終演
「ははっ、ははは、はははは!」
不快な幸雄の笑い声。
俺はもう一度幸雄に顔を向ける。
ヒカリが見せた写真の軽薄な男が目の前にいる。
男はのそりと立ち上がった。
「え、おい……」
縛っておいた手足は自由を得ている。
幸雄の手に光る何かが見えた。
硬質な銀色の光。
「ちゃんとさ、調べなきゃ」
幸雄はゆっくりとこっちに近付いてくる。
「三好幸造。三好幸雄」
「来るな、来るなよ」
後ずさりすら出来ぬほどに、俺の体は震えていた。
それほどまでに鬼気迫るものが彼にはあった。
「俺らの事、誰に聞いたの?」
幸雄は再び問うた。
「なあ」
「……」
「俺が親父の息子って、誰に聞いたのさ?」
幸雄の笑顔は崩れない。全てを知っている笑顔。
「馬鹿だねえ。噂通りの屑だ」
「どういう意味だよ」
「借金まみれの屑野郎。その癖、女には金を貢ぐ見栄っ張り野郎」
「……なんで」
「俺の方が、あんたの事ちゃんと知ってるだろ、文康さん?」
衝撃的な言葉が場を駆け抜ける。
「なんで、俺の事を知ってる……?」
「そんなの気にする事ないさ。それに薄々気づいてんだろ?」
絶望だ。絶望の外ない。
俺は、いいように弄ばれたのだ。
駒として。
“そこには愛があるはずです”
どこがだ。
幸造と幸雄の間に愛などなかった。
だが問題はそこじゃない。
問題は愛がない事を知りつつ、その可能性を仄めかせ俺をけしかけたという事実だ。
それは俺を、駒としてしか見ていない何よりの証明だった。
「今日の事は、全部忘れな。後、ヒカリさんの事もな」
ヒカリ。
俺の女神。
いや、女神なんかじゃない。
あれは、悪魔だ。
騙されたのだ。俺は。
「ま、死んだら忘れるもくそもないけど」
ごつっと大きな音が鳴った。
それが全ての終わりの合図だった。