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並んだアルカナ(2)

「君は本当に最悪だねぇ〜」

それは自分でも理解している、十全に、十分に、存分に。

「くくっ、君の何がタチ悪いって悪意を無しにそれを成してしまう所だねぇ。人間社会が頑張って築き上げてきた善悪システムへの冒涜だよ。私は罪の重さを測る公式は悪意×結果だと思うんだが、君の場合は悪意0×結果120といった感じかな。確かに無罪だがねぇ、そんなのはインチキみたいなものだよ。悪意+結果の式を採用するなら其処其処そこそこのスコアになるんだけど、こっちだと測れるのは罪というより人間性になってしまうんだよねぇ、故に君は最悪だ。いやはや面白い人間を見たよ、おねーさんは君の事中々気に入ったぜぃ」

心理学の天才であるサイカ・コールロジックさんは、僕を見た瞬間に僕を診て、診断を下し審判を下す。

僕は別に診察を受けに来ていない。確かに僕の身体特性上、診察を受ける事があるとしたら精神科である事は確定なのだけれど、そもそも心理学者と精神科医は似ているが別物だ。

「どうしてそこまで診断を、断定を出来るんですか?僕はまだ入室してこんにちはと言っただけですよ」

僕は、これから交流を持っていく事になるであろうサロンメンバーの方々に挨拶でもしていこうかという事にした。別にそうした決まりはないが、僕としても天才と呼ばれる人達に興味がある。そうして最初に挨拶しにいった人がコールロジックさんであり、ドアを開けるや否や飛んできたのが先程の言葉だ。ちなみにディーテさんと同じ学問統括機構アカデミー所属らしい。

「傾向と勘による決めつけ」

「ヤマを張ったんですか、というかレッテル貼りじゃないですか?それは」

「診断というのは最も確率の高いレッテル貼りの事だよ」

「そんな事……いや、でも他ならぬ心理学の天才が言っているんだもんな」

「それもまたレッテル貼りだけれどねぇ」

コールロジックさんは笑う、猫が獲物を弄ぶように。

「もしかしてですけど、僕の論を右往左往させて遊んでます?」

「今日は可愛い女の子と遊びたい気分でねぇ」

「じゃあ僕の可愛さに免じて教えて欲しいんですけれど、さっきのはどこまで本当なんですか?」

「さあ」

さあって。

「寧ろ私がどこまで当たってるのか教えて欲しいよ、私は論理じゃなくて感覚で診断と判断をしているタイプでね」

「そんな冗談みたいな芸当が出来るものなんですか?」

「本当にねぇ、私も吃驚びっくりしてるんだよ。なんとなくで人間の心ってこんな感じの仕組みなんじゃないかなぁって思ったら、それがことごとく当たってるんだから」

天才っぽいな、と僕は思った。人が勉強して知識を身につけ、そこから傾向を見つけて、ようやく漕ぎ着けることのできる物に、そのプロセスをすっ飛ばしてすんなり掴めてしまう。

ある種ズルにも近い事を先天的に備わった能力で成し得てしまう。天才とはそういう物なのかもしれない。

これも所詮レッテルだけれど。

「まあ、これはちょっとした一発芸だから気にしなくて良いよ、今の所100%当ててるだけで占いみたいなもんだからねぇ」

信憑性抜群じゃないか。さながら当たるも八卦当たるも八卦といった所だろうか、縮めて当たるも十六卦、なんてねぇ。

「私の真似して遊ぶんじゃないよ」

「なんで分かるんですか……そこまでいくともはや読心術ですね」

「あるいは診察ならぬ心察かな、くくっ。しかし、最初は随分シケた面と内面と人生と雰囲気の奴が来たなと思ったけど」

シケすぎだ、僕はそんな梅雨みたいな人間じゃ……いや、そうかも。

「でも君のこの感じはアレだな、接すれば接する程味が出てくるタイプのキャラクターだねぇ。今後もおねーさんが仲良くしてやるから、一杯会いに来なよ」

コールロジックさんはそう言って、僕の頭をワシャワシャと掻き回す。撫でようとしてくれているのは分かるのだが、結果として僕の頭髪に奇妙な寝癖のようなものが形成されるだけだった。

「そうそう、コールロジックさんと呼ぶのは止めるように。サイカさんかおねーさんかお姉様と呼び給えよ」

「まだ貴方の事は一度も口に出して呼んでないんですけれどね、でも分かりました。それじゃあ、失礼しました、サイカさん」

僕は振り向いて部屋を出る、先程コールロジックさんが

「"サイカさん"と今後は呼んでくれるんじゃないのかい?言ったそばからとは酷いねぇ」

「……もう少し待ってください、慣れなんですよこういうのは」

「くくっ、気長に待ってあげるとするよ」


僕は今度こそ部屋を出て、歩きながら最初に言われた事を反芻する。

悪意のない最悪。

0の悪意でもたらす、120の結果。

それはまるで妹が焼け死んだ時と恋人が自殺した時の総括というか、簡単なまとめをされたような気がした。

その点サイカさんは優しかったのかもしれない。

インチキみたいな計算方法とはいえ、悪意さえ持っていなければ無罪であると、本筋ではなく副次的な話題として、迂遠ながらも、サイカさんは告げてくれていた。

僕はそうは思えていない、あの時も、今も、そして多分これからも。

まあ、こんなどうしようもない、取り返しのつかない事でうだうだと考え、いくら読心術の使い手が相手とはいえ、あまつさえ慰めさせるなんていうのはそれこそ

「正常じゃないよなぁ……」

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