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  作者: 深月桂
3/8

third_accident

冬休み、アトリエにて。

俺は蒼太の完成した絵を見ていた。

僕たちが出会った時に書いてた絵だ。

「きれいだね」

「ありがとう」

「前、風が吹いてるようって言ったけど……」

「おお、今日はなんて表現してくれるの?」

「引き込まれそう。この絵の世界に入ってしまいそうだよ」

「うん、うれしいよ。な、次の作品なんだけど」

瞳を輝かせて言った。こいつは描くのがすきなんだ、と思った。


「何を描くの?」

「麗にモデルになってもらうんだ。今度は和風。着物に傘を持ってもらって、背景を桜にするんだ」

下書きを見せてもらった。

「きっときれいだよ。完成が楽しみだ」

「待っててね、春には上がるよ」

「春かー、俺は大学生になれるかな…」

あまり心配していないことを言ってみた。

「大丈夫だよ、一也なら」

「うん、ありがとう。蒼太もきっと賞取れるよ、お守りあるし」

蒼太がいつのまにか付けはじめていた銀のリングは、あの偉大なおじいちゃんの形見だそうだ。

腕時計を見る。そろそろ時間だ。

「悪い、そろそろ塾だ」

「そっか、がんばってね」

「うん、ありがとう」


10時半、塾帰り。

少しお腹が減った。帰って何か食べよう。


携帯が鳴った。美祐からメールだ。

『塾お疲れ。明日、よかったら一緒に図書館行かない?』

そんなメールだっただろう。悪くない、後で返信しよう。そう思った気がする。

こう、あいまいに表現したのは正確に覚えてないからだ。なぜなら……

画面から顔を上げると、車のライトがまぶしかった。

迫ってくる車は、獲物を追う猛獣のようだった。


頭が、真っ白になった。

地面にたたきつけられ、意識が朦朧とする。

ほとんど覚えてないが、いろんな光を見てまぶしかったのを覚えている。


気づいたら病院のベッドに上だった。

「大丈夫!?」

ぼやけた輪郭がだんだんはっきりしてくる。

「み、美祐……?」

両親と美祐が今にも泣きそうな、真っ赤な目で俺を覗き込んでいた。

「だいじょうぶ?」

「う、うん……」

「私が誰だか、わかる?」

「美祐」

「よかった……これは?この単語、意味わかる?」

“accident”大きくノートに書かれていた。

「事故だろ。それくらい判る」

「一也は事故にあったの。覚えてる?」

「……。」

まぶしい光、襲い掛かってくるような……

「うん」

「幸い頭を打っただけだし、障害も見られないから大丈夫だって。よかったね」

「……うん」

「これ、お見舞い。置いておくね」

花だった。美祐が花瓶にお入れ替える。

「ありがとう」

「じゃ、お大事に」

そう言って病室を出た。


早朝、ふと目が覚めた。

「おお、悪いな。起こしっちまったか?」

「いえ……どちらさまですか?」

「刑事の坂田だ。よろしく」

「こちらこそ」

30代前半に見えるのに、何故か貫禄ある刑事だった。

「今回の事故の担当なんだが、どうだ、調子は?」

「いいですね。はやく退院したいです」

「そういえば、受験生だっけ。それは急いで治さなきゃいけないな。単語とか、公式とか忘れてないか?」

刑事は笑いながら言った。

「大丈夫ですよ」

「自信あるんだな、まあいいことだ」

「B判定です。あと少しでAなので大丈夫だと思ってます」

「ほお、んでどこ受けるの?」

「M大学です」

「へー、いいじゃないか」

「はい、ありがとうございます」

「元気そうでなによりだ。じゃ、またな。がんばれよ」

「はい」

そう言うと、病室を出た。

刑事ってもっと怖い人だと思っていたが、意外と優しかった。


昼頃、蒼太が麗を連れてお見舞いに来てくれた。

「結局麗に会う機会なかったね。紹介するよ」

「よろしくお願いします」

彼女は頭を軽く下げた。絵から伺えた分囲気そのままの、清楚で律儀な人だった。


「事故にあったって聞いて。これよかったら食べてね」

箱を開けると、苺のショートケーキだった。

「おお、おいしそう」

「ええ、蒼太のお気に入りのお店でもあるの」

プラスチックのフォークをもらう。一口食べると、ほどよい、控えめな甘さが広がった。

おいしい。

「このお店なんだけど、他にもシュークリームとかおいしいわ」

「そうなんだ」

紹介カードを見る。

有名なところかと思ったが、近所にある店だ。こんど行ってみよう。

「失礼します」

美祐が来た。

「おお、美祐。今日もありがとう」

「こ、こんにちわ」

「ああ、彼が木野蒼太。彼女は蒼太の幼馴染の草部麗さんだよ」

「川島美祐と申します。よろしくお願いします。一也君の同級生です」

「よろしくおねがいしますね」

「よろしく。じゃ、僕らはもう帰るね。今日は少し絵を進めたいんだ」

「今日はありがとう。頑張ってね」

「うん、また明日来るよ。じゃあ、川島さんも、またね」

「はい」

蒼太は麗を連れて出て行った。

「絵描いてるの?」

「そう。賞も取ってる、すごいやつなんだ」

「へー、今度見てみたいな」

「彼ならきっといつでも見せてくれるよ。今度言っておく」

「ありがと。そう、持ってきたものがあるんだけど、ショックでしばらく勉強したくないかもしれないけど、模試の申し込み書……」

有名塾の模擬試験。

「ああ、最後の模試だね。受けるよ」

「会場はたぶん一緒だから、よかったら一緒に行こうね」

「いいよ」

「英語ならいつでも教えるから」

「ありがとう」

「もうすぐ退院でしょ」

「うん」

「よかったね、大事にいたらなくて」

「ほんとだよ」

「受験できないとかなったら、どうしようかと思ったよ」

「全くだ」

「じゃ私塾だから、そろそろ行くね」

「うん、今日もありがと。がんばってね」

美祐も去り、僕は一人病室に取り残された。

母から、友人からの心配するメッセージがメールで届いているのを聞いた。


でも僕は今、何か寂しい。

一人ベッドの上でそう感じた。

章ごとに、話が急展開しないように気をつけます。これからもがんばります。次回に続く!

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