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第五話 鬼原組の若い衆

澄川町すみがわちょうの川沿いの空き地に、

鬼原組の若い衆たちがぞろぞろと集まり、輪を作って話しはじめた。


「四日後、浮花町に襲撃をかける話だがよ、七乃助って奴がめっぽう強ぇらしい」


「へっ、鬼原親分の方がよっぽど強えよ。攻め込むまでもねぇ。どうせ降参するさ」


「俺たち四十人いるんだぜ。さらに親分が前に乗っ取った町からも五十人加勢が来るって話だ。

合わせて九十人だ、余裕だろうよ」


「ヤクザ、九十人だぜ。向かうとこ敵なしってやつだな」


「ああ、まったくだよ」


中秋とはいえ、申の刻(午後二時頃)の陽ざしはまだ夏のように鋭かった。

木々の影が地面に短く落ちるなか、一人の薬屋がゆっくりと通りかかった。


木製の薬箱を背にし、額の汗を手拭いでぬぐいながら歩いていたが、

ふと空き地の異様な雰囲気に気づいて足を止めた。


「なんだ薬屋、見てんじゃねぇ! さっさと消え失せろ!」


鬼原組の若い衆のひとりが怒鳴ると、薬屋は肩をすくめ、

驚いたように軽く頭を下げて足早に通り過ぎようとした。


「おい、ちょっと待て。薬屋、なんかいい薬ねぇのか? 力がつくようなやつとかよ?」


薬屋は振り返り、つつましやかに口を開いた。


「へぇ、ございますとも。これを飲めば疲れ知らず、

元気もりもり。まるで若返ったかのように感じられます」


「ばか野郎、俺たちは若いんだ。これ以上若返ってどうするだ!」


「がはははっ!」


若い衆たちはどっと笑い出した。

その笑いがひと段落したころ、薬屋が淡々と話し出す。


「この薬は即効性があります。みなさんお元気なようですが、それが倍になるという……」


「本来は五十文の品ですが、何かのご縁です。本日は勉強させていただいて、二十文でお分けします」


薬屋は薬箱を背から下ろし、蓋を開け、薬を取り出して鬼原組の若い衆たちに見せた。


「元気が倍になる? おお、それならもらっとくか!」


「おい、俺にもひとつ!」


「おい、俺は二つくれ、二つ!」


若い衆たちは次々と薬を買い始め、

あっという間に薬はすべてなくなった。


「完売でございます。ありがとうございます。これにて失礼いたします」


薬屋はぺこりと一礼し、木製の薬箱を担ぐと、

ふたたび額の汗を手拭いでぬぐいながら、その場を立ち去っていった。


「早速この薬を飲もうぜ」


「ばか野郎、この薬は浮花町に襲撃に行く時に飲むんだ。今元気になってどうするんだ」


「鬼原親分に見つかったら何を言われるか分からねぇから、みんな胸元にしまっておけ」


「いいか、浮花町に襲撃に行く時に飲むんだ。親分に威勢の良いところを見せるんだ」


「おお!!」


若い衆たちは薬を胸元に隠し、稽古を始めた。

互いに声を掛け合い、竹刀や模造刀を振るい始めた。


風に乗って響く木刀の音が空き地に鳴り渡り、

浮花町への襲撃に向けて、気勢はますます盛り上がっていった。

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