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1.3.涙の答えは

二人組を作りなさい。と言われた時にどうするだろうか?


学園で迎える最初の週末、新入生にはこの難題が与えられた。

これからの実習を行う際の、パートナーを決定する必要があるらしい。

締め切りは、週明け月曜日。



鳥海とりうみ ゆうの答えはこうである。

「ゴウ、組まないか」と。


一方、白山しらやま ごうの答えはこうである。

「悪い、もう決まってるんだわ」と。彼は済まなそうに苦笑しながら、腕の方を気にしている。


「なんなのだ、こいつは?」

と声が発せられる郷の傍らを見やると、怪訝そうな顔をした女の子が郷の腕を抱え込み、こちらを見つめていた。


「こいつは、悠っていうんだ。昨日知り合ってさ」


郷の説明に対し、ふうん、と女の子は興味なさそうに答える。


「そういうことであるから、他を当たることだ。ところで――」

と女の子が言葉を切る。


「此方を見ている女子は、其方の知り合いか?」



既視感のある視線がこちらに向けられていた。そしてその手はこっちへ来い、と振られていた。

洞爺とうや 唯子ゆいこその人である。


「知らない」

と悠はそう答えた。


「嘘吐け、前話してたじゃあねえか。我が儘お嬢様がどうの~ってよ」


この男、面白がっているな、と悠は思いながらも無視した。

幸い、きょろきょろとしている生徒がいたのでそっちに声を掛けにいくことにする。

今日のところは、何とか逃げられそうだ―

―と思った矢先、後ろからシャツに力が加えられる。


「鳥海さん。少し二人で、二人っきりでお話ししたいことがあるのだけれど。いいかしら?」

振り返ると向けられていたのは、洞爺唯子の素晴らしい笑顔だった。確かに心を惹かれる男が多いのも頷ける。しかし、悠が今引かれているのはシャツだった。心からは程遠い。


「無理だ、忙しいんだ。」

悠の答えに洞爺唯子は小首をかしげる。どうして?とでも言いたげだが、それでいて不満そうな印象は微塵も感じられない。


「いいじゃないか、行って差し上げろよ。もう話も済んだんだしさ」

郷が無責任に背中を叩く。

悠はあきらめたように、はいはい、とだけ答えると、洞爺唯子に従って歩き出す。

いってらっしゃい、という友人の声がずいぶん遠くに聞こえた。



「それで、何の用かな」

悠はとぼけたように質問する。


「言わないと分からないんですか?試験がその人を正しく測ることはできない、とはいってもある程度の指標にはなるようですね。G組の鳥海さん?」


「何が言いたいのか、さっぱり」

と悠が答える。

本当は分かっていた。この洞爺唯子は、課題である二人組のことを言っているのだろう。

しかし、人選がよく分からなかった。いや、分かりたくなかった。


馬虎学園のクラスは大きく3つに分けられている。

成績優秀者が割り振られる、A~C組。

中程度の者が割り振られる、D~F組。

そして、残りの、G組。


洞爺唯子はAクラスに配属されていた。つまり、もっとまともな相手をいくらでも見つけることができるということだ。なのに、自分を選ぶ理由とは…


洞爺唯子は、からかうように続ける。

「前、言わなかったかしら、鳥頭くん?それとも忘れちゃった?パートナーになって、とお願いしているんだけれど。」


「下僕じゃなかったのかい」

人の苗字で遊ぶな、と思いながら言い返す。


「あら、覚えていたのね。感心だわ。」

と洞爺唯子は嬉しそうに言った。

「で、なってくれるのかしら」


「なんで僕なんだ。君なら選り取り見取りだろう?」


「あら、それを言わせるの?私に?」


「分からないから仕方がないだろう?」

悠は、変な汗をかき始めていた。


「一目ぼれよ」

洞爺唯子は迷いなくそう答えた。



悠が言葉を失っていると、洞爺唯子は笑みを深くして付け加えた。

「――そう、その、“能力”にね」

と。


な、――、と悠が言葉を失っていると、洞爺唯子は距離を詰め、悠の頬に手を当てながら再び問うてくる。

「それで、私の告白は受けてもらえるのかしら?」


少し呼吸を整えてから、悠は答えた。



――お断りだ、と。



「そう、それじゃあ仕方ないわね。」

少し驚いたようにそう言うと、洞爺さんは、遠ざかっていく。その背中は、少し寂しそうに見えた。

悠が少しの罪悪感を感じながらその背中を見送っていると、洞爺さんがくるりと、こちらを向き直った。

その顔は笑っていたが、目元には水滴のようなものが輝いているように思われた。


そして洞爺さんは、口を開いた。



「――ごめんなさい、最後に1つだけお願いがあるのだけれど―――」


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