三話
「ごめんなさい。」
この学校で最大の権力をもつ生徒会長。
その座は選挙ではなく、戦闘で争い、奪い合いされてきた。
生徒会長を武力で倒す、それが生徒会長になるための唯一の方法。
自慢ではないが僕も前生徒会長と3日に及ぶ殴り合いの末ついに勝利し、その座に着いたのだ。
「ブルマとスパッツはお返しします」
そしていま、後輩と委員長が仁王立ちする前で床に頭をつけて土下座する一人の男の姿があった。
「この辺で許してくれるかしら、彼も反省しているし。」
「あ、あの、それは構わないんですけど、あなた、いま生徒会長をやっつけたんじゃ…。だったらあなたが生徒会長に…」
委員長に投げ飛ばされプールに沈み、そして今プールサイドで土下座する男。
彼こそ第114代生徒会長、すなわち僕であった。
「私は生徒会長の器じゃないもの。せいぜい委員長どまりよ。」
うふふ、とプールサイドの妖精は微笑む。
「それに彼が本気を出したら私なんか、かないっこないわ。」
「はぁ…」
うーん、土下座の体勢から見上げるスク水とミニスカートのなんという眺めのよさよ。
「ふげっ」
覗いていた僕の頭をおもいっきり踏みつける妖精。
やばい、これはこれで。変な道に目覚めそうだ。
◇
その後は順調に授業も終わり、昼休み。
食堂でパンでも買おうかと廊下を歩いていた。
体育会系の学校だけあり、昼休みのパン争奪戦はかなりの規模だ。
いそがなくては目当てのパンが売切れてしまう。
「そういえば今朝の縞パン、名前聞くの忘れてたな」
「人をパンツの柄で呼ぶな!」
「お、噂をすれば。もしかしてまたパンツを見せてくれにきたのかい。」
「パンを買った帰りです。…悔しいですけど私じゃ先輩にかなわないのはわかりましたから。また別の手段で挑ませてもらいます。」
また脱がされてもたまりませんし、とうつむいてつぶやく。
「そうかい。まあ、いつでもおいで、僕は美少女には寛大だから。縞パン少女。」
「私の名前は杏です!」
「そうかい、またね、杏ちゃん。」
僕の声が聞こえたかどうか。彼女はすでに走り出していた。
「…」
◇
パンを無事に手に入れ、自分の席に戻ってみると。
「ん。手紙?」
「さっき、3年生の人が来ておいていったよ。」
クラスメイトの幼女、林檎がよってきて教えてくれる。
「幼女じゃないよ、れっきとした高校二年生だよ!」
「うんうん、そうだね。かわいいからあめちゃんあげるね」
「わぁい!」
「やっぱ幼女だろ!」
「あめくれるなら幼女でいい!」
ポリシーのないやつめ。ロリキャラならそこでさらにごねるべきだろう。
「ところでその三年生って、美少女?それ以外?」
「それいがいだったよ。」
ちっ、ラブレターの線は消えたか。と、なるとだ。
『お前の女は預かった。返して欲しければ体育館裏に来い』
「時代錯誤な内容だな」
「ねえねえ、それはたしじょう?」
「うん、そうだよ、あめちゃんいるかい」
「わぁい!」
それにしても、お前の女って。
見てのとおり硬派な僕は彼女をつくってないので、特定の女子、は居ないのだけど。
「まさか委員長!」
先ほど僕の頭を踏みにじった天使。彼女があの時僕にほれていても不思議ではないかもしれない。
教室を見回す。
いた。眼が合う。どうやら委員長ではないようだ。
「かいちょー、体育館裏いかないの?」
「うーん、だって時間かいてないからなあ。」
ドス、と僕のコメカミに鉛筆が突き刺さる。
「なにするんだ!普通だと死ぬぞ!」
「はやくいきなさい♪」
鉛筆を投げた主は委員長だった。
しっかり話を聞かれていたらしい。
「んー、気乗りしないな。」
そういって、買ってきたパンを口に詰め込む。手に残ったのは、パンの入っていた空き袋。
「んじゃちょっくら、ゴミすててくるわ。」
◇
