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かいちょう!  作者: へろ
6/9

六話

「いったい生徒会長ってどんな人なんですか?」


思い出したくもないタコ焼き事件の後。

会長と別れた後、私は林檎ちゃんと一緒に下校していた。


「かいちょう?そうだね、おもしろいひとだよ」


「私はセクハラされておもしろくないんですけど。」


すぐスパッツ脱がすし。


「あはは、会長スパッツをにくんでるっていってたし。」


「憎んでるんですか」


「パンツを愛してるっていってた」


「愛してるんだ」


「でもブルマはありだって。」


「って私が聞きたいのはそんなのじゃなくって!」


あの人の変態的な趣向なんかしりたくもない。


「ふえ?」


もっと、こう。うーん、なんだろう、うまくいえないな。


「そうだ、かいちょうのことしりたいなら、千歳ちゃんに聞くといいかも。二人はとっても仲良しだから」


「千歳さん…。先輩のクラスの委員長さんでしたっけ」


あの会長を軽々投げ飛ばして土下座させた人。

スタイルよくて長い髪がきれいで、素敵な人だったなあ。

そっか、仲良しなんだ。まあ、わりと親しそうに見えたけど。


            

          ◇


「へえ、会長の事が知りたいの?」


「はい。あの人に合うたびにろくなことないし、つかみどころもないし。だから、ちょっと。」


次の日。私は放課後に勇気を出して千歳さんに声をかけてみた。


「あ、もしかして会長の事が好きになったとか?」


「ないです。」


「あはは、冗談よ、そんな真剣な顔で言わなくっても」


言っていい冗談といってはいけない冗談があるのだ。


「天と地がひっくり返ってもそんなことはありません!たんにちょっとした、こ、好奇心です」


「うーん、そうね、どこから話したらいいのかしら。あれは私達の入学式…」


            ◇


螺子津高校の入学式。そのニュースは校内を揺るがした。


「新入生に生徒会長が倒された」


長い歴史を持つ螺子津高校においても、そんな事は前代未聞だった。

なんでもセクハラが原因で口論になり、そのまま戦闘が始まるやいなや、わずか2秒で生徒会長が倒されてしまったのだという。

その新入生はなし崩し的に生徒会長に就任。


…それは学校に新たな火種を生んだ。


「新入生が生徒会長を倒すなど、なにかマグレだったのではないだろうか。」


「入学したての生徒会長なら案外と簡単に倒せるのではないか」


野心を持った生徒達が、新生徒会長につぎつぎと戦いを挑んだ。

だが、その新入生は、挑まれる戦い全てにおいて圧倒的な強さを見せつけ。

そのことごとくで完全なる勝利を収めた。

やがて誰もが新生徒会長の実力をみとめた。認めざるをえなかった。

新生徒会長は次々とあたらしい政策を発表、善政をしき、学内を変えていった。

会長の元には数々の優秀な人材が集まった。

よその学校との抗争でもつねに先頭にたち、圧倒的な能力でそれを鎮圧していった。

絶対的な実力。

絶対的な美しさ。

やがていつからか新生徒会長は


絶対美徳アブソリュートヴァルチャー


とよばれるようになった。



      ◇


「な、なんか私の知ってる会長さんとはイメージ違いますね」


絶対美徳アブソリュートヴァルチャー》って。ちょっとかっこいいセンスだけど。

いまのお話の中で会長らしさといえば圧倒的な強さ、くらいだったきがする。


「でもね、生徒会長はいつも孤独だったの。」


千歳さんは、大切な思い出をかみ締めるように、少しずつ話していく。


      ◇


…会長は、別に会長になりたかったわけじゃなかった。

たまたま、会長になれるだけの力があって。

たまたまうまくいっただけで。

生徒達、生徒会の仲間達、教師達。

みんなからの期待というなのプレッシャーにおしつぶされそうだった。


最強とはつまり頂点で並ぶものがいなくて。

絶対とは対するものが絶えてしまうということで。

自分を慕ってくれる仲間はいても。

対等な関係の友達はいなかった。



そんな冬のある日。

一人のクラスメイトがこういった。



「君、生徒会長にむいてないんじゃない?」


「え?」


突然の言葉に驚いてしまった。これまで、生徒会長に向いてると言われることはあっても。

面と向かってむいてない、といわれたのははじめてだった。


「君は責任感がありすぎるんだよ。自分の仕事を完璧にこなそうとしてる。」


「なし崩しでなった生徒会長だけど。頼られるのは嫌いじゃないし、頼られる以上完璧に対応するのは当然と思うのだけど。」


「だからって全校生徒は多すぎだぜ。そうだな、せいぜいクラスの委員長くらいの規模が丁度いいんじゃないか?そこまでするなら」


「…」


「嫌いじゃないって言ってもさ、君。一度も笑ってないだろ?」


