神が生まれた山
古代、日本全国にたくさんの神様が生まれてた時代…自然信仰が各地に生まれていた。
日本中部の雪深いとある村にも、山岳信仰が生まれていた。
その村の村人は非常に信心深く、それはそれはその山神様を丁寧にお祀りしていた。
神社は木々が生い茂る山の山頂にあり、参道はまだ整備されていない。
それなのに村人は輪番でその神社にお供えものを運び、村の安泰と豊作、家内安全などをお祈りしていた。まだ神様と人の距離が近く、良くも悪くも村人の念頭にはいつも神様がいた。
そしてみなが畏れ祀るこの山神様には一頭の神使もいた。
山神様の伝達係であり、いつもお側につき、お守りする役目であった大きな猪。
よく戦ってきたであろうその体にはたくさんの傷がついていた。
秋のある日、村の年長者の1人である翁に山神様の神社に輪番が回ってきた。
なので朝から御供えを拵え、背にかつぎ、お詣りのために山を登っていた。
しかし、ひとり何十回も通ってきたはずのその道で、方向を見失い、困り果てていた。
翁「あぁ、ひとりで来たのが間違いか…まだ耄碌してないつもりだったが…」
そう呟き、山の中で夜を明かすことを覚悟しかけた時…森の奥からガサガサと音がした。
熊か何かと思った翁は食われるかと思った瞬間…そこに現れたのは大きな猪。
翁「なんじゃ、おまん…わしはまだ死んどらんぞ。食うには早い…」
大きな猪は翁をじっと見つめる、そして少し進んで、振り返る。
翁「なんだ?わしを食わんのか?うまそうじゃないか?」
大きな猪は振り返ったまま動かない。
翁「…まさか案内してくれるんか?」
翁は“もしかしたら”と、その大きな猪の後ついていくことにした。
ゆっくり歩く翁に合わせて、ゆっくり歩く大猪。
翁「おまんはそんなに大きな体やのに…優しいんやな…この風景は見知ったところじゃ…そうだ、神社はこの先じゃな」
翁は無事にお詣りを済ませ、お供物をし、この案内への礼を言う。
翁「あれは山神様の神使様ですかな…無事に連れてきてもらいました…ありがとうございました。」
そして日が暮れる前に下山することができた。
歳のせいか疲れのせいか…足元のおぼつかないその翁のそばをずっと離れず見守っていた大猪がいてくれたからである。
翁を村の入り口付近まで見送った大猪は、山に戻って行った。
なかなか帰ってこない翁のことを村の若い衆たちは心底心配していたが、翁は今日あったことを若い衆たちに話す。
村人たちは口々に「なんと優しい猪じゃ、山神様の神使ではないか?」「人助けをする猪がいたとはな…」と、感動し満場一致で村の翁を助けてくれた大猪を祀る神社を尾根の中腹に建てることになった。
その神様が今日の猪神である。
「山神様に仕え、人を護り、自然を護り、理を護る」その神様の名前は天護。
村の者はそれから山神様と同じく、天護様も厚く祀ってた。
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だが、時間は流れ…何世代か後になった頃…神様と人との関係が少し変わり始めていた。
飢饉が増えたり、お上の愚策で地方は飢えた…
そういったことでこの時代の村人はとうとう村の娘を猪神・天護に与えることにした。
文字通り“神にも縋る思い”で、この飢饉をどうにか乗り越えられるように村の娘を差し出したのだ。
その村を見守ってきた天護は人々が飢饉で弱っていくのを見ていて、なんとかしようとしていたけど
ここだけではなく日本全土で飢饉だった。
どこかで…またはいくつかの土地で、神と人との歯車が合わなくなり…土着の神様の力が及びづらくなっていた。
山神様という立派な神の力でも集落全体の飢餓を解消させることはできず、神としてまだ若い天護は被害を抑えるくらいしかできなかったのだ。
そんな時に村長が村娘たちを集め、くじをした。
村娘の父親「悪いの…おまんが選ばれてしまったんや」
村娘「わたし…私は好いてる人がいます…」
父親「滅多なことを言うんでない、お前がいけば…みな食うに困らんようにできるかもしれんのや」
村娘「…父上、私いきたくありません…」
父親「すまんの…」
しくしくしくと泣く村娘。
父も目に涙を溜めるが、泣くことはできない。
そして、その時はやってきた。
村娘は天護の社にて恭しく進められた儀式のあと…そこに置いてけぼりにされた。
村娘はまだ泣いていた。
夜も更けて、娘は泣きつかれ座り込んでいた。
すると突然、後ろから声がした。
天護「おい娘…な、泣くんでない」
村娘は振り返り目線を上げる…「ひぃ、ば、ば、化け物!」
天護は神になってから、大猪から人型になっていた。
しかし大柄な人という範疇を優に超え一枚の襖より大きい巨躯、
体は人型になってもその頭は猪の形そのもの、牙は鋭く長く…その鼻は大きく、
耳はぴくぴく動き、鋭い目と荒い呼吸で威圧感が増している。
天護「ば…化け物やない、わしがここの神や…」
