奴隷と大賢者1 絶対無理だね
『世の中にできないことはないのよ』
『お姫様と結婚できる』
『英雄になればいい』
『大金持ちになれる?』
『先駆者はいるわ』
『じゃあね……』
「おーい」
「なんでしょうか先輩方」
「フェルズ、お前は大賢者になってから未だに12神の天啓を受けていないらしいな」
「天啓は気まぐれですから、何年かかるか……」
「このぶんだと200年はかかるか?」
「はっはっ! それはないだろう」
◇
「あー大賢者さまだー!」
「すごいことだ」
「この小さな国から現れるなんて初めてだものね!」
新入りだと連中には馬鹿にされるが、地元には俺を称える人であふれていた。
俺が初の大賢者だからというだけで、どんな生まれだとかに興味は示さず。
井の中の蛙だということはいやでも痛感するのだ。
「奴隷ちゃーん頼んだのは下巻だよぉ、なんで上巻まで買ったの?」
「も、もうしわけありません!」
案外優しい奴隷主じゃないか助けに入る必要ないな。
世の中にはもっと苦しんでいるやつがいるんだから目の前の小さな問題など気に掛ける必要はない。
◇
「あなた大賢者ですよね」
「いかにも」
「私はルテー。一族は代々奴隷です」
「それは真言か? 奴隷にしては堂々たる振る舞いではないか」
「あたしは製造用ですから。親のお金がなくて奴隷製造手術をしてなくて」
「大賢者を呼び止めてなにか大用でも?」
「奴隷やめたいんです。奴隷と結婚してまた奴隷が続くようなバカげた負の連鎖を止めたいんです」
「なんとか身分を上げたいので導きの言葉を、ということか」
「無理ですよね」
「無理だろう。専属奴隷なら奴隷商に売られないだけマシじゃあないか」
「あなた平民あがりで孤児で大賢者になったのに、奴隷を平民にすることすらできないんですね」
「……煽るじゃん。お前……俺の過去を知ってるんだ」
「ジェール孤児院、知ってますよね」
「ああ」
「雇用されていない側が雇用されている側を見下すなんておかしいではないですか」
「お前おもしろいな。気が向いたら協力してやろう」




