二話
「しかし解せないな。」
彼女とのむなしい戦いを終え、僕は学校へ向かう。まだ十分間に合うだろう。
さすがに生徒会長たる僕が遅刻するなんてほかの生徒に示しがつかない。
「なにがですか?先輩」
先ほどまで死闘を繰り広げていた少女は僕の横で可愛く首をかしげる。
「だって君はブルマ導入反対で僕を襲ったんだろう?」
「ええ。」
それがどうしましたか、ともいわんばかりに不思議そうに、緑と白の縞パンをはいた少女はうなずく。
「ちょっとまて、地の文で人のパンツの柄暴露してんじゃねえよ、このド変態」
「ん、何か言った?」
「いえ、何にも。空耳じゃないでしょうか。」
「まあいいや。君はブルマを反対していたけれど。」
そう、彼女はスカートの下にブルマを履いていたのだ。
彼女の体が心配だったので脱がせてあげたけれど。
「さりげなく地の文で読者をだましてんじゃねえよ、あんたが無理やり脱がしたんだろうが」
最近の女の子は夢見がちだな、なにをいってるのかさっぱりだ。
「…だって、パンツ見られたら恥ずかしいじゃないですか。」
そういって恥ずかしそうにうつむく。
「体育の時間は見られたら嫌なのに普段はかまわないのかい」
「変態が無理やりスカートめくらなきゃそうそう見られないよ!」
「そんな変態そうそういないよ。でも昨今の女子学生のスカートは短いし。」
「それに。だってブルマですよ?あんなのパンツみたいなもんじゃないですか。スカートで隠れるならともかくあんなの丸出しで授業なんか受けたくありませんよ。」
「よくわからないな、最近のわかいもんは。」
「あの、ところで。」
「なんだい?」
「本当に学校についたらブルマとスパッツ返してくれるんですか。」
「もちろん、生徒会長は嘘をつかないよ。」
そろそろ校門につくな。僕はやや体を傾けてダッシュする体勢をとった。
すまない名前も知らない美少女よ、僕は生徒会長になって初めて嘘をつく。
僕はポケットの中でまだぬくもりを残す二つの布を確かめた。
◇
一時間目はプールの時間。
この学校は今の生徒会長が就任してからプールの時間が倍になった。
本当は全ての授業をプールにしたかったんだけど、そうするとプールに全校生徒があつまってしまうことになり、泣く泣く断念したのだ。
あのときは自分の無力さを思い知った。そう、その生徒会長が僕である。
「わーい!」
同じクラスの女子生徒が準備運動もせずにプールにかけてゆく。
吸い背の時間とはいえ、基本は自由時間。この政策は男女ともにおおむね好評だった。
もっともこれを通す為に教師達とはかなりの戦いを繰り広げたが、いまそれを語るのは野暮だろう。
最初にかけていった女子生徒がプールにとびこみ、大きく上がる水飛沫。
「えへへ、いくよー!」
到底同い年に見えないその女子生徒はプールにはいるやいなや、他の女子生徒に水をかける。
「きゃ、冷たいわよ、林檎。」
プールサイドに腰掛けていたため、運悪く水をかけられたのはこのクラスの委員長の少女。
おかえしとばかりに足で水を蹴り、林檎とよばれたどうみても幼女にかける。
いわゆる合法ロリか。いや、高校二年だろやっぱり非合法なんだろうか。まあいいか。
「うわー、めにはいったぁ、ひどいよ千歳」
「うふふ、あなたから仕掛けてきたんじゃないの」
うーん、眼福眼福。
僕はというとプールにははいらず委員長、千歳の背中を凝視していた。
大きく開いた背中。
「エロい…」
委員長の長い髪は、くくられて前にたらされているので背中が無防備である。
この美しさはどう表現したらいいのであろう。プールサイドに佇む妖精とでもいおうか。
「ぐえっ」
しばしの天国を味わっていた僕の体が、突如後方に押し倒された。
視界に広がる雲ひとつない青空。そして思い切りコンクリートの床に後頭部をぶつける僕。
「みつけたわよ!この腐れ外道!」
僕を後ろから引っ張り倒したのは、
「君は今朝、縞々パンツを見せてくれた少女じゃないか。」
今朝の少女。僕を見下ろし、怒りの表情で立っていた。
「ぱ、パンツの柄とか大きい声で言うな!」
「急に押し倒して、もしかしてキスでもしてくれるのかい」
「んなわけないでしょうが!返してもらいに来たのよ!」
「なにを?」
「あんたがあたしから脱がした、ブルマとスパッツよ!」
ヒソヒソ
突如現れた少女にクラス中が注目し、なにかを噂しあっている。
「ああ、君がプレゼントしてくれたあれは大切に保管してあるよ。」
「プレゼントした覚えなんかない!はやくかえせ!」
「まあ、今いいものを見せてもらったし返すのはやぶさかじゃないんだけどな」
「え?」
「このアングルだと君のパンツがよく見える。」
「きゃあああ!?」
少女は漫画のように後ろに跳び退り、スカートをおさえる。
「でもこの学校は力が全てなんだぜ?返して欲しかったら実力できな。」
かわいい後輩に学校のルールを教えるのもやはり生徒会長の仕事である。
プールサイドで制服を着用なんて許されるはずがないということを、その体に刻み付けてあげようか。
「よいしょ」
突然僕の後方で透き通るような可憐な掛け声が聞こえ。
「ギャーー!?」
僕はそのままプールの中に投げ込まれた。
「ごめんね、うちの生徒会長はド変態で。でもいいところも…あんまりないけど、悪い人…だけど、犬に噛まれたと思って許してあげて?」
仮にも実力で生徒会長の座に上り詰めた僕の背中を簡単に取り、プールまでの距離およそ3メートルを軽々投げ飛ばすとは。
「私このクラスの委員長なの。あとで私からいっておくから、ね?」
先ほどまでプールサイドで佇んでいた妖精であった。




