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謀略

「誘拐?」


 深夜のファミレスに自分達以外の客はいなかった。

 ヒカリが口にした願い。その事について話をしたいという彼女に連れられ店をくぐった。

 彼女が頼んでくれた食事とフリードリンクで目いっぱい腹と喉を満足させた後に、おもむろにヒカリが口にした物騒な単語に、さすがに俺は驚きを隠せなかった。


「三好幸造。知らない、ですよね」

「ああ、知らない。そいつがどうしたの?」

「脅されているんです」

「何だって?」

「三好はホテル経営をメインに財を成し、そこで築いた富を足掛かりに。今はその他にも様々な事業を手掛けています」

「つまり、とんでもない金持ちって事?」

「そうです。そしてその金で、全てが動かせると思っている男です」


 ヒカリが言わんとしている事が分かった。


「俺の女になれ、とかそんな感じ」

「……はい」


 ヒカリは鎮痛な面持ちでテーブルを見下ろした。


「俺はお前を手に入れる為なら何でもする。その為なら手段を選ばないって……」

「脅迫だね、確かに」


 俺は顔も知らない三好幸造という人物に怒りがわいた。

だがそれがどうして脅迫に繋がるのか。まだそこに合点はいかなかった。


「嫌なんです。絶対に」

 

 俯いたままだったが、ヒカリの声音は強かった。


「確かに私は、お金を頂いて仕事をさせてもらっています。生活させてもらっています。でもお金だけで動いているのではありません。私に時間を割いて下さる方に、少しでも幸せになって欲しくて、そう思って向き合っているのです。でも、彼は違います。金で心が買えると思っている、典型的な独占者です。あんな人間と心身を共に出来るわけがありません。したくなどありません。でも、事実あの男の財力と力は馬鹿に出来ません……」

「……それで、誘拐を」

「あのような男には、普通の謀では太刀打ち出来ません。人には誰しも弱点があります。どんな強く見える人間にも。そこは平等なのです。彼には幸雄という一人息子がいます」


 そう言ってヒカリは一枚の写真を差し出した。

 夜のネオン街で馴れ馴れしく女性に声を掛ける軟派な若者。それが幸雄への第一印象だった。


「幸造曰く、どうしようもない息子だそうです。でもそこには愛があるはずです。長らく幸雄は幸造と会っていません。反発し出て行ったきり。しかし、どうやら幸雄はここ最近になってここらをうろついているようです。口ではああ言いながらも、彼は息子に会いたいはずです。たった一人の息子なのですから。そんな息子に危害が及んだら、彼はどう思うでしょうか」

「目には目を、か」

「とんでもないお願いをしているのは分かっています。あなたに犯罪の加担をお願いしているのですから。断って頂いても恨みません。ただ」

「金か」

「私と文康さん、お互いの全てがクリア出来るのではないかと、恐れ多くも思ったのです。文康さんは私にとても目をかけて下さっています。私自身も文康さんにはとても感謝しております。それはお客様という意味ではなく、対等な存在として」


 夢のような言葉だった。

 自分とヒカリが対等。彼女は確かに今、そう口にしたのだ。


「あなたの現状にもっと早く気付くべきでした。そうすれば私はのうのうとあなたの時間とお金を奪う事などしなかったでしょう」

「いやそれは、俺がしょうもないプライドで口にしなかっただけで、ヒカリさんが悪いわけじゃない。それに、ヒカリさんの時間の価値は、俺なんかとは違うんだから」

「……もったいない、御言葉です」


 この時点で、俺の心は決まっていた。


「やるよ」

「え?」

「君の願いならなんでも、そう言っただろ」


 そして俺達は、計画の歯車を動かし始めた。


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