幽霊②
神様に連れられていった先には畑があった。けっこうな大きさの畑があった。そして、変なものが畑の世話をしていた。
あれはなんだ。なんか半透明なあれはなんだ。あの足の方がよく見えない生き物はなんだ。……生き物だよ、ね?
「か、かかかかかみ、神様っ!!」
「うん?」
「あ、あああああれ、あれはっ!」
がくがくぶるぶる震え、神様の肩をつかみ震えていたら
「うん。幽霊」
「ぎゃあああああああ!!」
ゆ、ゆゆゆゆゆう、幽霊!?
「塩おおお!!」
「落ち着いて、桜。落ち着いて」
無理っ!無理ですっ!無理っ!幽霊って……幽霊!?あの、幽霊!?ぎゃああああ!!!!
「桜。桜」
「悪霊退散!悪霊退散!」
「桜効かないから。そもそも悪霊じゃないから」
なんか神様がごちゃごちゃ言っているけれど、かまっている暇はない。逃げたい!この場所から逃げたい!なのに、神様と繋いだ手が離れなくて逃げられない。神様小さいくせに力が強いっ!はーなーしーてー。
「桜。怖くないよ」
「どこがっ!?」
そりゃあ神様は神様だから怖くないかもしれませんけど、こちとらただの人間なんですよ!生贄とか巫女とか言ってるけれど、それ自体も身代わりな訳で!
その後も私の悲鳴は止まらなかった。
●〇●〇●
「……落ち着いた?」
「……はい」
それから何十分も叫び続け、私の声はガラガラだ。とりあえず幽霊が危険じゃないことはわかった。怖いけど。怖いけど。怖いけど。
「さっきも言ったけど彼らは幽霊なんだ」
「まあ、あきらかに幽霊ですよね」
もう見るからに幽霊だ。透けてるし、足見えないし、顔色悪いし、たまに矢が刺さってるし、血とか出てるし、怨みこもった顔してるし。夜中に見たら絶対叫ぶ。……昼間でも叫んだけれど。
そんな彼らは何故か必死で畑仕事をしている。あーあー唸りながら作業している。殺してやるとか言いながら作業してる。ちょっと、いやかなり変な光景だ。
「彼らには色々手伝ってもらってる。家の掃除も彼らがしてる」
「えっ」
「前の巫女が怖がったから。なるべく会わせないようにしてた」
え。ていうことはもしかしてすれ違ったりしちゃったりしてたのではっ!?
ぞっとした私に気づいた神様は無表情で落ち込んだ。
「言っておいた方がいいと思ったんだけど……怖いならもう会わせない」
ええ。ぜひそうしていただきたいです!と言おうと思った。現に一度口も開いた。が、私はそれをやめた。たしかに怖い。怖い、が。害はない。それに、畑を世話したり、掃除したり……全部、私のためでもある。さすがにそんな人……幽霊達に怖いから出てくるな、と言うのは躊躇われた。
「………い、いいです。会わせないようにしなくて」
私はたっぷりの間をとりながらも、なんとかそう言えた。
●〇●〇●
野菜はわかった。が、魚は?と思ったらこれまた幽霊だった。幽霊が川で見事に魚を釣ってた。「許さない……」て言いながら魚を釣ってた。
野菜はわかった。魚もわかった。じゃあ、肉は?と思ったらこれまたこれまた幽霊だった。「待って……行かないで……?」と言いながら動物を狩っていた。動物はプルプル震えながら御臨終されていった。これが弱肉強食の世界か、と世界の厳しさを知った。
当然季節や時期により食材を得られない時もある。その時は幽霊の中でも人間っぽい(血がついておらず矢とか刺さってない)幽霊が神様に力を強めてもらい実体化して人から買っているらしい。
私はそれらの説明を聞き、神社へ帰る。すっかりと高かった日は落ち、景色は夕暮れに染まっていた。
「幽霊は怖くなくなった?」
「それはないですけど……前よりはたぶん耐性がつきました」
うん。あんなに沢山の幽霊に会えばさすがにね?悲鳴を上げないくらいにはなった。でも、怖くなくなる日はこないと思う。そう思って神社に帰ったら、まさかの神社が幽霊神社になっていた。
悲鳴をあげてなんで?!なんで?!と神様に訴えたら隠れなくていいって言われたから、と答えられた。
これからこんな沢山の幽霊に囲まれるのかと思うとぞっとした。また、今まで隠れていただけでこんなに沢山の幽霊に囲まれていたのかと思うとさらにぞっとした。