エルネストの初恋
バスティアン公爵家は王家の傍系の血筋に当たる。
嫡男のエルネストの婚約が調ったのは3年前、エルネストが15歳の時。
相手は宰相家の御令嬢のアンリエッタ。
彼女は社交界ではある意味有名な令嬢だった。
幼い頃から第一王子のロドニー殿下の遊び相手として近しい存在であり、最も婚約者の候補として有力とみられていた御令嬢。
その人がまさか自分の婚約者となるとは思っていなかった。
明るく教養があり、ロドニー殿下と同い年ながら姉弟のようだと言われるくらいに面倒見がよい女性だった。
あの御令嬢なら将来王妃となっても殿下をしっかり支えて行かれるだろうと思われていた。
その御令嬢が自分の婚約者になった。
自分にとっては僥倖だった。
宰相家の娘とあって、特に語学に関しては両親からもしっかり教育を受けていた。
元々面倒見のいい、気配りのできる気立ての良い御令嬢だったが、主に外交を担うバスティアン公爵家の次代の女主人にはこれ以上にないくらいの優良物件として、王家に搔っ攫われる前に現公爵が動いた。
初めてアンリエッタと顔合わせをした時に、即座にエルネストは恋に落ちた。
話していても話題が尽きることなく、共にいると楽しいと思えた。
そして何より相手の心に寄り添おうとしてくれる。
この暖かさがきっとロドニー殿下の心も惹き付けて止まないのだろう。
この人を手放したくないと思うまでにそう時間はかからなかった。
女性に対しては大した期待も持っていなかったエルネストですらすぐに陥落した魅力的な御令嬢。
だから失念していた。
自分の婚約者に、第一王子も執着しているということを。
「エルネスト様、ようこそいらっしゃいました」
侯爵家のサロンでは、婚約者同士の交流の為のお茶の席が設けられていた。
迎えてくれた婚約者のアンリエッタは可憐な笑みを浮かべてエルネストを迎えてくれる。
自分もまたこの魅力的な女性に愛されているという実感がわいてくる。
「たった1週間だというのに、貴女に会えなかった時間が何年もだったかのように遠く感じられたよ。その輝くような笑顔で僕を幸せにしてくれる僕の女神は息災だっただろうか」
そう言って手を差し出すと、それに乗せられたアンリエッタの手にキスをした。
顔を上げると、嬉しそうに微笑むアンリエッタの顔が自分の方を向いている。
幸福の形とはこういうものなんだろうな、とエルネストは考える。
「私もお会いするのを楽しみにしてましたの。待っていてくださって本当に嬉しいですわ」
しっかり者のアンリエッタの声も、甘えるように優しい。
席に着くと侍女がお茶をサーブする。
「先日公爵閣下から頂いたお茶がとっても美味しくて、是非エルネスト様と一緒にいただきたいと思っていましたの」
「喜んでくれて嬉しいよ。父上にもそう伝えておくよ」
外交官であるバスティアン公爵は外国の珍しいものに触れる機会が多い。
中には交易にも発展する品もある。
そういった珍しいものだけではなく喜ばれそうな品を選りすぐってエゼルキナ侯爵に付け届けをよくしている。
息子の伴侶となる未来の公爵夫人を逃すわけにはいかないと公爵自らも囲い込み攻勢に出ているのだ。
何しろ第一王子の関心を引くほどの御令嬢である。
公爵家としても迎えるにはこれ以上ないという逸材だ。
「アンリエッタ嬢は何が好きなのだろうか。どういうものに関心があるのか」
と本人以上に公爵や公爵夫人が心を砕いている。
あんまりあからさまに物量作戦を投下してもドン退かれるんじゃないかとエルネストが心配するほどだ。
「父上、アンリエッタ嬢は贈ってくれる人の気持ちを嬉しいと思う御令嬢です。父上のお気持ちは通じていると思いますよ」
と、どっちが婚約者なのかと苦笑する始末だった。
先日贈ったという異国のお茶は、まんまとアンリエッタの心を掴んだらしい。
「もうすぐ王宮の宴がありますね。おそらく第一王子殿下の御成婚の日時の発表がその時に行われるのでしょう」
暗にエルネストがアンリエッタにドレスと宝飾品を贈りたいのだと、その話題を振った。
「ええ、そうですね。無事に結婚してくださるといいんですが」
最近は夜会でもロドニー王子が婚約者のメルローサ様を冷遇していると評判になっている。
アンリエッタとしてはどこかの夜会で盛大にロドニー王子が婚約破棄を叫ばないかとヒヤヒヤしている。
そして渦中に引き摺り込まれかねないアンリエッタは王家の主催の夜会に出向くのは気が重い。
「あの、折り入ってエルネスト様にご相談があるのです」
そして午前中に届いたロドニー王子からの手紙をテーブルの上に置いた。
文章は全て自力での作成ですので誤字脱字や投稿間隔にムラがある場合ご容赦ください。
漢字の場合、わざとその字を使っているということも偶にありますが、ご指摘いただけた部分は極力見直していきたいと思います。




