七話
「先輩その怪我どうしたんですか」
朝。いつものように学校へ向かう僕に話しかけてきた美少女。
身長は少し低め、長い髪をツインテールにした元気そうな美少女にして僕の彼女である。
「勝手な設定を付け加えないでください。」
「あはは、おはよう杏ちゃん。知ってのとおり昨日ちょっと窓からダイブしてね」
全身の包帯やらギブスやら絆創膏が痛々しい。と、いうか痛い。
両手に松葉杖をついて登校するミイラ男にしか見えないんじゃないだろうか。
そう、昨日の放課後突然委員長に投げ飛ばされて四階から落下したのだ。
言うのは一行ですむけど、普通死ぬぞ?!
「はい、さすがにびっくりしました。」
「そりゃそうだよね、人間が突然窓からほり投げられたら。」
「いえ、なんとなく先輩なら次の話になれば怪我とか跡形も無く治ってるイメージがありましたから。」
「そっちかよ!僕は漫画のキャラクターじゃないぞ。そんなわけあるかよ」
一体全体僕をナンダと思ってるんだ。
「見損ないました」
「言いすぎだろ!」
なんで怪我した上そこまでいわれなくちゃだめなのか。
「だって、手負いの生徒会長を手にかけたら私、卑怯者呼ばわりされちゃうじゃないですか。ずるいです!」
これは!
「先輩、怪我してるから今日のところは休戦してあげるんだからね!て、手を貸してあげるからつかまれば?」
みたいなパターンか。
うん、僕はツンデレも嫌いじゃないぞ。
「でも、私はあえて卑怯者と呼ばれるそしりを受けます!」
「違ったか」
残念だった。
「うふふ、さすがに生徒会長といえど、両足にギブス、両手に松葉杖、全身包帯ミイラ男状態なら私にだって勝ち目はある!」
「うわ、杏ちゃんそんなキャラだったんだ」
いったい何が君をそんな風に変えてしまったんだ、杏ちゃん!
「あなたですっ!」
そうでしたか。
「まさに手も足も出ない状況!さあ、素直にいままでのセクハラごめんなさいとあやまるならいまのうちですからね!」
うふふ、と笑いながら杏子ちゃんが臨戦態勢に入る。
「ま、まって!?杏ちゃん!?僕が悪かった!」
「仕方ありませんね、謝ってくれたから今日だけは許してあげます。」
「へ?」
そういって杏ちゃんは僕の手から鞄をひったくる。
「鞄くらいはもってあげます」
そういってトコトコと歩いていってしまった。
かっわいーなあ。さては僕に気があるのかな。
「ありません!」
おこられてしまった。図星か。
「というか普通お約束的には主人公はそうゆう恋心とかには鈍感なものでしょ!?ヒロインの恋心に気がついちゃったらそこで終わっちゃうじゃないですか!」
「え、じゃあやっぱり僕に気が」
「例えです!これっぽちも気なんかないですっ!ふんだ」
「あはは、冗談だよ、さすがにまだそこまでフラグ立ててないしね」
「一生フラグなんか立ちません!」
どんっ
「キャっ。あ、ごめんなさい」
後ろを向いて僕と楽しく会話していた杏ちゃんは、体格のいい男にぶつかってしまった。
「噂は本当だったんだな、生徒会長さんよお。みっともないくらいに全身包帯姿じゃねえか」
その男は僕のほうへゆっくり近づいてくる。
「話しかけないでくれる?クラスのみんなに噂とかされると恥ずかしいし。」
「てめえは藤崎詩織か!」
「…それで何のようだ?」
「この学校は力が全て、なんだろ?生徒会長の座を奪いにきたんだよ」
「怪我してるところを狙うなんて、なんて卑怯なの!」
杏ちゃんが叫ぶ。まあ君もさっき狙おうとしてたけどね!