いつも、張り詰めた糸のような表情で。


「入学式でスピーチしたときのお前の笑顔、輝いてたぜ?」


「何を言ってるんだ、気持ち悪い」


気持ち悪い。彼の言葉を聴いてからずっと胸の辺りが気持ち悪い。

家に帰ってからも。そのクラスメイトの言葉が胸にこびりついて離れなくって。



そして次の日。事件はおこった。

そのクラスメイトが、生徒会長に決闘を申し込んできたのだ。

圧倒的な支持率を誇る現生徒会に反旗を翻すなんて、とだれもが思った。

実際クラスメイトを何人もの人たちが阻止しようとした。

それくらい生徒会長の人気は絶対だった。

だけど、そんな人間をものともせず、少年は生徒会室までやってきた。


「そんなに生徒会長になりたいのかい?」


「うん、ちょっと思いついた政策があってね。生徒会長になったらそれも実現できるだろ?」


「いまの生徒会の支持率は99.9%だ。そんなことをしたら、結果はどうあれ学校中を敵に回すことになるよ。」


少年は、にやり、と笑い


「だってさ、この学校は。実力が全てなんだぜ?」


と、言った。


「敵対する奴は実力で黙らせるだけさ」


「ああ。そう。」


最近はそんな生徒もいなくなっていた。

絶対的な能力者である生徒会長に全てを任せる、それがあたりまえのような。


「僕は気に食わなかったんだよ、ずっと。」


少年は憤っていた。


「なんでこの学校はさ!女子の体操服、短パンなんだよ!」


          ◇


「あの、ま、まさか?」


「うふ、そうよ、そのクラスメイトが今の会長さん。それから前生徒会長と三日三晩戦い続けてついに勝利を収めたのよ。」


千歳さんが優しく微笑む。

同性の私から見ても、おもわずどきっとするほど素敵な笑顔。


「ブルマ強制法案のために絶大な人気を誇った生徒会を敵に回しちゃったんですか、あの人」


「そうね、それもあったんだろうけど。本当は…」


「お、杏ちゃんに委員長。美少女二人、放課後の教室でナニをヤってるの?」


千歳さんの言葉をさえぎるように、噂の人物の声が聞こえた。


「部分部分をカタカナにしないでください!なんかやらしいです!」


「うふふ、昔の話をしていたの」


「ふうん。まあいいや、委員長。ついにあの時のブルマ強制法案通ったぜ。僕の苦労も報われた。」


うわ、ついに通ってしまったのか。しかもスカート着用は許すとかわけのわからない文章も追加されて。

なぜか私が提案したみたいなことにされたし。

あの後クラスの友達に誤解を解くのは大変だった。


「ずいぶんと長くかかったわね。あなたの生徒会長就任が2月だったから、半年くらいね。」


「いざ会長になってみるとやってみたいこといっぱいあったからな、つい後回しにしちゃったんだよね」


「その程度の政策のために生徒会長になったんですか」


その程度の政策のせいで私は酷い目にあったんですか!

ううう、おもわず涙がこぼれる。

…まあ会長を襲撃したのは私の責任もあるかもですけど。


「あなたが最初に生徒会長になって通した法案は体育の時間、テニスの授業の割合の増加だったものね。」


「アンスコチラに目覚めちゃったからね、そふてにっをみて。」


そういえば私が入学して最初の体育の時間もテニスだった。

テニスウェアなんかもってなかったからみんな体操服だったけど。


「うん、それが盲点だったんだよね。その件についてもいま理事長と交渉中だ、女子生徒にテニスウェアを無償で配るための費用の捻出を…」


「まったく、また女子生徒からの支持率落ちるわよ?」


「少なくとも今、私のあなたへの支持率は振り切ってマイナスへと突入しましたよ。」


まったくなんて人だろう。今からでもやっぱり前生徒会長に復帰してもらったほうが…


「とりあえずサンプルとしてテニスウェアもらってきたんだけど、委員長、杏ちゃん、さっそく着てみない?」


「いやです!ってなんでスカートのホックはずしてるんですか!?」


「恥ずかしがらなくていいよ、どうせ近い将来体育の授業で着るんだし。」


「きゃあああ!どすけべ!変態!」


「む、またスパッツなんかはいてるのか!蒸れたら大変だ、早く脱ぐんだ!」


「いやああああ!?」


会長の手が私のスパッツに伸びる。そのとき。


「よいしょ」


「ぎゃああ?!」


可愛い掛け声とともに会長の体が宙にまう。

ガシャーン、と激しい音を立てて窓ガラスを突き破り、落ちてゆく会長。

たしかここ4階…。


「ごめんね、彼ド変態で。」


ふう、とため息をつき、投げ技で乱れた髪の毛を掻き揚げる千歳さん。


「…でも、彼のおかげで私は笑えるようになったし。委員長の仕事は楽しいし。」


「え?ま、まさか」


だから、あまり嫌わないであげてね、と微笑む千歳さんの顔はやっぱり綺麗だった。






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