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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

短編集

複雑な子供の複雑な話。

作者: 宵月


今の自分の状況は、何度考えても意味が分からない。



俺の両親はいわゆる出来ちゃった結婚の駆け落ち夫婦だった。

実家の反対を押し切って結婚した二人は小さなアパートで暮らして俺を産み育てた。

そんな両親だから脳内にはきっと花が詰まってるんだろうってくらい、楽天家な二人だった。

金も計画性も無いが愛だけはあるという、どこの漫画のキャラクターだっていう話だが、まぁそれでも俺の両親であるし、金も計画性も無いが愛だけは沢山与えてもらったから良い家族とも言える。

そんな両親だが、俺が6歳の時に父親が事故で死んだ。

脳内お花の母親だけでどうやって生活していけば良いんだ…齢6歳にして俺は葬式の席で絶望していた。

そんな母親に手を差し伸べてくれた神が居た。

保険金と慰謝料と父親の同期という男だ。

相手方過失100%の事故だったので、父親自身の保険それに慰謝料に会社からの見舞金と、どれも満額受け取ることが出来たし酔狂な事に、父親の同期の男が初めて会った時から母親に恋してたと言って、色々と世話を焼いてくれた。

その結果、母親は男と結婚した。

個人的にそれは吊り橋効果的な愛だと思ったが、まぁそれは言わぬが花。

義父は良い人だった。

連れ子の俺にも優しく、勉強を教えてくれたり休みの日には遊んでくれたりした。

前の(という表現で合ってるかどうかは微妙だが)実父は脳内お花だったので俺に自分の事を「パパ」と呼ばせていたので、すんなり「お父さん」と呼ぶ事が出来たのも良かったのかもしれない。

俺としては、このままこの人がずっと父さんだったら良いなって思っていた…のだけど、そうは問屋が卸してくれなかった。

母親が家を出て行ったのだ。俺を置いて。

馬鹿かよ!!

まだお父さんと離婚して家を出るのは良い。

だけどそこでなんで俺を置いてった!?

そこは連れてけよ!

嫌だけど!

実母は吃驚なことに知らぬ間に「真実の愛」とやらに出会い、離婚届と俺を置いて勝手に家を出て行ってしまった。

それが俺の10歳の誕生日の事。

お父さんが俺の誕生日だからプレゼントを買いに行こうと言い、二人でデパートへ行った。

実母は家で料理を作って待ってると言っていたので、俺とお父さんと二人で行くことになったのだが、今思えばアレは一人になる為に体の良い理由だったな。

俺はその時「あぁ。俺は連れ子だし施設に行かされるのかな」って思った。

というか、普通そうするだろうと思う。

だって血の繋がりは無いし、自分を捨てた女の子供だ。俺だったらそうする。

なのにお父さんは本当に良い人だった。

俺をそのまま家族として育て始めたんだ。

泣いたね。あまりに良い人過ぎて。

「馬鹿なの。なんでそこまで良い人なの」って泣きながら罵った俺を抱き締めながらお父さんは笑った。

それから2年後。

12歳の時にお父さんが再婚した。

流石にその時はもうこの人が何を言っても自分で家を出て行こうと思っていた。

荷物を纏めて、施設の住所を調べて、お父さんに「家を出てここに行く」と言うと、それまで一回も泣いたことの無かったお父さんが初めて泣いた。

「僕から大事な息子を奪わないでくれ」

ボロボロと泣きながらそう言うお父さんに、俺は黙って荷物を解くしか無かった。

そうしてやってきた新しい「お母さん」は若くて綺麗な女性だった。

その人も再婚で、俺と同い年の弟が新しい母親と一緒にできたのは予想外。

最初はどこかぎこちなさの取れない歪な家族だったけど、幸いなことにお母さんも弟も良い人で、それほど時間が掛からずに遠慮なく物を言いあえる家族になった。

今度こそ、この幸せが続けば良いと思った。

それがいけなかったのかな。

お父さんが病気になった。

少しぽちゃってしてたお父さんがどんどん細くなっていって、息を引き取るのにかかった時間は1年。

お母さんたちと家族なって5年目の17歳の時。

17歳。施設にはもう入れない年齢だった。

お母さんと二人でどうするかと話し合った。

俺はバイトで貯めた金も、吃驚なことに実母が家を出て行く時に置いていった「俺名義の貯金」もあったから家を出て行くと言ったけど、お母さんはせめて成人するまで一緒に住む様にと言ってくれた。

