ロドニーの婚約(2)
「わかりました。王太子殿下ご夫妻にも確認をしてまいります。それまでは確約は」
「ううん、約束だよ侯爵。僕はアンリエッタと一緒がいいんだ」
王族パワーで押し切ってしまうロドニーに、侯爵も困った顔になる。
「アンリエッタは構わないのか?」
「ええお父様。とっても楽しかったわ。また来たいです」
「そうか」
程なくして王宮から侯爵家に書簡が届いた。
まだ幼い子供達の事だから、将来的な話はまた別にするとして。
取り敢えず王子の側近候補達の1人としてアンリエッタも王宮への自由な出入りが認められた。
ロドニーはアンリエッタが他の側近候補の令息達と接点を持つことを嫌がっていた。
令息達が呼ばれる日にはアンリエッタには登城を控えるように促し、令息達とかち合わないようにしていた。
(アンリエッタはあんなに素敵な子なんだもの。他の誰かのお嫁さんにと望まれたら困るからね)
出会って3年も経つと、ロドニーは側近候補達に対するのとは違う熱量でアンリエッタに執着し始めた。
未来の側近達を決めて披露目にするガーデンパーティの席に、アンリエッタも出席していた。
その頃にはアンリエッタも外国語に堪能な優秀な御令嬢として社交界の御婦人方の話題に上るようになった。
ロドニーが13歳になり、一人前の王族としてこれからは公務にも加わる。
そのため、側近達を決める必要があったのだ。
その場で、15歳のエルネストは12歳のアンリエッタに出会った。
王子が大事にしてるという侯爵家の令嬢に、エルネストは一目で恋に落ちた。
ロドニーの嫌な予感は図らずも当たってしまったのだ。
「父上。エゼルキナ侯爵家のアンリエッタ嬢は、もうロドニー殿下との婚約は決まっているのでしょうか」
すぐさま父の公爵に尋ねたエルネストには、一刻の猶予もなかった。
「いや、まだだ。王太子妃殿下は殊にお気に入りのようだが、国王陛下が難色を示しておられる」
「難色…ですか。何かアンリエッタ嬢に不都合でも?」
いや、と公爵は首を振った。
「我々貴族は王族をお支えするのが務めだ。エゼルキナ侯爵令嬢もそれをよく弁えていらっしゃる。それ故に王子殿下が侯爵令嬢に依存しすぎているのだ」
「依存」
「エゼルキナ侯爵令嬢が居れば殿下はやっていける。でも侯爵令嬢が居なければ殿下は」
一方的に侯爵令嬢が支える立場になる。
「父上、私はあの御令嬢を支えたいと思いました」
庇護されるべき一人の女性として。
公爵も女性に全く無関心だった嫡男が珍しく熱を持って縁付きたいと思う女性に出会ったことに驚いていた。
「そして将来、国の外交の場で私の隣に立っていて欲しい女性だと思いました」
確かに、能力も高く優しく周囲を気遣えるような女性は外交官としては得難い存在だ。
「先ずは宰相閣下の意向を確かめてみよう。王子の妃選びも本格的に始まるだろう」
具体的に彼女の名が王子の婚約相手として挙がる前に。
公爵家も未来の嫁獲得に動き始めた。
エゼルキナ侯爵家に話を通す前に、公爵は先に国王陛下に公爵家がアンリエッタを婚約者として迎えたい意向を伝えた。
王太子夫妻は反対したが、国王陛下は快諾してくれた。
その方がロドニー王子の為になると。
そうなるとロドニーの婚約者選びが不可欠になってくる。
バスティアン公爵が王子妃に推挙したのは、アンデル公爵家のメルローサ嬢だった。
彼女は普段領地で父親について領地の経営を担っている。
最近では広大なアンデル公爵領を立派に切り盛りしていると聞く。
将来国を治めるにはこれ以上にない能力の御令嬢だ。
滅多に王都には姿を見せないが、月光を弾く様な銀の髪に深い湖の様な瞳が印象的な美しい御令嬢だという。
国王の推挙もあり、貴族院ではアンデル公爵令嬢メルローサ嬢がロドニー王子の婚約者に正式に決まった。
そしてロドニーの退路を断つように、バスティアン公爵はエゼルキナ侯爵令嬢との縁談を調えた。




