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(以下修正前)1.1.夕日とスキップ

「それで……こんなことになっているんだ?」


俺は、隣の青年に問いかけた。名を白山しらやま ごうという。

本人が言うところによれば、こいつは入学前に送られてきた書類全てに目を通したらしい。何という勤勉さか。はたまたそんなに暇だったのか。いずれにせよ、わからないことを尋ねると答えてくれるのはありがたい。


「どうだろうね、庭師のいないお屋敷では、こういった技能も必要とされるのかもしれないけれど、でも、なあ?」

郷は苦笑しながら答えた。


まあ、そう言えなくもない。何せ、今やっているのは校庭の木の剪定作業なのだ。それに、この校庭はやたら広い。夕方までかかっても、指定された区画を終わらせるのは、無理なように思えた。



「本当に…どうしてこうなった……」


===================================


広いな、というのが第一印象だった。

地図はあった。しかし、指定された場所にたどり着く自信はない。


―少なくとも時間内には。


オリエンテーション、と印字されている点に向かおうと入学式の席を立った悠だが、地図をどうも見誤ったようだ。


距離もそう遠くない。乗合いのバスに揺られるよりは、歩いた方が早いし、楽だ。というのが悠の出した結論だった。

なにせ、目的地までは、建物2つ分しかないのだ。


これが、誤りだった。この学園を甘く見ていた。ここは、何もかもが桁違いだ。建物2つ分とは、あまりに遠すぎる距離だった。

どうしようか、タクシーでも呼んでみるか、と考えていると、追い越していったバイクがハザードランプを焚きながら止まった。


フルフェイスを脱いだ顔が露わになる。


(何やってんだ…)

「おい、君、もしかして新入生かい?だったらバスがあったはずだぜ。」

バイクの男が尋ねる。何と答えようかと思案していると男が重ねる。


「まあ、この施設広いしなあ。ともかく、このままじゃあ間に合わないだろうし、後ろ乗れよ。」

後ろを指しながら笑った。


「助かった、地図を見間違えてしまって」


「まあ、確かにな。あの地図、簡略化しすぎなんだよ。わかり易さを求めた結果、伝えるべきものを伝えられないんじゃあ、書いている意味がない。それに、この学校、入学前に書類を送って来過ぎなんだよ。どれが重要なのかわかりゃしない。そのおかげで、書類全てに目を通す羽目になった。」

バイクの男の文句は、別のところまで飛び火する。


「え、あの書類全てに目を通しただって?ちょっとした辞書くらいの量はあったはず…それを?」

悠は驚いて尋ねた。


「当たり前だ。どれが重要かわからないだろう?それに、事実読んでないお前は今、道に迷っているじゃないか。」


「降参だよ。」

悠は苦笑し、


「そういえば、名乗っていなかったね、僕は鳥海 悠、クラスは――」


「G、だろ。俺は、白山。ゴウって呼んでくれ。下の名前な。同じクラスだ。」

クラス名簿か、本当によく見ているな。と感心しながら、悠はよろしく、と答えた。


「ところで」

ゴウは思い出したように言った。


「早く乗れよ、遅れるぜ。」

ふと見ると、時計は集合時間ちょうどを指していた。

===================================


「何って、お前のせいじゃないか。俺まで巻き込みやがって」

などと軽口をたたいてくる。


「すまないと思っている。でも、ゴウがいてくれて助かったよ。1人でこの校庭をやっつけるのは、骨が折れそうだ。」


(いつまでやってるんだよ、まったく)


「あの…」

そこには、申し訳なさそうにして立っている女の子がいた。

楚々とした出で立ちで、大和撫子そのもの、といった感じだ。

そして、申し訳なさそうに口を開く。


「教官が、戻ってくるように、とのことです。なんでも、口ばっかり動いて手が動いていないとか何とか…とにかく、戻ってくるようにとのことです。」


「分かった、わざわざありがとう。」

2人は礼を言うと教室に歩き出そうとする。


「ああ、漸く我が庭師生活ともお別れか。苦行だったが、これも終わりとなると寂しくなるな。」

などと郷が調子よくいっていると、先を行っていた女の子が振り返り、


「あ、それと伝え忘れていたんですけど、」

と付け加える。



「全部終わるまで放課後はないそうです」


うふふ、と笑みを浮かべて。


教室への足取りが重くなった気がして隣を見ると、友人も同じような心持だったらしく、背中を曲げている。


前を見ると夕日に揺れる影がスキップしていた。


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