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ふと思った。ここはいちおう神社なんて呼ばれているのだから拝殿とか、本殿とかそんなものはないのか、と。そもそもご神体はどこだ。どこなのだ。神社と言うくせにここは鳥居を抜ければ家だ。誰も入らないからとちょっと油断しすぎだと思う。

せめて神社としての体裁は守るべきだと思う。私もそこまで神社に詳しくはないけれど、神社と言えば祈る場所だ。祈らねば。

そう思って神様に言ってみた。すると神様に言われた。


「どうぞ?」


「え」


「祈りたいんだよね。どうぞ?」


「え」


祈るってどこに?私はきょとんとする。え。ここの敷地内に祈るとこなんてあった?あれ?けっこうこの神社について理解してきたはずなんだけど、そんなところ見当たらなかったよ?

あれ?と考えていると神様に不思議そうに言われた。


「祈らないの?」


「え、何処でですか?」


「今ここでいいよ」


「え」


ここで?なんか鐘とか鳴らさないの?じゃらんじゃらんて。私は困惑し、神様を見る。神様も困惑したように私を見た。


「……鐘はどこですか?」


困惑しながらそう言えばないよと言われた。ん?え?ん?


「どこに向かって祈れば……?」


「僕」


「え」


神様に向かって……ん?神様?


「あ」


祈る相手はもはや目の前にいた。というか常時ついてきていた。

とりあえず、私は神様二礼二拍手をした。と、ここでお祈りごとを言わねばならないのだが、あいにくまだ考えていなかった。しばし考え


「《とりあえず、私を裏切った奴らに天罰がくだりますように。あと、お姉ちゃんは幸せに暮らせますように》」


と、お祈りしておいた。そして一礼して顔をあげる。神様の赤い瞳と視線が絡んだ。


「……桜、誰かに裏切られたの?」


「っ!?」


なぜそれを知っている?!私は驚愕で目を見開く。なんだ。なんだ。特殊能力か何かか?!さすが神様!とか思っていたら神様が今お祈りしたでしょ?と言ってきた。


「え。祈ったら神様に伝わっちゃうんですか?」


「伝わらなかったらどうやってお願いを叶えるの?」


と不思議そうに答えられた。

うん。たしかにそうだ。逆に聞こえなかったらだめだ。インチキになる。うん。

……でも、それってもしかして今まで神様に私の思考が筒抜けになってたって訳じゃない、よね?それは困る。すごく困る。いろいろ失礼なことを考えすぎてた、私。

冷や汗をかきながら神様に問えば神様には祈らない限り聞こえない、と言われた。心底ほっとする。


「で、桜は誰に裏切られたの?」


「え。誰にって……」


姉以外の村人全員です。そう言いたかったが、やめた。神様なんか目が本気だ。


「えっと……これ祈ったら願い叶えてくれちゃったりします?」


「桜が望めばね」


叶えてあげるよ、もちろん。と言われた。

正直あのお願いはのりで言った。天罰くだれと本気で思った訳では……なくはないが、でもノリ的には子供が喧嘩して「馬鹿!あいつなんて犬に追いかけ回されて肥溜めに落ちちゃえばいいんだっ!」ていうような感じだ。だというのに神様に天罰を願えば、ちょっとした天罰じゃすまない気がする。

正直、村人達のことは憎い。うん。憎い。でも、だからって酷い目に合わせたい訳ではない。たしかに、転べっ!とかは思うけど、それだけだ。もし私が神様に殺されていたらきっと私は悪霊になって祟に行っただろうけど、今のところ私は生きている。暮らし的にも不自由ない暮らしをさせてもらってる。村の時と変わらず、いや、むしろ村の時よりも……


「桜?」


「あ、ご、ごめんなさい。ぼーとしてました」


どうやら考え込んでしまっていたようだ。心配そうに私を見る神様に笑顔でそう返す。


「で、どうするの?」


「あー……。やっぱりいいです。取り消しで。二つ目のお願いだけお願いします」


「そう?……わかった。お姉さんに、だね。」


「はい。ありがとうございます」


お願いします。と言ったものの、具体的にどうやって叶えるのかな、と少しだけ疑問に思う。思うが、聞けば神様に願いの実行の催促をしているみたいになる気がして、やめた。

まあ、どうしても叶えてもらいたい願いな訳ではない。姉は願うまでもなく、きっと幸せだ。だって、姉は村の誰からも愛されている。大切にされている。私が姉の身代わりになったことで、優しい姉はきっと自分のせいではないのに後悔して、傷ついて、落ち込んでいるはずだ。それだけが、少し心配だけれど、そこはきっと村人がなんとかしてくれるだろう。……してくれねば困る。

大好きな姉。私を唯一、大切にしてくれた姉。あなたは、あなたのままでいいのよ、そう言ってくれた、私の唯一、大切な人。

どうか幸せで、そう願わずにはいられない。



●〇●〇●



その日、私は夢をみた。優しい姉の夢。ああ、これは過去の夢だと気づく。姉の夢は好きだけど、この夢はあまり好きではない。だって、これはあまり良い記憶ではないから。

私には友達はいない。そもそも小さな村だったから、年の近い人間自体そんなに多くはなかった。それでも、二つ年の離れた姉はいつも友達に囲まれていた。羨ましくて、自分も共に遊びたくて、姉といれば私とも仲良くしてくれるかな?とそんな浅はかなかことを考えて姉にへばりついていた、幼い頃。

皆、優しかった。皆、笑いかけてくれた。……姉のいる前では。

姉が少し離れると皆は私とは遊んでくれなかった。皆、私のことが嫌いだったから。

皆は言った。どうしてあなたは笑っていられるの?と。姉が生贄にならなくてはいけない運命にあるというのに呑気に笑わないで、と。だから、私は笑うのをやめた。けれど、そうしたらまた言われた。姉があんなに気丈に振る舞っているのに、どうしてあなたはそんな辛気臭い顔をするの?姉に余計な負担をかけさせないで。辛いのはあなたじゃないのに、と。

私はわからなくなった。笑ってもダメ。笑わなくてもダメ。じゃあ、どうすればいいの?わからなくて、混乱して、私は姉に泣きついた。母にも父にも言えなかった。だって二人は私の味方なんかじゃなかったから。

姉は、姉だけが私の唯一の味方だった。姉は私の話を聞いて、私を抱きしめて、皆に憤ってくれた。もちろん、その後皆と関係が修復したかと言われたらしなかったけれど。逆にチクッたとさらに嫌われたけれど。

それでも、姉の言葉が私を救ってくれたのだ。


『あなたはあなたのままでいいの。誰がなんと言おうとも、私はあなたがあなたのままで、そのままでいてくれるだけで、嬉しいわ』


その言葉で私は救われた。

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