ったさ」


ほっとした様子に、むしろこちら側が驚く。


「なぜ君は資金援助を乞い、国を建て直そうとしないんだ?」

「意味がありません……どの道、愚王シュバインが散財するんですから」


彼女はここに来て初めて感情を露わにした。

怒りと憎悪と落胆が入り混じっている。よく正気でいられるものだ。


「散財王により疲弊するばかり……これ以上、下はないか」


このままあの国が飢え死にするか、焦土に変わるかなど大差なく結果は同じだ。



あっという間に城は降伏した。王子は配下と既に逃げていて、城には豚しかいなかった。


「どうせ貴方は処刑されます。じゃあ、今死んでもらいましょう」

「なにをいうか! この! お前は何ものだ!」


ファニムは仮面を外した。その姿に動揺している。


「天遣族か……! 権威を奪われ取り返しにきたのか!?」

「こんな穢いもの、もういりません」

「かつてお前の従姉に産ませた卵は美味であった!

病で死んでしまうとは……もう一度あれが食いたい!」


彼女は無言で手に持っていた仮面をブーメランのように王の顔面へ投げつける。


「ふぐぅ!」


額にナイフのように鋭利な角が突き刺さったのか。

軽く飛沫が彼女のスカートへ飛ぶ。ファニムが不快そうに破り捨てた。


「さようなら」


白というのは純粋であるが故、染まりやすい。

たとえば天使は位が高いほど純粋で悪魔に堕ちやすいと聞いたことはないか?





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