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並んだアルカナ(3)

「うーん、悪くはないんだけどなあ……」

ヴィティーク・ウィークェンドちゃんは娼婦であり、これは他の国々同様私の住む国でも賎業と扱われている訳だが、その中でごく一部、というよりごく一人だけ、賎業であるにも関わらず羨望を受ける人も居る。そのごく一人が、今僕の目の前に座っているウィークェンドちゃんだ。

ウィークェンド"ちゃん"と呼んでいる事から分かるかもしれないが、なんと僕より年下の15歳だ。

「ゴアちゃんは間違いなく顔は可愛い方なんだよ、その聖女体質?みたいなので肌とかめっちゃ綺麗だしさ」

そんなウィークェンドちゃんは、現在僕の肌を撫で回したり奇妙な寝癖のついた頭髪を直したり、直したかと思えば逆に奇妙な図形を形成して遊んだりしている。一応、奇妙な図形達一つ一つに〇〇ヘアーというれっきとした名前があるらしいが、僕の救えないレベルに貧弱な記憶力では掬えなかった。

「でもなんか総合的に見た時にあんまり可愛くないんだよね、ズームで見たら可愛いんだけどなあ……」

それはつまり僕が可愛く見えるのは解像度が粗い時という話になる気がするのだが、別に自分の可愛さに拘りを持ってはいないのでどうでも良い話だった。

しかし美醜というのは相対的なものだと思っていたのだが、絶対的な美貌というのもあるのだな、とウィークェンドちゃんを見ていると思う。

まるで……まるで何なのだろう?比喩が見つからない、強いて表現を見つけるなら世界で一番美しいとかだろうか、いや、それはあながち間違いでも無さそうだ。

ウィークェンドちゃんは引き続き僕でお人形遊びをしている、僕"と"ではなく僕"で"だ。

信じられない程綺麗な子に自分の体をベタベタ触られ、悪くは無いのだがどうも収まりの悪い気分になる。

「その僕の可愛さとやらはよくわからないんだけれども、仮に僕が多少の可愛さを備えていたとしてそれなのに可愛く見えないという現象が起きるのは、多分隣に君が居るという事が原因だと僕は思うよ。道端でちょっとキラキラした石を見付けたら嬉しくなるけど、その隣にダイヤモンドが転がっていたのならそんな石は視界にすら入ってこないだろう?」

ウィークェンドちゃんの隣に並び立って可愛く見える女性なんていうのは、それこそウィークェンドちゃんの血族ぐらいのものじゃないんだろうか。

「ヤバ!ゴアちゃん褒め方ウザいね!」

何かがツボにハマったのかウィークェンドちゃんは笑った、笑う姿も綺麗だった。その笑い声に合わせて、ゆったりとしたランジェリーに包まれる慎ましさを知らない肢体が揺れる。

凄いなと僕は思った、こうも絶対的な美を見せられた時、魅せられた時に人の語彙力は追従してこないし、仮に追従してきたとしても、人間ごときの語彙の中にそれを正確に表せる単語は存在しない。

「……ゴアちゃんさ、めっちゃ私の体見るね」

ウィークェンドちゃんはイタズラっぽく目を細める。からかい混じりの微笑に含まれた色気がじんわりとした、しかし鮮烈な興奮をもたらして、目の奥あたりがぐわんぐわんした。

「ああごめん、宝石の有機物版があるもんだからさ」

「ふふっ、やっぱ褒め方ウザいね」

どうも僕の話し方はウィークェンドちゃんのツボらしく、一言一句に笑ってくれる。これが営業スマイルだったら本当にどうしよう、僕の弱点部位である精神にかなりのダメージが来てしまう。

伝奇小説を読むとよく僕のように強大な治癒能力を持った敵が出てくるのだが、その手の敵の倒し方は死に続ける環境、例えば溶岩の中などへ放り込むか、精神を破壊するかの二択と決まっている。

もし今後私がバトルに明け暮れる伝奇小説チックな人生を歩むことになったら、ウィークェンドちゃんは強大な敵になるかもしれない。確実に杞憂だが。

「ところでウィークェンドちゃん、僕の髪型を弄るのにはもう満足したかな?君みたいな子にあちこち触られると、僕としては中々に落ち着かないものがあるのだけれど」

最初は亡き妹を思い出して懐かしく微笑ましい気分になっていたのが、絶対的に絶好な絶世のプロポーションが体にぶつかり絶妙な背徳感が込み上げてくる。

人体にぶつかるという表現を使う事はあまり無いのだろうが、本当にぶつかってくるのだから仕方がない。

力の求め方といえば速度×質量だが、ウィークェンドちゃんの場合速度は遅くとも質量が莫大であり、結果として僕に凄まじい"力"が、具体的にカテゴライズするなら"魅力"がぶつかってきている。それが二つもなので、この場合の計算式は速度×質量×2かもしれない。具体的に測量はしていないが、きっと天文学的な数字になるのでビシュテンさんを呼んだ方が良いだろう、これは流石に嘘だが。

「女の子同士なんだからそんな意識しなくても良いのに。あ、でも私を買う女の人って結構居るしなあ」

「…………そっっっかあ、うん、やっぱりウィークェンドちゃんは人気あるよね、なんせ凄く綺麗だしさ」

いや、まあ、当たり前なのだが。娼婦である以上はつまり日々、お仕事を頑張っている訳で、至極当然でありごく自然なのだが、しかしどうにも抉られるような気分になる。

なんなのだろう、この感覚は。別に何かを喪失したわけでは無いのに、何かを取られたような気分だ。

「ゴアちゃんも買ってみるー?歳の近い女の子とか珍しいし、サービスしちゃうよ」

ウィークェンドちゃんは僕の太腿を撫でる。その的確に人間の興奮を煽る手つきに、尋常なく掻き立てられた。

「いや、遠慮しておくよ。僕にはお金と度胸と経験があまり無くてね」

僕は拒む。こんな子を相手にしまったら、間違いなく入れ込んでしまうからだ。

僕は基本的に精神面が未熟だ、欲望を吐露出来る対象を得た時、得てしまった時、確実に良い結果を得られない。それならば現状はどうなのかと言われると、それもまた微妙なのだけれど。

「それに体力も無い、ああそれから他の人にも挨拶に行っておきたいし

「いや、そこまで理由探さなくて良いよ……分かったって……」

どうやら見逃して貰えたようだ、本当に良かった。ごちゃごちゃと並べ立てたものの、はっきり言って僕は判断に困っていただけなのだから。

「うん、それじゃあそういう事で僕は失礼するよ、バイバイまた会おうね」

僕はドアの方へと歩き出しながら手を振る。自分の感覚としては普通に左右に振っているつもりなのだが、どうも小刻みに震えていた。

「あ、でも」

僕は振り返る。

「気が向いたらいつでも言ってね」

最後にウィークェンドちゃんは僕に微笑みかけてくれて、当然ながらやはり想像通りに想像以上な美しさだった。

「う、おっあ。うん」

僕は奇妙な、というか気色悪い相槌を打ちながら、足をもつれさせつつ部屋を出る。

本当に情けない事に、その途中で2回転んだ。

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