fourth_just before
病室にて。僕は今日で退院するので、荷物をまとめていた。
「おう、今日で退院だってな。おめでとう」
刑事の坂田さんだ。
「ありがとうございます」
「加害者がいずれあいさつにくるよ。ま、ほどほどにな」
「ほどほどに……?」
「君なら大丈夫そうだけど」
「どういう意味ですか?」
「君は冷静だからね、急に怒鳴ったり、殴りかかったりしなさそうだ」
「そんなことする人いるんですか?僕は重症じゃなかったですよ」
「ま、殴りたきゃ殴れ。俺の知ったことじゃない」
「止めないんですね」
刑事の前で事件を起こし、それを止めなかったとなれば坂田刑事はただで済むのか、なんて思った。
「普通の受験生は、いくら良い判定が出ていようとセンター直前に事故起こされたらキレるんだろうなと思っただけだ」
「そういうもんですかね……」
「まあ、自信があるのは結構なんだけど……油断するなよ。じゃ、退院おめでとう」
「はい、ありがとうございます」
そこに、美祐が来た。
「退院おめでとう……」
「ああ、こちらは……」
「事故の担当刑事だ。よろしく」
「こちらこそ」
「君は、一也君の彼女かな?」
ひどい冗談をいう刑事だな。
「まさか」
「ち、違いますよ」
美祐も反論した。
「坂田さん、あなたは本当に刑事ですか……」
「ははは、まあ今を楽しめ、青年達よ」
そういって出て行ってしまった。
「……なんか手伝うことある?」
「ああ、大丈夫。荷物もまとまったし、重い荷物もないから」
「そう」
「ほとんど毎日、お見舞いありがとう。たすかったよ」
「そうかな…、ありがとう。そういってもらえると、うれしいよ」
僕らは病室を出た。
12月、クリスマス前のことだった。
その後怪我に後遺症もなく、無事センター試験を受けた。
学校帰り、道中にて。
「自己採点の結果、どうだった?」
「うん、悪くなかった。美祐は?」
「よかったわ。本番もこの調子なら受かると思う」
「そう、よかったね」
「第一志望の受験日は一緒よね?」
「たぶん」
そういえば同じ大学を受験するんだったっけ。
「じゃ、一緒に行かない?」
「いいよ」
友達がいればやはり心強いだろうか。
「じゃ、また連絡するね」
「わかった」
二月初め、蒼太のアトリエにて。
麗をモデルにした絵が完成したらしく、勉強の合間に見に行った。
「うわー、きれいだね」
麗が着物を着て、傘を持ってこちらを振り返っている。
幻想的で、とてもきれいだ。
背景は、銀杏だった。
「これで出品しようかと思ってるんだ」
「きっと一位だね」
「かなー。僕は描ききったから、賞を逃しても構わないと思ってるけど」
「おじいちゃんのお守りもあるし、大丈夫だよ」
「ところで、受験のほうはどう?順調かな?」
「うん、滑り止めには受かったから」
「そっか、じゃあ後は第一志望のM大学だけだね。がんばって」
「うん」
「じゃあ、しばらくはここにもう来れないんだね……」
「うん、残念だけど」
「落ち着いたらまた来てよ、川島さんと一緒に。そういえば、彼女も同じ学校を志望してるんだっけ。彼女にもよろしく。健闘を祈るよ」
僕たちはアトリエを出た。
「あぁ、ありがとう。ところで、草部さんは何処を受けようとしてるの?」
「S大学薬学部だって。A判定でてるから、もう受けるだけだって言ってる」
「へぇ、頑張ってるんだ。じゃ、僕からも彼女によよろしく」
「うん、後で伝えておくよ」
僕は玄関のドアを開けた。真冬の冷たい風が通り過ぎていった。
そういえば、受験はもう目の前なのだ。
だんだんグダグダになってきた気が……気をつけなければ!次に続きますよ。よろしくおねがいします。