五話
「ねーねー、かいちょう」
ある日の午後。退屈な授業が終わり、帰宅の準備を始めていた僕の元にひとりの美幼女がやってきた。
「なんだい林檎。」
今時ラノベにもあんまいなさそうな、頭につけたおっきなリボン、ふわふわな髪、ペッタンこな胸。
アニメ化されたら多分髪の毛はピンク色。ピンクは淫乱。
「近所にタコ焼き屋さんがオープンしたんだけど、すっごくおいしいらしいよぉ」
「タコ焼き?」
「水槽およいでるタコをさばいてつくるから新鮮なんだって!」
タコ焼きが!?
「うんと、場所はね…」
幼い少女のたどたどしい説明。
「なるほど、ギリギリ我が高の管轄内だな。」
「でね、林檎今月お小遣いなくなったから、かいちょうにおごってもらおうとおもって」
えへ、と天使のような笑顔を浮かべる。
「いやいや、そんな笑顔に惑わされるほど僕はロリコンではないぞ?なんで僕が奢っててやらないといけないんだ!」
と、ビシっと…
「かっわいーー!任せろ、たこ焼き代金くらい経費で落としてあげるよ!」
心は正直だった。
「わあ、ありがとぉ!」
◇
そして僕は林檎を伴いそのたこ焼き屋へと向かう。
「あ、ここだよ、かいちょう。すごいならんでるね」
案内されてついたたこ焼き屋。開店セールでもやってるのか、結構な人が並んでいた。
うちの生徒の姿も見受けられる。
「うーん、これは時間かかりそうだな。ここは生徒会長権限で…」
「学校の外でそんなことやってたらリアルに逮捕されますよ、先輩。」
実力行使をしようかと考えていた僕に声をかけてきた、少女。
「杏ちゃん。君も来てたんだ。」
「いえ、私は家に帰る途中です。丁度通り道なんです。」
そう、不良から助けた恩義を感じて僕の彼女になってくれた美少女、杏ちゃんだった。
あれから毎日愛し合う中に…
「なにか気持ち悪いこと考えてませんか?先輩」
「いや、君と気持ちいいことをしていることを思い出していた。」
「かってに思い出を捏造しないでください。」
「あ、この前プールにきてた女の子だ。よろしくねー、林檎は林檎っていうんだよー」
「あ、はじめまして杏といいま…す。先輩。」
「なんだい?」
まるで腐ったものを見るような眼で見つめて。
「確かに先輩は性根が腐ってますけど。そうじゃなくって!ついにこんな幼い女の子にまで手を出しちゃったんですか!?」
「何を勘違いしてるんだ」
このご時勢本気にする人がいたらどうするんだ。
アグネスとか。
「先輩、いまなら間に合います、自首してください。はい、ロープ。」
そういって鞄から縄を出して僕に手渡す。
なんで縄なんか持ち歩いてるかは触れないでおこう、きっと彼女の性癖にかんすることにちがいない。
「そんな性癖はありません!」
「そもそもなんで自首するのにロープがいるんだ!?ていうか自首する理由がわからないよ!」
「だって自首って自分で首をつることでしょ?」
「僕に死ねと言うのか!?」
「あははー、あんずちゃんおもしろいねー。あ、かいちょうがばかだからもうすぐ順番だよ」
「だれが馬鹿!?」
いくら幼女でも大人気なくキレルぞ!?
