メルローサの居場所(2)
数時間後に現れる侯爵令嬢はまたですか、と言わんばかりに呆れている。
淡いピンクを含んだブロンドの愛らしい令嬢。
話したことはないが、愛らしいだけでなく優しく理知的だという。
「ロドニー殿下、ちゃんとお一人でも授業を受けていただかないと困ります」
「アンリエッタ、来てくれてありがとう。やっぱりアンリエッタと一緒だとよくわかるんだよ」
仕方がないですね、という風に授業が行われる執務室に入って行かれる。
あの方と勝ち負けを争うなんて最初から考えてない。
国王陛下が王子との婚約を認めてくださってるとはいえ、国王陛下も含め全幅の信頼を寄せられているのはあの侯爵令嬢だ。
あの方が長年積み上げてきた王族からの信頼を崩せるとは思わない。
だから、自分もこれから積み上げていく。
メルローサは、自分も国政について学びたいと申し出た。
王子が教育を受けている間、続き部屋でメルローサもその授業を聞いている。
講師は宰相の補佐官で、難しい言葉や概念が出てくるとロドニーが困惑するのか、アンリエッタが「それはこういう意味でね、こうなるという事なのよ」と補足の説明をしていく。
…確かに、それを理解できている人でないとできない芸当だ。
しかも幼子にもわかりやすい説明をしていく。
流石は宰相家の御令嬢、とメルローサも舌を巻く。
メルローサですらも国政の授業をアンリエッタと一緒に受けたいと思ってしまったほどだ。
一度その体験をしたら自分も見事に嵌ってしまった。
アンリエッタ嬢と受ける授業は何物にも代えがたいと。
王太子殿下より、メルローサに声がかかった。
王領の視察に行くので、領地経営に実績のあるメルローサにも見てほしいのだと。
王太子妃も連れて行くと、自ずと王子も連れていくことになるのでピクニック気分になってどうもいただけない。
それで純粋に領地視察の目的の為に、メルローサだけを伴うことになった。
王領は王都に近く、王都の台所と経済を支えている。
管財人、農夫達、工房の技術者達との懇談も終え、王太子はメルローサに尋ねる。
「君の目から見て、王領はどのように感じられただろう」
「はい、皆様素晴らしい方々です。ただ、少し惜しいと思いました」
「ほう?どのような点が」
「私の育ったアンデル領はここよりも広大で、しかも住人は少ない。それでも王領に引けを取らないくらいの生産がされています」
それは単に技術だけでなく、保管や流通についても父公爵と相談を重ね、改良してきた結果である。
領地によって品質や効率のばらつきがあるのはある意味損失だ。
「領地で行ったのは、領民に対する教育の場です。農業も技術をはじめ、悪天候時への対策等も含めた教育をします。それを受けた領民は、ただ悪天候に怯えなくても済むようになりました」
「領民に対する教育、か」
「はい。そして読み書きだけでなく算術も授けました。それで無理な取引をさせられることがなくなりました。管理を行う者には更に法を教育しました。いずれどれも領民には子供のうちから学ばせて、全てを兼ね備えた人材となるようにと父公爵とは話していたところでした」
「なるほど」
「国内にはいろんな性質の領地が存在します。荒れた地が多い領、水害が起きやすい領、外敵からの侵入を受ける危険度の高い領。それぞれが違うので、通り一遍の対策は無理です」
「そうだな」
「ですから国から救援を派遣する時に、どう対策をすればいいのかがわかっていてそれを実行できるようにしないと意味がありません」
「その通りだ」
王太子はまだ幼い少女がそれほどまでにしっかりと領地の経営について父公爵の支えになってきたのに驚かされる。
もしも必要な知識がどの貴族の領にも生かされ、災難の時にも乗り越えられるようになれば。
貴族同士の争いも減り、協力のもとに国政ができるのならば。
「メルローサ嬢、ありがとう。良い考えだと思う。戻ったらすぐに貴族院会議にかけてみたいと思う」
「ありがとうございます。勿体ないお言葉です、王太子殿下」
王太子からそう言われた時に、メルローサはアンリエッタの政略の事を考えた。
あの方は王子殿下から逃げたのでもなく、正しくご自身の価値を活かす場として外交を担うバスティアン公爵嫡男様との婚約を結ばれたのではないかと。