とても有難いことだったけど、お父さんだって俺を育てる理由なんて無かったのに、それがお母さんになると、追い出す理由はあれど家族で居る理由なんて皆無。

「私達のこと、嫌い?」

「違うよ。好きだから、好きだからこれ以上迷惑をかけたくないんだよ」

嫌いだなんてとんでもない。

好きだからこそ、俺の様な余計な心配事を抱え込んで欲しくない。

そう懇願する俺に、お母さんが折れかけた時、弟が泣いて叫んだ。

17歳の地元でも有名な名門校に通う弟が、今まで殆ど我侭なんて言わなかった弟が、俺に縋りついて泣き叫んだ。

「兄さんいかないで!!」

お母さんも大事だったけど、自分が今まで大事に守ってきた弟のそんな姿に、俺は荷物をやっぱり解くしか無かった。

それからはお母さんと弟と俺の3人暮らしで、そうして暫くしてお母さんが再婚することになった。

本人は3回目だし年齢もあるし結婚はしなくても良いと言ったのだけど、弟と俺の二人で「年齢も回数も関係ないよ。お母さんが幸せになるなら、それが一番だ」と説得した。

こうして、見事に俺に3人目の父親が出来た19歳。

呼び方は悩んだ末に「親父」と呼んでみた。

今回は弟と二人でどうしたものか悩んでみたが、自分たちもだが養父もそれなりの年齢だし、なんとなく「親父」と呼んでみたら殊の外喜ばれたので、それで定着した。

予想外と言えば、親父が初婚だと言う事だ。

年齢を差し置いても、稼いでいて格好良くて優しくて、同じ男として戦う勇気すら湧いてこないよう無い男。

それが親父。

本人にやる気がなくても女が放っておかなかっただろうに。

20歳の誕生日。

父子の晩酌というものを二人だけで静かに楽しんでいた時に、何気なく聞いてみたら「君たちに出会う為にしないでおいたんだよ」と頬を赤くして言うもんだから、俺は「それはお母さんに言う言葉」だとか「俺に言ってどうすんだよ」とかの言葉がどっかに飛んで行って「そっか」と全身を真っ赤にするしかなかった。

親父もだけど、お母さんもキャリアウーマンと呼ばれる人間で、日々を忙しく過ごしていたが、それでも会える時間を大切にして、俺や弟を大事にしてくれて、歪過ぎる家族だけど、幸せな家族で。

でも俺は誰にも言わなかったけど、この幸せも壊れてしまうのだろうか?と思っていた。

幸せが続きますようにって何度願っても壊れていた。

いつしか俺の中で「幸せは壊れるもの」だという方程式が出来あがっていたのも、仕方ないことだろ?

とはいえ、壊れたら良いなんて絶対に思って無いし、お母さんにも弟にも親父にもずっと幸せでいて欲しいと願っていた。

良い成績を収めたら親父とお母さんが「本当に自慢の息子」だと笑ってくれるから、大学の勉強は同期生の誰よりも真剣にしたし、バイトで覚えたお菓子作りを披露する度に「兄さんの作るお菓子が一番美味しい。好き」だと言う弟の為にもっと腕を磨いた。

だからこそ、弟のスーツを買いにお母さんと弟の二人が出掛けた先で事件に巻き込まれて死んだと連絡を受けた時、叫んだ。

神様が居るとしたら、なんで俺から家族を奪っていくのか。

壊れた様に叫ぶ俺をずっと抱き締めていた親父。

親父だって泣きたい筈なのに、ただただ静かに抱き締めてくれた、23歳。

こうして俺はまた家族を失った。

ただ今回の事で言えば、俺は親父の元から去ると言う選択肢は持てなかった。

それは親父が壊滅的に家事が下手だからと言うものあるし、これ以上家族を失うのに自分が耐えられなかったからだ。

親父も家族が一気に全員居なくなるのは嫌だと言ってくれたし。

男二人の静かな生活。

仕事の忙しい親父と、院に進んだ俺。

重なる時間は少ないけど、確かに家族として上手くやっていたと思うんだけど……。



なんで俺は親父に押し倒されてるんだ……?



優男の仮面を被った養父×複雑過ぎる関係の養子



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