「見てのとおり両手両足がつかえないんだけど、僕」
「ああそうかい、そいつはよかったな、負けたときの言い訳が出来るじゃねえか!」
男が大振りなパンチを繰り出してきた。
「危ない!」
とっさに杏ちゃんが、僕を突き飛ばす。
「グエ!」
突き飛ばされた勢いで道路をゴロゴロころがる。
う、打ち所が悪かった、死ぬほど痛い。
「じゃますんのか、小娘」
その男は乱暴に杏ちゃんを突き飛ばす。
「きゃ!」
「杏ちゃん!」
どしん、と尻餅をつく。
スカートがめくれ、杏ちゃんの白い太ももがあらわになる。
「白!」
そして白い太ももの先にある聖域!
純白パンツ!
「きゃあああ!?」
とっさにスカートをおさえる杏ちゃん。もう遅いぜ、いまのパンチラは僕のメモリーに永久保存された。
「すぐ消してください!」
「やだ!絶対消さない!」
「けせ!このド変態!」
「おい、俺を無視してんじゃねえよ!」
男が声を荒げる。いけないいけない。
「ああ悪い、いまのパンチラでお前の事はすっかり忘れちまってたよ」
パンチラおそるべし。
「でも安心しろよ。今思い出したからさ。お前に対する怒りをな。モブキャラ」
「だれがモブキャラだ!さんざんこけにしやがって!本気でぶっ殺す!」
あーあ。頭に血が上っちゃって。
「いいぜ、全力でかかってこいよ、モブキャラ。僕もそれに答えて全力で手加減してやるぜ?両手と両足はつかわないでやるよ!」
…まあ、お互い様だな。
「手も足も出ねえそのなさけねえ姿で、えらそうなことほざいてんじゃねえよ!」
男が僕に渾身のパンチを繰り出してくる。
それを僕は、額で受け止める。
「ぐっ?!手、手が!」
ぐしゃ、と鈍い音が僕の頭蓋骨を通して頭の中に響き渡る。
「モブキャラくん、もしかして、熱があるんじゃない?」
「ひっま、まって、おれ、手が折れt」
ごつん。
僕はモブキャラの額に自分の額を、叩き付けた。
◇
「ありがとう杏ちゃん、助かるよ。」
戦いに勝利したはいいが、さらなるダメージを受けて歩くのもままならなくなったので、僕は杏ちゃんに肩をかりていた。
「いえ、別にかまいません」
戦闘自体のダメージは皆無だったんだけどね。直前に突き飛ばされたときのうちどころがわるかったようで。
「…だからこうして肩を貸してるじゃないですか!」
「あはは、冗談だよ杏ちゃん。ありがとうね」
「…それに、私が突き飛ばされて、本気でおこってくれましたし。」
顔を赤く染め、そっぽをむく杏ちゃん。
む、これは。さっきのでフラグがたって杏ちゃんルート突入しちゃった?!
「そんなルートはありません!…もう。」
「僕は生徒会長だぞ、いわば僕が道を作るのさ。」
「なんかいい事言った風なドヤ顔しないでください」
最終目標ハーレムルート。
「ところで今日はスパッツはいてなかったんだね」
いつもは絶対はいてるのに。
「べ、別に。夏だし暑いから履かなかっただけです!履いててもどうせ脱がされちゃうし」
「酷い奴もいるんだね」
「はい、私のすぐ隣に。」
おかしいな、杏ちゃんの隣は僕しかいないんだけど。
まあいいか。
「ちなみに僕はスパッツを憎んでるんだ。」
「はい、知ってます。」
「あ、そう。」
「と、ところで、重いです、あんまり体重かけないでください。」
おっと、知らず知らずにもたれかかってしまっていたか。
「ああ、ごめん、体が動かないからさ。」
「さ、さっきより密着してませんか?」
「そんなことないよ?」
スリスリ。
「いまなんか擬音が聞こえましたよ?」
さわさわ
「ひゃん!お、お尻さわらない…で?って!手、うごいてるじゃないですか!」
「あ。ばれちゃった」
あれしきの怪我、生徒会長がいつまでも引きづるはずがないじゃないか。
「…この!ドスケベ!!心配したのに!」
杏ちゃんが足を振り上げる。
短めのスカートから生える脚がなめかましい。
「白!ぐえっ」
杏ちゃんのパンツを確認したと同時に、僕の顔面に蹴りが炸裂した。




