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  作者: 深月桂
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離人美祐の部屋にて。

中は外とほとんど変わらない寒さで、コートを脱ぐのは無理だった。

あたたかい紅茶がありがたかった。本心を言えばあたたか飲み物より暖房をつけてくれた方がうれしいんだけど。


「……で、滑り止めに進学するの?」

いきなり痛い質問が来た。ずっと自問自答していたことだが、美祐に聞かれると胸が辛くなる。

受験までいろいろあった。その度に心配してくれたり手を貸してくれたりしてくれた。

なんか、申し訳なくなってきた。

どうしたら良いのか。

絶対受かると思ってた所に落ちるなんて、想像もしていなかった。

完全に、舐めていたのだろう。

「それは……」

気まずい空気が流れる。

「浪人も考えてる」

「……でも、4月までに手続きが必要でしょ?」

「うん」

「どこか、入学手続きしようと思ってる?」

正直、M大学以外に進学する自分を想像できない。

「……思ってないよ」

「浪人するの?」

「……うん。そうしようと思う」

「そう、よかった。大学で待ってるから」

「うん」

「一年間辛いと思うけど、がんばってね」

「うん」

美祐はどこかほっとしたようだった。

「美祐」

「何?」

「いろいろありがとう。迷惑かけたりして悪かったな。こんな結果になっちゃったし」

「うん、でも全力出したんだよね、なら……しょうがないよ。浪人中なにかあったら私を頼っていいから……なんでも言ってね」

「うん、ありがとう。大学ではがんばれよ」

「そっちも、ね」

なんか、しばらくここに居たくなってきた。

文型から理型に急変更したにもかかわらず、彼女は受かった。

僕はずっと望んでた学校なのに受からなかった。

その違いだ。


なんだかなー。


「一也は何でこの学校を受けようと思ったの?」

「偏差値を照らし合わせて、それと研究できる環境。……美祐はなんで?」

「……言わない……」

受かったのに?まあ、いいけど。

「言ってもいいけど……今はまだ言いたくない……」

「ふーん、ま、無理しなくていいけど」

「……」

「……」

沈黙。

「お茶、いれてくるよ」

美祐が立った。

「ありがとう」

「な、両親はいつ帰ってくるの?」

「あー、帰ってくるかどうかも判んない……かな」

「あれ、共働きだったっけ」

「……そんな感じかな」

「へー、大変だね」

「そんなことないよ」

そういうと部屋から出て行った。

部屋は寒かった。


それからしばらくして美祐の家を出た。だいたい8時だっただろう。

いつもこんな感じなのだとしたら、彼女はいつも自炊をしているのだろうか。

大変ではないといっていたが、これは大変だろう。

そんなことを考え、現実逃避をしていた。


翌日、蒼太のアトリエにて。

いつぞやの四人が偶然揃っていた。

草部さんは行った時に偶然居た。美祐はもちろん、僕が誘った。

「お久しぶり、川島さん」

「お久しぶりです、私アトリエに来るの初めてで……すごいですね。全部木野さんが描いたんですか?」

「はい」

美祐が草部さんを描いた絵を見る。

「こちらの方は」

「麗だよ。よくモデルになってもらうんだ」

「すごい……私も描いて頂きたい……」

「いいよ、いつか描くね」

「えー!うれしい!お願いします!」

僕は意を決して口を開いた。

「僕、浪人することにした」

「そうなんだ、一年がんばってね」

すぐ返事をくれたのは蒼太だった。

「僕は春から海外に留学するんだ」

「……そうなんだ」

「おじいちゃんが親しかった人のアトリエでしばらく描いてみようと思って」

「いつまで留学するの?」

「うーん、夏かな。日本でそのころには帰ってくるよ」

「そうなんだ。がんばってね、応援してるよ、こっちから」

「ありがとう。川島さんは、春からどうするの?」

「……えっと、その……言っていいの?」

僕に気をつかったのか。

「構わないよ」

「M大学理学部です」

「そっか、君も理系女子か。ここは理系女子が多いな」

「そうなの?じゃ、草部さんも理学部なの?」

「いえ、私は薬学部です」

「へえ、そうなんだ」

皆は先に進むんだ……

でも、浪人だって先に進む為の道の途中だ。

僕だって先に進むんだ。

そう自分に言い聞かせた。

落ちたから進めない訳じゃない。負けた訳じゃない。

僕は……いや、僕たちはこれから前に進むのだ。

ぐだぐだしないように本当に気をつけてます。でも、グダグダしてきたかも……

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