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第八話 激戦

鬼原組の残りは三十人ほど。

高台から戦況を見下ろす鬼原郷哲の顔には、苦々しさが滲んでいた。

町人たちがここまで一致団結して抗うとは――さすがに想定外だった。

郷哲が眉をひそめた、その直後だった。


どーん、と太鼓が鳴り響いた。


まるで合図を待っていたかのように、町人たちは一斉に戸を閉め、影へと姿を消した。

通りに風が走り、ひと気がなくなる。鬼原組の連中は何が起こるのか把握できず、戸惑いの色を浮かべていた。


その静寂を破って、ギィィ……と車輪の軋む音が響く。


路地から現れたのは、大八車を引く花火屋の甚八。片手には火のついた薪を持っている。

荷台には大工屋が作った木枠が組まれており、その中に打ち上げ花火の鉄筒が縦横五列ずつ、横向きにびっしりと固定されていた。

まるで移動式の花火発射台。無言の威圧をまといながら、装置は鬼原組の方へと向けられていた。


甚八は装置の後ろに回り込み、ニヤリと笑った。


「へいへい、皆さまお立ち会い――

 えー、花火屋でござい! どーんと花火を見せやしょう!」


そう言って、薪を持った手で導火線に火をつけ、叫ぶ。


「鬼原組の野郎ども、こいつは夏の風物詩ってわけにはいかねえが……

 地獄の花見を楽しんでくんな!」


導火線がシュババと火を走らせた、次の瞬間――


ヒュー―――ドン! ドドン! ドドドン!


二十五発の連射花火弾が、横一列に並んだ鬼原組の前方へ一斉に轟音とともに発射された。

まばゆい火花が炸裂し、鬼原組の連中は悲鳴を上げながら後方へ吹き飛ばされていく。


「うわああっ!」


服は炎に焼かれ、路上でのたうち回る鬼原組の者たち。

その惨状を見つめながら、甚八は火のついた薪を地面に叩きつけ、低くつぶやいた。


「てめえらが悪ぃんだ……

 花火はな、みんなが見て楽しむもんだ。

 ……こんな人殺しに使わせんじゃねえ、バカ野郎が……」



業を煮やした鬼原郷哲が、側近の二人を引き連れて、高台をゆっくりと降りてきた。

その姿を見た与平が、通りの向こう、十間(約二十メートル)ほど先にいる鬼原へ向かって声を張り上げる。


「七之助の旦那が、そこの空き地で待ってる!

 因縁の対決だ。俺たち町人は手出ししない。

 最後の戦いだ――受けて立つか、鬼原郷哲!」


鬼原はぎょろりと目を見開き、肩をいからせて怒鳴り返した。


「望むところだッ!」


怒気を孕んだ声が町に響き渡る。鬼原は空き地へと歩を進めた。

その背後を、無言でついて行こうとする側近たち――

だが、その行く手を、路地の影からぬっと現れた影が遮った。


――棠方飛翔丸だった。


「野暮だな。お前らの相手は俺だ」


静かだが鋭い声。その手にはすでに刀が抜かれており、陽の光を受けて鈍く光っている。

飛翔丸は二人の前に立ちはだかり、静かに構えを取った。


鬼原はちらと一瞥し、鼻で笑う。


「あの小僧はお前らで始末しとけ」


それだけ言い残すと、鬼原は足早に空き地へと向かっていった。

側近たちは足を止め、鬼原の指示通り、飛翔丸に狙いを定める。

中段に構え、じりじりと間合いを詰め、左右から挟み込むように立った。


飛翔丸は膝をわずかに曲げ、脇差を抜いて二刀流を構える。

重心を落とし、静かに呼吸を整えた。


一瞬、風が止んだ。張り詰めた空気の中、動きを見極めようと息を潜める。


次の瞬間、右の敵が鋭い踏み込みとともに、斜めに斬りかかってきた。

飛翔丸は即座に刀を合わせ、その刃を上にはじき上げる。

わずかに開いた腹部に、脇差を鋭く突き入れた。


その刹那、左の敵が背後から襲いかかる。

飛翔丸は反射的に右の敵の肩を掴み、盾にして一撃を受け止める。

と同時に、その体を左の敵に押しつけ、体勢を崩させた。


ひるんだ隙を逃さず、飛翔丸は刀を鋭く突き出す。

刃は、左の敵の胸を貫き、心臓をとらえた。


二人の敵は苦悶の声を上げ、膝をつき、その場に崩れ落ちた。


「――後は、師匠の番か」


飛翔丸は血をぬぐい、静かに刀と脇差を鞘に収めた。

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