さて。賢明な読者の皆さんなら、預かられた女の正体くらいすぐお気づきであろう。
「んーーー!んーーー!んーーー!」
僕が体育館裏にたどり着くと、猿轡をされた少女、そしてガラの悪そうな男子生徒が4人ほど。
「よくきたな、生徒会長さん。素直にその座を譲るなら、この女を無事に帰してやるぜ?」
リーダー格の男が、ナイフを猿轡をされた縞パンにつきつける。
「んんんんんーーー!(地の文で縞パンっていうな!)」
何かを必死に訴えている。だが猿轡をされているのだ、何を言ってるかさっぱりだ。
「なあ、このあたりにゴミ箱ない?パンの袋が捨てたくてさ。」
パンの袋をくしゃくしゃ、と丸めながら、僕はきわめて紳士的に、尋ねた。
「は?」
ナイフの男が口をおおきくあける。
やれやれ、人が丁寧に尋ねたのにこの反応である。これはお仕置きが必要だ。
「ああ、ゴミ箱、そんなところにあったんだ。」
ぼくは、大きく振りかぶって。パンの入っていた袋を、『ゴミ箱』に投げ込んだ。
「ぼげ!?」
変な声を上げて、『ゴミ箱』は後方に吹っ飛ぶ。
「……!」
それをみていた、少女も、取り巻きたちも絶句する。
何メートルか吹き飛んだ後、地面をゴロゴロごろ、と転がり、『ゴミ箱』は動かなくなった。
「生徒会規則、ゴミはゴミ箱に、だぜ?」
固まった取り巻き立ちの中を進み、少女の元へ向かい、猿轡をはずしてやる。
「大丈夫かい?」
「は、はい」
弱弱しく少女は。杏は答える。
「辛い目にあわせちゃったね、僕のせいで」
「い、いえ、その、ありがt」
こんな美少女が複数の不良生徒に拉致されたのだ。
そうとうな恐怖だっただろう。
きっとどれだけ泣き叫んでもやめないでかわるがわるに男達に…
「まって、ナに考えてるんですか!?私そこまでのことされてませんから!つかまってここで待ってただけですから!」
「隠さなくていいんだよ、大丈夫、僕が慰めてあげるから。あ、コーラで洗えば妊娠しないって聞いたことが。あとで一緒に買いに行こう。」
「そんなの迷信だし!そもそも何もされてませんから!とゆうか今朝のあんたのほうがよほどひどいことしてましたから!」
「大丈夫、僕は処女厨じゃないから。ねとられ系もいけるから。」
「私まだ処女ですから!バージンですからぁ!キスもしたことありませんからぁ!」
「いいんだよ、隠さなくても。そうだ、コーラであらったあとは一緒に産婦人科に」
「うわあああああん」
よほど辛かったんだろう、杏はついに泣き出してしまった。
「やばい、こいつ。噂以上に外道だ…」
取り巻きの男達がなにかたわごとを言っていた。
「さてと、ボスは見てのとおりあそこで『ゴミ箱』になってるけど。お前達はどうする?」
生徒会長たるもの、無益な殺生は好まない。
「退くならいまだぜ?」
「ひ、ひくぞ」
男達は背中を向けてさっていった。いこうと、した。
「女の子にこんなひどいことをして、逃げれると思うなよ!」
「ひいいい?」
そのひとりの背中にとび蹴り。
「お、おまえが退いてもいいっていったんじゃねえかyぐえ」
正拳。
「ば、ばけmぴぎゃ」
裏拳。そして。
「きゃああああ?!」
スカートめくり。縞々パンツ
「ちょっとまって!あきらかに最後のは要らないでしょぉ?!」
よかった、もう泣き止んでいた。
「…スパッツはいてなかったんだ」
「あなたがポケットにいれてたスパッツなんかそのまま履くきにならないわよ!」
「そうか。やっぱりあの男達に乱暴にされて…」
「はなしをきけええええ!」
「そうだ、やはりだれか女子生徒に一緒についてきたもらったほうが心のケアに…」
「うわああああああん」
少女の叫びをかき消すように、キーンコーンカーンコーン、と間の抜けた音が鳴る。
長かった昼休みも終わりのようだ。