言い終わる前に「私には想い人がいるんです!あなたに嫁ぐくらいならここで死にます!」
彼女はそう言い放った。
天護「そんな…死なんでえぇ…ここから逃してやる…でも、村人に見つかったら…飢饉が続いた時おまんのせいにされるかもしれんから…近くの稲荷神社へな…だからもう泣くな。」
村娘「…え?」彼女は泣きすぎて呼吸がうまくできないようで、声がちゃんと出ていない。
天護「目を瞑っとれ。云壇いう狐がおるから…そいつに言っておまんの想い人に伝えてもらえ…そいつが本当の男なら…おまんを迎えに来るやろ」
そして天護は村娘のおでこに手をかざし、村娘は気が遠くなり、気絶する。
気づいた時には朝で、見知らぬ社の中にいた。
そこには狐が一匹座って娘を見ていた。
「ここはどこ…はっ…あなたが云壇様かえ?」
村娘は狐に尋ねた。
きつねは笑顔にも似たその顔でふさふさの尻尾を振っていた。
村娘「もしあんたが神様なら…ひとつ頼みたいことがあるんじゃけど…あの村の弥吉という青年に私がここにいると伝えてくれんか?」
それを聞いたきつねは走り出した。
村娘「本当の神様なんか…それとも神使か妖か…」
きつねは道に出て、人に化ける。
そう彼がここの神様、云壇である。
云壇「あぁ、あのおなごは好いてる人がいるんやな…泣き腫らして可哀想に…まあ、今からその弥吉さんに伝えて…来るか来んかはその人次第ってな…」
とは言いながらも軽い足取りでその村へ向かう。
そして、やっと到着した村の中をふらふら歩き…
「ねえ、そこの方…弥吉さんという方を知ってるかい?」と聞いて回る。
何人かに聞いたあと、農具の手入れをしてた弥吉を見つけた。
云壇「あんたが弥吉さんかい?」
弥吉「…はい?」
云壇「急に悪いけど…あんた、好いてるおなごはおるかい?」
弥吉「…なんですか?」
云壇「いいから、いいから」
弥吉「いや、いまはもう…いません…」
云壇「いたんやな?猪神様に嫁にだされたあのおなごかい?」
弥吉「なんでそれを…」
云壇「じゃあ少し…付いてきてくれんかな?」
云壇は弥吉を説得し、隣村の稲荷神社まで付いてきてもらうことにした。
道中、弥吉はたくさん質問したが云壇は「ええから、ええから」しか言わない。
峠を越え、たくさん歩いてやっと稲荷神社についた。
云壇「じゃあ私はここで…」
てててっと去っていく、その足取りはまだ軽かった。
弥吉「なんや…なんやったんや!」
その声を社のなかで聞いた村娘…
村娘「…や、弥吉さん?!」
弥吉は慌てて声がした方の襖を開ける。
弥吉「おまん、生きてたんか!」
村娘「弥吉さん!来てくれたんですね!」
熱く手を握り合う2人。
村娘「猪神様が…逃げてもええと…」
弥吉「ほんとうか…!」
村娘「でも村人に見つからないように…と。だから村には戻れません…」
弥吉「おまんと2人ならどこでもええ、一緒に行こう」
そして、そのまま駆け落ちのように社を出た。
その後どう暮らしたはわからないが、きっと幸せに暮らしたであろう。
云壇「いい仕事しました、僕。僕と天ちゃん。天ちゃんはおまけ♪」
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そして…時代はもっと進んで2025年。
つゆ「あーーー!もう疲れた!」と大阪はアメ村のバーで飲みながら叫ぶ1人の女。
仕事に疲れ果てている、だけではない。
色んなことにもう疲労困憊なのだ。
バーテンダー兼友人のヨンド君は「何に疲れたん」と。
つゆ「もう全部、全部。呼吸以外全部疲れた…。お酒飲むのと呼吸以外何もできない。」
ヨンド君「お酒飲めたら元気や」
つゆ「そんなぁあ…。実は最近よく考えてることがあるの。」
ヨンド君「なに、そんな真剣な顔して…」
つゆ「私大阪好きやし家族も友達もおるけど…都会ちょっと疲れたんよ」
ヨンド「まあ、俺らいい歳やしな」
つゆ「一緒にせんといて?(笑)」
ヨンド「同い年やろ、で?考えてることって何?」
つゆ「田舎の一軒家買う。で、DIYして住む。」
ヨンド「…ほう、バーベキュー呼んでや。」
つゆ「DIY手伝ってくれたらな?」
ヨンド「無理やろ、遠いわ。…ってどこ行くん?」
つゆ「まだ決めてないけど、たぶん…中部のどっか。長野とか岐阜とか…あの辺きれいやから。」
ヨンド「遠いわ、でもええんちゃう?」
つゆ「そう思う?私もそう思う…」
そこからの行動は早かった。
家に帰り、インターネットで物件を漁り、写真を精査し、Google mapで辺りをチェックした。
つゆ「どうせ田舎に住むならめーーちゃ田舎がいい。コンビニとか近くにあったら興醒めだなあ…あ!これはいいんじゃない?住所は…ふむふむ(Google map開いて)周りは何もなさそう、次は…wiki…ほー!この村…80歳以上がほとんど…ここがいい。しかも格安じゃん、中古の軽自動車かそこそこの腕時計くらいの値段…よし!週末見に行くぞ!…興味あるってメール出そうっと。」




