雅②
祭を終えた次の日。何故梅がそこにいるのか僕には理解することができなかった。
一瞬それが見間違いなのかとも思ったが何度も瞬こうと、目を擦ろうとその姿は消えない。
そこにいるのは紛れもない本物の梅なのだと理解すると同時にさっと血の気が引いた。
祭に姿を見せなかった桜。楽しそうな梅。それらの記憶がありえないはずの状況を導き出す。
気づけば梅に駆け寄っていた。
梅は沢山の村人に囲まれていた。梅は顔を両手で覆い嗚咽を小さく漏らして肩を震わせていた。
泣いている、そう思ったがそんなこと気にしてる暇はなかった。
僕は人を掻き分け梅の肩を力強く掴むと怒鳴るように言った。
「なんでここに梅が……!?桜はどこに行ったの!??」
梅は突然のことに驚いたのか顔を上げ目を丸くして僕を見た。その目は赤く染まっており、頬には涙の跡があった。
それを確認しすると共にぞくり、と寒気が走った。
一瞬梅がとても冷たい表情をした気がしたのだ。
だが、すぐに梅は顔を歪め再び両手で顔を覆う。震える声でごめんなさい……!と声を漏らした。
それに今まで呆然としていた村人達が庇うように梅から僕を引き離す。
そうして可哀想に……と梅の肩を抱いた。
「雅」
「兄上……!」
名前を呼ばれそこでそこに兄がいたのだと気づく。
そしてそれと同時に昨日の兄の様子も思い出した。
絶対に兄はこの事を知っていたはずだ。
「どういうことですか!?これは!何故梅がここに!!桜は……」
「生け贄は桜となった」
その言葉に僕は衝撃を受けた。
まさかとは思っていた。けれど、そう言葉にされればそれは確かな衝撃が僕を襲う。
「なんで、そんなことに……!そんなこと許される訳がない!!父は……長は!長は許したのですか!?」
「ああ。お前以外は皆受け入れている」
「なっ?!桜も、それを受け入れたのですか!?」
「……そうだ」
僕はもう言葉も出なかった。
何がどうしてこんなことになったのか僕には全くわからなかった。
お前は桜を気にしているようだったから言えなかった、と言った兄の言葉に僕は拳を握りしめる。
そんなのは当然だ。
何故、どうして桜が生け贄になんてならなくてはいけない。
桜がいったい何をしたと言うのか?ただ、出来すぎた姉を持ってしまっただけ。
気づけば僕はそう言葉を紡いでいた。
「助けなきゃ……」
「? 何か言ったか?」
「桜を助けなきゃ」
その言葉に周囲はざわついた。でも僕はそんなのに構っている暇なんてない。
彼らに背を向けて僕は歩き出す。待て!という兄の声が聞こえたが無視して走り出した。
生け贄にされて帰って来た娘はいない。でも、もしかしたら、まだ、今なら桜も……。
そう思って走る。けれど、まだまだ大人になりきれない僕はすぐに兄に捕まってしまう。
「離せ!!」
「どこに行く!?神社に行くのは禁じられているんだぞ!?」
「どの口がそれを言うんだ!身代わりだって許されるものじゃない!!!」
僕は抵抗した。けれど、力で勝てるはずがない。
そうして僕は無理矢理家へとつれていかれ、部屋へと閉じ込められたのだった。