「あ、ごめんね、かいちょうがばかなこといってる間に、っていおうとしてまちがえちゃった」
えへへ、と可愛く舌を出す。
「可愛いから許そう。林檎ちゃん、あめいるかい?」
「わあい!でももうすぐたこ焼きたべるから、ポケットにしまうね、うんしょ。」
うーんかわいいなあ。なんかイタズラしたい気持ちがふつふつとわいてくるな。
アグネスがこわいからしないけど。
「先輩、私に対する態度と全然違いますね。」
「ん、杏ちゃんも飴が欲しいのかい。」
これからたこ焼き食べるってのに。
それともイタズラしてほしいのか。
「どっちも違いますっ」
ぷい、と顔を背けてしまった。
◇
そのときである。
「このたこ焼き屋は我がVIPハイスクールの管轄内だ。螺子津高校の生徒は即刻立ち去れ!」
複数のブレザー姿の男が現れた。
「VIPハイスクールだと!」
辺りがざわつく。
VIPハイスクール。我が母校螺子津高校の隣町に立つ、進学校だ。
学問偏重の偏った校風で、頭がよければすべてよし、を信条としている。
「うーん、うちの高校とは逆なんだろうけど。」
「なんか普通にきこえるねー、かいちょう」
そして取り巻きを掻き分けるように姿を現したのは。
「…《死天王》、錦織。通称《日記帳の錦織》!」
VIPの象徴である白いブレザーの長身の男。脇に大きな日記帳を抱えている。
一辺が一メートル近くある。
…あんなでかい日記帳どこに売ってるんだろうか。
「聞いたことがあります。自分が倒した人間を全て日記に書きとめている、VIPきっての武闘派。」
杏ちゃんがなんか解説始めちゃった。そうゆうキャラだったんだ。
「そこにいるのは、螺子津高校の生徒会長じゃあないですか」
その男は、僕のほうに一歩踏み出す。
「ふうん、僕も有名になったもんだな。僕はお前のことを知らないけどな」
そして僕も一歩前に踏み出す。
臨戦態勢。
「もう、先輩、いま私が説明してあげたじゃないですか!《日記帳の錦織》さんですよ!」
「あんずちゃん、ちょっと空気読んであげて!みて、《日記帳の錦織》さん顔赤くしてる」
「…ぽ」
はずかしいのかよ。
「と、とにかく。ここは我らVIPの管轄だ。螺子津の生徒は立ち去れ。」
「たこ焼き屋は誰の物でもねえよ。どうしてもっていうなら、実力行使してみろよ。」
いや正確に言えばたこ焼き屋のおばちゃんのものなんだろうけどさ。
「ふ、相変わらず野蛮な学校ですね。いいでしょう、かかってきなさい」
「かいちょう、順番、もう次だよ!林檎お金ないからたこ焼き買えないよぉ」
「大丈夫だ、順番が来るまでには終わってるぜ。」
生徒会長たるもの美幼女を待たせるわけに行かない。
「ふ、終わるのはあなたですよ。行け!」
ダイヤリーニッキーが命じると同時に、一斉にVIPの生徒が襲い掛かってきた。
「先輩!」
杏ちゃんが叫ぶ。
なあにこの程度で、心配は要らないさ。
ほぼ同時に襲ってきた、数人の男に一撃ずつ打撃を打ち込む。
ぐえ、などとこっけいなうめき声を上げ、男達は崩れ落ちた。
「まあ、ざっとこんなもんだぜ」
決まった。
「もう順番きちゃいましたよ、先輩!」
「かいちょー、おかねないよぉ!」
決まらなかった。
「あ、あの、店員さんにもうすこしまつようにお願いしてくれる?」
予想以上に客の流れが速かったようだ。
恥ずかしい。
「なかなかやるな、だが、vipの力はこんなものではないぞ?見せてやる、我が異能力《三日坊主》!!」
そういって《日記帳の錦織》は手にした日記を投げつけた。
「…いや、どちらかというと、投げ出したのか。」
一辺が一メートル近くある巨大な日記帳の投擲。
「悪いな、本当に急いでるんだ。」
「なにぃ!」
それを、僕は左手で弾きとばし。
「前歯全部折られたくなかったら!しっかり歯ぁ!くいしばれぇ!!」
「ひっ」
渾身の右ストレートを。
『鳩尾』に、叩き込んだ。
「歯を…食いしばれっていったじゃないか…ぐふ」
そういって、ゆっくりと崩れ落ちた。
「さて、またせたな、林檎、杏ちゃん。って?!」
むなしい勝利を収め、振り返った視線の先にあったのは。
「やああんっ」
「く、くすぐったいよぉ」
なぜか大量のタコに絡め取られる二人の美少女。
「触手プレイ?」
「あなたが日記帳を弾き飛ばしたせいでたこ焼き屋さんの水槽が割れてタコさんが逃げ出したんです!」
意外と冷静に状況報告ありがとう。
なるほど、序盤の水槽うんぬんはここのためのフラグだったか。
「やあん、かいちょう、タコさんとってえ。やん、そこはだめぇ」
やばい、今、君を描写するとアグネスに怒られる。
許してくれ、林檎。
「せ、先輩、お願いですからタコを…」
うん、こっちならきっと大丈夫。
「わかった、まってろ!」
「はい。ってなんでまたタコ持ってくるんですか?!」
「もっと増やしてあげようと思って。」
「そんなことお願いしてませんから!ひゃあ、やだ、す、スパッツの中にはいってきたぁ」
「それは大変だ、すぐスパッツをぬがないと!」
「ちょ、おい変態!なに脱がしてるんだよ!やだ、やめてくださぁぁい!」
「大丈夫だ、脱がすのはスパッツだけだから!スカートはおいておくから!」
「何を言って…。やん、なんで顔にマヨネーズかけるんですか?!」
「僕はたこ焼きにマヨネーズをかける派なんだ」
繰り広げられる痴態。まさに酒池肉林とはこのことだろう。
他にも沢山並んでるお客さんがいるのを思い出したのは、それから実に30分後であった。




