2.0.夢枕に立つ
ベッドに寝転がり、天井を見上げる。
まだこの天井には見慣れない。
授業は明日からだというのに、これまでのことを思い出し、なかなか寝付くことができない。
特に今日。洞爺唯子のことは、あまり思い出したくはなかった。
はあ、とため息をついた後、布団の端を手繰り寄せ、丸くなる。
瞼を閉じる直前、はらりと金の髪が揺れている様な気がした。
その夜、悠は久しぶりに夢を見た。
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「ねえ、なんであなたはこの学校に入ろうと思ったの?」
隣の女の子が尋ねてきた。
二人は、中庭のベンチで並んで座っている。
女の子のスカートの上には、綺麗に盛り付けられた弁当が広げられている。
そして、女の子は隣に座る相手に向かい、フォークに取ったトマトを近づける。
相手の方は、少し嫌そうなそぶりを見せるが、やがて観念したらしく口を開けてトマトを頬張る。
「ねえ、おいしいかしら?」
と女の子が問う。
男の方は、咀嚼しながらふるふるとかぶりを振る。
彼にとっては、それどころではなかった。
周囲には、多くの視線が集まっていた。
トマトの味など、よく分からない。
「ひどいわ、あなたはおとなしくおいしいって言っておけばいいのよ。」
女の子は、ふん、と拗ねたようにむこうを向いた。
少しして、女の子は彼に向かって振り向くと、もう一度問いかけてきた。
「それで、最初の質問だけれど。なんであなたはこの学校に、執事になろうと思ったのかしら?」
男は、少し考えて、そうだな、と答える。
話しておいた方が、後々の為になりそうだと思った。
あれは2年前、とある湖のほとりで交わした約束が始まりだった。
女の子は、真剣なまなざしで男の方を見つめている。