メルローサの居場所(1)
第一王子の婚約者に決まったメルローサは、王宮に召し上げられてその一角に次期王子妃としての部屋を与えられた。
同時に王子妃としての教育が始まった。
公爵家の令嬢としての基礎的な教養や振る舞いは一応身に着けてはいる。
けれども長らくの領地暮らしで、都会の洗練された立ち振る舞いについては心許ないかもと本人も感じていた。
初めて王宮を訪れて王家の方々と謁見をした時、第一王子殿下と王太子妃殿下の刺すような冷たい視線が忘れられない。
流石に『お前を愛することはない』とまでは言われなかったものの、『僕の愛する人を押し退けて王子妃になろうとする者めが』と言いたげな視線だった。
まだその言葉があったならましだったかっもしれない。
ロドニー王子はメルローサに口をきくこともなかった。
その場でメルローサを歓迎してくれたのは国王陛下だけだった。
王太子妃殿下と王子殿下に疎まれる王子の婚約者に向けられる感情は、王宮の使用人達にも伝播する。
「アンリエッタ様なら」
「アンリエッタ様の方が」
そんな声が嫌でも入ってくる。
(私が望んだわけじゃないのに)
アンリエッタの名前を耳にするたびにそう思う。
王太子妃殿下をはじめ、宮中の使用人達にもそう思われていた辺り、エゼルキナ侯爵令嬢アンリエッタ様は余程素晴らしい御方だったのだろう。
王子殿下の側近候補の貴族子息達に訊いても、やはり同じような答えが返ってくる。
その中には、侯爵令嬢と婚約を結んだバスティアン公爵令息も含まれていた。
侯爵令嬢の婚約については緘口令が敷かれている。
領地から王都に向かう馬車の中で、メルローサはそう伝えられた。
特に王子とアンリエッタは特別な約束があったわけではない。
ただ単に王子が心を寄せる側近達の中で彼女が女性だったというだけの話。
彼女にも高位貴族家の子女として政略は存在するだろうし、バスティアン公爵令息に非があるわけでもない。
それでも、王子の目には自分の側近でありながら自分の想い人を奪った裏切り者と映るかもしれない。
恐らくそうなるだろう。
だからこその緘口令なのだとアンデル公爵も理解したし、娘のメルローサにもそう伝えた。
最初から針の筵となるのが決まっている婚約だった。
レベンガルド王国の貴族に生まれたからには、王家を支え、国を支えるのが務めだ。
元より王子の愛は期待しない。
その代わり、自分にできることをやってきちんと認めてもらえればいい。
それからはメルローサはそう気持ちを切り替えた。
恐らくどんなに頑張ったところで王子と王太子妃殿下の評価が変わることはないだろう。
だからそれ以外の人に、未来の王子妃として認められたらいい。
…できるだろうか。
自分にできることは領地の経営。
領地の広い範囲に目を向けて、あちこちの問題点を拾い上げ、解決していく。
国政もその延長にあると言える。
王子にその能力がどれだけあるのかはわからないが、少なくとも自分はできる。
「ロドニー殿下、授業を抜け出されては困ります。将来の王となるには、政をきちんと学んでいただかなくては」
「嫌だ。アンリエッタと一緒なら受けるよ。アンリエッタを呼んで」
侍従と王子のそのやり取りを何度も傍で聞いている。
そうやって侯爵令嬢は王子教育に付き合わされ、恐らく彼女自身もある程度王子教育が身についていらっしゃるだろう。




