二人の結束
テーブルの上に置かれた手紙を、エルネストはじっと見た。
「相談、とは」
「どうぞ、お読みください」
明らかに第一王子の字である。
第三者の自分が読んでもいいものなのかと一瞬躊躇った。
アンリエッタが視線で促すと、エルネストが手紙を手に取った。
内容は至極単純だった。
自分の婚約者は王子妃の仕事はできるのだろうが心休まる存在ではない。
今からでもアンリエッタと婚約を結び直したい。
自分が愛しているのはアンリエッタだけだと。
「…」
「困るんですよね、確かに殿下とは幼馴染ではありましたが恋愛感情とか持ったことがないのです。殿下は私よりほんの数か月だけ年上ではありますが、面倒を見なきゃいけない弟のようで」
たとえ王子といえどもアンリエッタに愛の言葉を臆面もなく囁くのはエルネストには耐え難い。
以前から王子がアンリエッタに執着していることは知っていたが。
「私はエルネスト様との婚約を反故にする心積もりなどありません。どうも殿下は勘違いをしていらっしゃるようです。何も公爵家の威光の前に私が屈したというわけではありませんのに」
公爵家の威光からアンリエッタを救い出せるのは王族の自分しかいないと思い込んでいるあたり、姫を救い出す騎士のようなつもりでいるのだろうか。
アンリエッタとの婚約に関しては、父公爵がかなり前のめりになって進めただけにエルネストも少しドキリとした。
「それに、もし殿下の言うとおりにしたら、私とエゼルキナ侯爵家がアンデル公爵家の敵になってしまいます。私の方から殿下に言い寄っているのではありませんのに」
そのあたりは、アンリエッタを愛しているという割にはロドニーに抜け落ちている部分だなとエルネストは思う。
「国王陛下が、殿下とアンリエッタの婚約に反対しておられたのがよくわかる。愛していると言いながら、結局はご自身しか殿下は見えていらっしゃらない。そのような御方にアンリエッタを渡すなど考えられない」
些か憤りながら独占欲を口にするエルネストに、アンリエッタも頬を染める。
自分はロドニーから逃げてしまったけど、メルローサ様が上手く手綱を取ってくれればよいのだけど。
そう思いながらも、アンリエッタは可愛い願い事を口にする。
「夜会では、決して私を離さないでくださいね、エルネスト様。私には貴方しか、貴方には私しかいないのだと知っていただかなければ」
「勿論だ。ああ、そんな可愛いことを言われたら婚礼の日が待ちきれなくなってしまう」
「まあ、エルネスト様ったら」
今すぐ強く抱きしめてしまいたい衝動を抑えて、エルネストはアンリエッタの手を包み込んだ。
アンリエッタとエルネストの婚約は長らく周囲には伏せられていた。
エルネストが次期宰相として王子の側近になるのはほぼ決まっていたからだ。
けれど次期宰相が婚約した相手は王子の想い人。
波風が立たないわけがない。
なのでもう少しロドニーが大人になって、政略というものを受け入れられるようになって、私と公を使い分けられるようになったら。
この婚約は結ばれても王子に恨まれる。
壊れてもアンデル公爵家から恨まれる。
ただ心強い所があるとすれば、国王陛下がこの婚約の後ろ盾となってくださっている事だ。
だからこそアンリエッタがエルネストの伴侶として次期公爵夫人になるのだと知らしめる必要がある。
それがひいてはメルローサの為にもなると考えている。




